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またも「核の恫喝」を始めたプーチン。なぜ欧州はロシアを刺激する“NATO軍のウクライナ派兵”を口にし始めたか?

開戦から2年3ヶ月を過ぎたウクライナ戦争。ここに来て欧州の指導者たちがこれまでとは異なる姿勢を見せ始め、プーチン大統領はまたも核の恫喝を口にする事態となっていますが、その裏にはどのような思惑や事情があるのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、戦争勃発からこれまでの流れをあらためて振り返るとともに、各国が置かれている現状を解説。さらに欧米が躊躇していたウクライナ支援に突如前向きになった理由を考察しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:プーチンの核恫喝と各勢力の思惑

プーチンの核恫喝と各勢力の思惑

今日は、今世界で起こっていることの「全体像」を、しっかり理解しましょう。

プーチンが、また「核の恫喝」をしています。「共同」5月29日付。

訪問先ウズベキスタンで記者会見したプーチン氏は、欧米が自国部隊の派遣や、欧米製兵器を使ったロシア領内への攻撃容認などで事態を悪化させれば米ロの「戦略兵器の均衡」が崩れて深刻な事態を招く恐れがあると指摘。「彼らは世界的紛争を望むのだろうか」と述べて、核戦争に発展する可能性を示唆した。

これまでの流れ

まず、これまでの流れをざっく復習しておきましょう。

2022年2月24日、ロシアがウクライナ侵攻を始めました。

プーチンは当初、明らかに「ウクライナ全土の支配」を狙っていました。その証拠に、ロシア軍は、ウクライナの首都キーウに進軍したのです。しかし、ウクライナ軍は、首都に進軍してきたロシア軍を撃退。以後、ロシア軍は、すでに占領した地域から大きく前進することができませんでした。

ロシア軍の苦戦にあせったプーチンは2022年9月、すでに占領していたウクライナ4州を併合しました。4州とは、ルガンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、へルソン州です。ただし、ロシア軍が州全土を占領できているのはルガンスク州だけです。

2023年になっても、ロシア軍の劣勢が続いていました。そして、ロシア軍と民間軍事会社ワグネルの対立が激しくなっていきます。主な理由は、ロシア軍からワグネルに十分な弾薬が提供されなかったことです。2023年6月、「プリゴジンの乱」が起こりました。この当時、世界中の人々が、「ロシア軍、ボロボロだな」と考えていたのです。

同じ2023年6月、ゼレンスキーは、「反転攻勢開始」を宣言しました。しかし、「反転攻勢」は失敗に終わります。失敗した主な理由は、二つ考えられます。

一つは、反転攻勢開始の時期が遅すぎたこと。アメリカは、「4月開始」を主張しましたが、ウクライナは「西側から十分な兵器が届いてから」と開始を2カ月遅らせて、6月にしたのです。この2カ月間で、ロシアは地雷原、塹壕などを築いてしまい、反転攻勢が困難になったのです。

もう一つは、ウクライナ軍の戦略ミスです。アメリカは、「南進にほとんどの戦力を集中させ、クリミアに向かって進軍せよ」と提案しました。ところがウクライナは、東、南、南東の三方面への進軍を主張し、実際そうしたのです。結果、ウクライナ軍の戦力は分散され、どの方面でも勝利することができませんでした。アメリカは、我を通して予想通り勝てなかったウクライナ軍にあきれたことでしょう。

そうこうしているうちに2023年10月、「イスラエル―ハマス戦争」がはじまりました。アメリカの関心は、ウクライナから中東に移ってしまいました。アメリカの「ウクライナ支援熱」は冷めていきます。さらにウクライナが反転攻勢に失敗したことで、そもそもウクライナを支援したくないトランプ・共和党が支援継続に反対するようになります。結果、主にトランプ・共和党が多数派を占める下院の反対で、アメリカはウクライナ支援を継続できない状況になっていたのです。

それで、ウクライナでは、三つの大きな問題が起こってきました。一つは、前線における弾薬不足です。当然ロシア軍が優勢になっていきます。もう一つは、都市を守る防空システムに使われる「パトリオットミサイル」の不足です。結果、ロシアのミサイルやドローン攻撃が、町を直撃する回数が増えました。さらに、ウクライナ軍の士気の低下です。「アメリカから見捨てられている。弾薬は送られて来ない。俺たちは勝てない。いずれ死ぬ」という展望は、士気を低下させます。

ウクライナ、アメリカ、欧州、ロシアの現状

ここまで、ざっくりこれまでを振り返ってみました。次に各勢力の現状を見てみましょう。

まず、アメリカでは4月末、ようやくウクライナ支援緊急予算が成立しました。「産経新聞」4月25日付。「米、ウクライナ支援緊急予算が成立 バイデン大統領が署名」。

バイデン米大統領は24日、ロシアの侵略が続くウクライナ向けに約600億ドル(約9兆3,000億円)の支援を盛り込んだ緊急予算に署名し、予算は成立した。バイデン政権は停滞した軍事支援を速やかに再開し、ウクライナの戦場で不足する武器弾薬の補充や、露軍の空爆で消耗した防空システムの強化を急ぐ方針。

