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大暴発で日本をも巻き込む“惨禍”を生み出すのか、アメリカ本土への「核発射」で勝手に自爆か?北朝鮮という最も厄介な“隣人”

10月上旬から中旬にかけウクライナを侵攻するロシアに兵士を派遣し、31日には最新型のICBMを発射した北朝鮮。近く7度目の核実験を行う可能性も指摘されていますが、北朝鮮はいかなるビジョンを持ちかような行動に出ているのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、さまざまな情報を分析・総合し彼らの狙いを考察。その上で、北朝鮮の存在と行いが今後の国際社会を変えるトリガーとなる可能性を指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:国際情勢におけるWild Cardになろうとしている北朝鮮‐戦争の連鎖はアジアを飲み込むのか?

今後の世界を変えるトリガーに。北朝鮮が引き起こす混乱の渦

「ロシア国内で訓練を受けた北朝鮮軍の兵士1万2,000人ほどのうち、先行部隊として3,000名ほどがクルスク州に送られたことが確認された」

この報道に触れた際、「これが本当だとしたら、ロシア・ウクライナ戦争が別のステージに移ったことになるが、それはまた戦争の飛び火が北東アジア地域、特に朝鮮半島に及びかねないことになるなあ」と懸念を持ちました。

NATOの情報部隊も、韓国政府の情報筋および議会も、そして当のロシア政府もその情報が本当のことであることを示したことにより、これはFactとして扱われることとなりますが、北朝鮮軍のロシア・ウクライナ戦線への“投入”はどのような意味を持ち、どのような影響を与えるのでしょうか?

いろいろな分析内容を見てみると、北朝鮮軍の“参戦”はあまり戦況に大きな影響は与えないだろうと考えられます。

その理由は、参戦している北朝鮮軍は陸上部隊であると当時に、一部報道であったような特殊部隊ではなく、どうも建設工部隊と見られており、前線での戦闘に直接参加するというよりは、ロシア軍がクルスク州を奪還したり、ウクライナ東部のドネツク州などで進軍していく集落の復興や橋などのインフラの再建に投入されたりするのが主だった役割だろうと見られていることがあります。

とはいえ、一応、戦闘用の装備一式は供与されているということですので、実際にはどうかは分かりません。

次にメディアでも取り沙汰されているように、前線のロシア兵からは歓迎されている雰囲気はなく、どちらかというと罵られているという情報があるため、まだ戦闘(コンバット)において互いの背中を預け合うほどに信頼関係が醸成されておらず、戦力の拡大には直接的につながらないとの見方ができることです。

既にロシア軍が北朝鮮製の弾道ミサイルや武器を対ウクライナ実戦投入していることは確認されているため、北朝鮮が間接的に“参戦”していると言えますが、これまで表向きにはforeign agentsは参戦していないと言われてきたところに、北朝鮮軍の戦闘員が国境線に配備されているというのは、この戦争に新しい心理的なインパクトを与えることには、つながるものと考えます。

ただこの“心理的な影響”はウクライナ戦争だけに留まらず、実はより大きなインパクトが遠く朝鮮半島情勢に暗い影を落としていると言えます。

北朝鮮による“派兵”を受けて、それを【ロシアと北朝鮮の密接な関係がさらに強化された】と認識した韓国政府は、この事態を非常に警戒し、「もしかしたら、これは北朝鮮が望む朝鮮半島情勢の現状変化に、ロシアが相対で直接的に関与し、朝鮮戦争有事の際には、ロシア軍が、これまでの後方支援のみならず、ラインを越えて直接的に参戦するのではないか」と懸念と疑念を抱いているようです。

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韓国政府の行動がロシアに与えかねない「格好の口実」

報道では「韓国政府は北朝鮮兵の活動監視のためにウクライナに要員を送る」と報じられていますが、現時点では韓国軍のウクライナへの派兵には至らず、あくまでも情報収集のためとのことですが、ウクライナの求めに応じて武器弾薬の提供も選択肢に入っているようだ、と、先日ソウルで協議した複数の専門家が話しています。

