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「老害」の何が問題なのか。シニアvs.若者という対立を煽るために使われる“嫌な言葉”

ネット上のみならず、実生活でも頻繁に耳にするようになってしまった「老害」なる言葉。近年は「ソフト老害」なる新語まで登場し、40代以上の人間がそのターゲットとされる事態となっています。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合さんが、「老害」という言葉を「シニアvs.若者という対立を鮮明にするために使われているようにしか思えない」と分析。さらに「本来の老害」の一番の問題を考察しています。

※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:「老害」という思考停止

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

「老害」という思考停止

「ソフト老害」なる言葉が話題になっています。

きっかけは3月31日に放送作家業を引退した鈴木おさむさんです。1月に著書『仕事の辞め方』を出版し、そのなかで「30代の人と自分たちより上の世代の人の間でバランスを取り、若い人の気持ちがわかるふりをしながら、結果として若者たちの意見を潰している」状態を“ソフト老害”としたのです。

鈴木さん自身「若者に嫌われたくない気持ちから、ソフト老害になっていた」とのこと。それが結果的に、若者が能力発揮する機会を邪魔していると、自戒もこめて世間に訴えたかったのでしょう。

かつて株主総会で株主から「若い社長が就任できないのは、あなたの存在が原因なんじゃないのか。老害という言葉もある」と問われ、「私は確かに後期高齢者です。老ではあるが、害ではない」ときっぱり言い放ったトップがいたけど、いまや40代で煙たがられる時代に突入してしまいました。

昨年は「#老害意見」が話題になったことも。X(旧Twitter)利用者のある男性が「老害意見かもしれないけど、若い方は飲み会で年上の方におごってもらったら翌日の朝一番で対面でお礼言いに行ったほうがいいと思います」と投稿したことに対し、#老害意見がつけられ、瞬く間に拡散されたのです。

あまりのバズりっぷりに男性も驚いたようで、翌日には、「一方的なアドバイスになったこと、飲み会で嫌な思いをされた方への想像もつかなかったことはおわびします」と謝罪投稿をする事態に発展しました。

…老害。嫌な言葉です。

個人的には「老」に「権力」というものがかけ算されたとき、結果的に「害」になる、と考えていたのですが、最近は「年をとった」だけで老害と言われてしまうのです。

要するに「老害」という言葉は、ある年齢、おそらく50歳くらい?を過ぎた人の言動を指し、40代だと老害予備軍の「ソフト老害」です。今の日本は、大人人口(20歳以上)の10人に8人が40歳以上、10人に6人が50歳以上ですから、会社は老害だらけ?ということでしょうか。んなわけない、ですよね。

会社自体が「50歳以上を要なし扱い」してるという現実があるにせよ、シニアvs.若者、中高年vs.若者、老人vs.若者という対立を鮮明にするために、「老害」という言葉が使われているようにしか思えません。

本来、若者には若者のいい面があるように、シニアにもシニアだからこそのいい面がある。どんなに物忘れがひどくなろうと、一人でできないことが増えようとも全ての年齢に、その年齢ならではの武器が存在します。

これだけ「それ多様性だ!」「ほれダイバーシティだ!」という言説が飛び交っているのに、なぜ、年齢差別はオッケーなのか。老害はオッケーで、おばさん、おじさんは、なぜNGなのか?

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欧州に駐在する知人によると、老害という言葉はないけど「エイジズム(年齢差別)」への関心は高く、年齢で役職をおろしたり、業務を変えるなどした場合会社側は厳しく罰せられるとのことでした。

米国も欧州同様、エイジズムは厳しく罰せられるので、部下の年齢を上司が把握してないケースも少なくありません。

一方で、バイデン政権になってから「gerontocracy(老人支配)」という言葉が、頻繁に使われるよういなりました。22年には“One thing Americans agree on? Our politicians are too old.”という記事が話題になりましたし、今年の11月の本選挙が「バイデンvs.トランプ」の再戦の様相が強まっているため“gerontocracy=老人支配“を批判する記事が頻繁に投稿されています。

が、これらはすべて政治家に向けられた言葉であり、日本の「老害」とは少々異なります。

日本もかつて「老害」は政治家に向けられたものでした。

松本清張の『迷走地図』では、若手のホープと目された2世議員が、パーティーの演説で「老害よ、即刻に去れ」と政権のたらい回しを痛烈に批判し、参加者から拍手喝采される様子が描かれています。

ちなみにこの小説は永田町界隈の闇を描いた40年ほどまえの作品です。本著には「ヤミ献金」や「ペイバック」という、今で言うところの、裏金やキックバックと同じ意味を持つ言葉が記されています。あの頃と日本は…いや、正確には政治の世界は全く変わっていないのです。

本来であれば今の若手政治家こそ「老害よ、即刻去れ!」と裏金問題を一刀両断してほしいのですが、残念ながら「若手議員」からはそんな心意気も反骨精神も感じられません。

いずれにせよ、老害の一番の問題は「自己認識のなさ」であり、権力を手にし、絶対感を一度でも味わうと人は、自分が見えなくなる。だからこそ、「老害」という言葉で思考停止しないで、年齢に関係なくすべての人が生き生きと働くことを考えなきゃいけないのです。

では、老害がどんな思考停止を具体的に招いているのか?これ以上書くと長くなりますので、またの機会にしましょう。

みなさまのご意見、感想、経験などお聞かせください。

【関連】今度は「ソフト老害」トレンド入りも「若者に媚びるオッサンのほうがキモイ」反発の声。3、40代は八方塞がり?「世代間対立煽り」に注意を促す声も

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