アメリカがウクライナを支援する9兆3,000億円というのは、ロシアの2024年度軍事費の約半分にあたる額です。

次に欧州の動きです。欧州では最近、二つの主張がでてきています。

一つは、「欧州がウクライナに供与する武器で、ウクライナがロシア領内を攻撃することを許可しよう」という動き。ということは、これまで許可していなかったということです。欧州もアメリカも、ウクライナーロシア戦争の激化を望んでいないからです。

ところが、NATOのストルテンベルグ事務総長、フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相などが、「ロシア領攻撃容認」に立場を変えてきました。「ロイター」5月29日付。「『世界紛争引き起こす』 プーチン氏、西側供与の武器を使ったロシア領攻撃容認論を強くけん制」。

NATOのストルテンベルク事務総長は英誌エコノミストに対し、ウクライナが西側から供与された武器でロシア領内を攻撃することを同盟国は容認すべきとの考えを示し、一部加盟国もこの立場を支持した。

マクロン仏大統領は28日、次のように述べた。「われわれは彼ら(ウクライナ)に、『あなた方に武器を供給するが、あなた方は身を守れない』と言っている。ミサイルを発射した軍事施設を無力化することを認めるべきだと考える」

ドイツのショルツ首相は、マクロン大統領に同意し、ウクライナが国際法に従い、武器を提供した国々から与えられた条件を尊重する限り、自国を守ることは許されると述べた。

欧州の最近の主張二つ目は、「NATO加盟国がウクライナに派兵する可能性」についてです。これは、主にフランスのマクロン大統領が主張しています。「JBPress」4月14日付。「『ウクライナ派兵』をぶち上げたマクロン仏大統領はNATOの旗手か、それとも単なる目立ちたがり屋か」。

ウクライナ戦争勃発から2年が経過した2024年2月26日、フランスのマクロン大統領が、対ロシア軍事戦略を話し合う国際会議で、「欧米の地上部隊をウクライナに派兵する可能性を排除しない」と爆弾発言し、NATO(北大西洋条約機構)に激震が走った。

これが実現すると、「ウクライナ―ロシア戦争」は「NATO―ロシア戦争」に転化し、「第3次世界大戦」勃発です。

では、欧米の動き

これらは、いずれも「ウクライナに都合のいいこと」でしょう。

なぜ、ウクライナ支援を半年ぐずっていた欧米は変わったのでしょうか?それを知るためにウクライナの現状を見てみましょう。

一言でいうと「ヤバイ状況」と言えるでしょう。欧米が放っておけば、年内に敗北するかもしれない。これ、私ではなく、CIAの長官が断言しています。「産経新聞」4月19日付。「米CIA長官、軍事支援なければ『ウクライナは年内敗北の危険性が非常に高い』」。

米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は18日、ロシアの侵攻が長期化するウクライナに米国が軍事支援をしなければ「年末までに敗北する危険性が非常に高い」と述べた。南部テキサス州ダラスでの会合で語った。

アメリカも欧州も、ウクライナに負けってもらっては困ります。特に欧州は深刻です。というのも、ウクライナ戦争で勝利したプーチンは、おそらくそこでとまらないからです。次のターゲットになるのは、旧ソ連のモルドバ、バルト三国(リトアニア、エストニア、ラトビア)でしょう。実際、モルドバでも、バルト三国でも、ロシアが「ハイブリッド戦争」の準備を進めている兆候があります(この情報は、日本のメディアにはまだ出てきていないようですが)。

バルト三国は、NATO加盟国。もしロシアがバルト三国に侵攻すれば、自動的に「NATO―ロシア戦争」が勃発することになります。

結局、冷静に考えれば、「ウクライナを支援して、ロシアの侵略を食い止める」のが「もっとも安上がり」であることがわかるのす。ウクライナは気の毒ですが、残念ながら「そういう計算」になってしまいます。

さて、最後にロシアの立場です。ロシアでは、大きく二つの動きがあります。

一つは、ルガンスク州、ドネツク州の北に接するハルキウ州を猛攻していること。これは、「アメリカの支援がとどく前に、できるだけ支配地域を拡大しておこう」ということでしょう。

もう一つは、最初にでてきた、プーチンの「核による脅し」です。これは、

ことが検討されていることに対するけん制です。

まとめてみましょう。現状、

といった感じになります。

今後の見通しですが、ウクライナにアメリカの支援が届けば、戦況が変わるでしょう。ウクライナがロシアを押し戻し、再び膠着状態になる可能性が高いと思います。ですが、「アメリカの支援がきて、ウクライナが4州とクリミアを奪還できる」という感じにはならないでしょう。

アメリカは現在、「4正面作戦」を恐れています。つまり、「ウクライナ―ロシア戦争」「イスラエル―ハマス・イラン戦争」に加え、「台湾―中国戦争」「韓国―北朝鮮戦争」が勃発してしまう。それで最近は、アメリカも欧州も日本も、少し中国に歩み寄っているのです。「三正面作戦」「四正面作戦」にならないように。

中国にすり寄っているようにみえる岸田さんの動きも、すべて「アメリカの意向」に沿ったもの。別に「アメリカを裏切って中国にすりよっている」わけではありません。

以上、現在の「大局」でした。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2024年5月30日号より一部抜粋)

image by: Sodel Vladyslav / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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