この“武器供与”の部分については、その出所とされるアメリカ軍は韓国軍に対して「あくまでも防衛のための装備に限定すべき」と慎重な対応を要請しているようですが、韓国政府が自国の安全保障への脅威を強く感じた場合、自国民への義務・国家安全保障上の必要な支援と位置付けて、ウクライナに対ロ攻撃用の武器・装備を供与する可能性も否定できないようです。

もし韓国政府がウクライナに対して攻撃用兵器を供与することを決めた場合(実際に検討されているらしい)、それはロシアに対して複数の点について格好の口実を与えることになります。

1つは【韓国を親NATO国と認定し、有事の際には攻撃対象にし得る】という点です。

これは見事にこれまでお話ししてきたような“朝鮮半島有事”の場合に、【友好国である北朝鮮が韓国からの脅威に曝されているため、ロシアは介入・派兵の口実を得る】というものです。

妄想と言われたらそれまでですが、全くあり得ないシナリオとは言い切れないでしょう。

2つ目は【ロシアが中国との微妙なギクシャクを修正するために、韓国とその背後にいる日米豪などを脅威としてアピールし、北東アジアの安全保障環境を緊張させる】ことです。

こうすることでロシアは国際社会の注目を北東アジアに向け、ウクライナ戦線およびBeyondウクライナ(バルト三国など、反ロシアの国々)に手を伸ばす時間的な余裕を得ることに繋がるかもしれません。

しかし、中国はあまり当該地域の緊張の高まりを、現時点では望んでおらず、今、国際社会の目が中東地域とロシア・ウクライナに向いている間に、アジア太平洋地域での勢力拡大に勤しもうとしているように見えますので、よほど差し迫った危機がない限りは、ロシアの誘いに簡単に乗ってこないかと思われます。

ただ、中国としては昨今、ロシアと北朝鮮の接近により、北朝鮮政府に対する影響力が低下しているというジレンマが問題視されているのも事実で、見事に北朝鮮のゲームに乗せられていることは自覚しつつも、コントロールを維持する方策を模索しているようです。

中国が前のめりになりやすい状況の例としては、もし日米韓プラスアルファによる朝鮮半島およびアジア地域への介入度合いが、中国にとって過度であり、かつ中国を敵視しているという認識を示す場合です。

この場合、若干ギクシャクしているとはいえ、反米勢力圏を拡大することで目的が一致しているロシアと中国は、一旦ギクシャクは横に置き、北朝鮮への脅威を“自分たちへの挑戦”とすり替えて、北東アジア地域での緊張を利用する戦略を取るかもしれません。

中国政府は北朝鮮の核兵器の能力が向上し、かつ弾道ミサイルの能力が格段に上がっていくことを良くは思っていませんが、北東アジア地域およびアジア太平洋地域における日米韓の影響力の高まりを止める楔として、北朝鮮の行いを正当化するか黙認し、核兵器の開発・存在さえも、対日米韓陣営の勢力拡大を阻む抑止力として利用することも考えられます。

この心理を北朝鮮の当局は戦略的に今、用いているようです。中国が頑なに反対する北朝鮮による7回目の核実験も、それを強行する可能性をカードとして用い、ロシアからの支援とロシアとの協力を強化しつつ、中国から何か(恐らく経済・食糧支援など)を引き出そうという魂胆が見えてきます。

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北朝鮮が中国に協力を申し出て恩を売っているという見方も

中国政府(習近平体制)にとっては、アジア太平洋地域が最重要地域であり、戦略的に地域での影響力の基盤を固め、拡大することに重点を置いています。中華帝国の再興・拡大が目的ではなく、勢力圏の拡大が重要戦略と言われています。

自国の一部と主張する台湾を確保し、アジア全域における影響力と経済的な利権を確保・拡大することが政治的な最重要戦略であるため、それに横やりを入れられることを嫌って、国際社会の目とリソースを地域外に向けさせる努力をしているものと思われます。

例えば、歴史的な“成果”としてサプライズを与えたイランとサウジアラビア王国の国交回復の仲介や、北京宣言によるOne Palestineの形成の仲介などは、世界の注目をそちらに向けて、自国周辺の情勢への介入を可能な限り避けようとしています。ロシア・ウクライナ問題へのつかず離れずの態度は、ロシアへのシンパシーと遠慮もあるでしょうが、時折、仲介・調停の労を担う準備があることを表明して、国際社会の注目をアジアから離そうとしているとも考えられます。

それに北朝鮮が協力を申し出て恩を売っているという見方も可能ではないかと考えます。

最近、北朝鮮の外務大臣(崔善姫外相)がモスクワを訪れてラブロフ外相と話すというニュースが流れ、「これこそが北朝鮮とロシアの親密さを示すもので警戒すべき」という分析がなされていますが、実は中国の関係者も同時期にモスクワ入りしていますし、また朝鮮労働党の別の幹部が北京を訪問して、王毅外相と協議しているという情報も入ってきています。

“戦争の枢軸”の一角であるイランと北朝鮮の直接的な接触は表に出てきていませんが、実際には過去にイランが北朝鮮に武器の供与を行ったという分析もあれば、相互に核技術に関する情報とノウハウを提供しているという情報もあるため、今、現在、国際情勢の端々で何らかの戦いに直面している4か国は、水面下ではもちろん、様々な接点で協力関係にあると見ることができます。

ロシアはウクライナとの戦争を通じて、アメリカと欧州、そしてその仲間たちと戦い、「ウクライナ問題が決着した後の(親ロの)外交相手の見定め」をしていると考えられます。

中国は、絶対的な利害としての台湾問題への過度な干渉を防止すべく、アメリカとの対立関係を際立たせながら、世界各地でアメリカを苛立たせ、中東やコーカサスで進む戦争をじりじりと長引かせる手助けをすることで、自らの勢力圏を固め、台湾への影響力の拡大も狙っています。

イランは長年の地域ライバルであるイスラエルとの対峙を続け、ヒズボラやフーシー派などを後方支援しつつ、イスラエルの権益に攻撃を加え、中国などの助けも得て、一旦、アラブの周辺国との対峙を棚上げし、緩い連合ではありますが、取り急ぎイスラエル包囲網を築き上げ、その扇のかなめの位置に自国をおいて、イスラエルという国家安全保障上の、そして生存のための脅威を取り除くか軽減するための方策を練っています。

アメリカをはじめとする欧米諸国からの厳しい経済制裁の対象になっていますが、そのロスを中国やロシアに埋めてもらいつつ、国家資本主義的な陣営の拡大に一役買っています。

そして北朝鮮は貧しく困った国というイメージを他国に持たせつつ、実は上手に戦争の枢軸内でのバランサーとしての役割を果たすのみならず、北東アジア地域の非常にデリケートな安定を維持するための調整弁的な位置づけを取ろうとしているように見えてきました。

まさにワイルドカードとも言えるのかもしれませんが、その狙いが的中するかどうかは中ロの意向次第かと思います。

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核軍拡の波を世界各地に拡げるトリガーになる可能性も

枢軸外の地域諸国に対しては、ミサイル発射などを用いた瀬戸際外交を展開して脅威を与え、それを止める代わりに支援を取り付けようとしますが、“同盟国”としての中ロに対しては、両国からの支援を引き出すために、それぞれを激怒させないぎりぎりのラインを綱渡りのように歩き、体制の維持のための様々な支援を得ようとしています。

これまでのところ、まだこの戦略は機能しているように思いますが、中国またはロシアが本気で北朝鮮を切り捨てるような事態に陥るようなことがあれば、北朝鮮は生き残りのために根本的に戦略を練り直すか、またはそのまま消え去る運命になるのかの選択肢を迫られるかもしれません。

北朝鮮の物理的な存在は、現在、中ロにとっては米国に支配される自由資本主義社会・民主主義陣営と、国家資本主義体制・全体主義体制を隔てる究極のバッファーとして機能しており、それは逆側にとっても然りですが、その現実こそが北朝鮮と韓国が相互に願った朝鮮半島統一を現実的に不可能にしている背景です。

どちらの体制も「反対側に統一された統一朝鮮は見たくない」のが本音と言われています。ゆえにトランプ氏が大統領の際、板門店で金正恩氏と会談を行い、その際、一瞬だけ北朝鮮側に足を踏み入れた事実は、韓国ではとても大きなショックとして受け止められたそうです。

その懸念は、バイデン政権に変わり、北朝鮮が完全にアメリカ敵視政策に回帰したことで無くなったと思われていますが、その分、体制維持をかけて金正恩の北朝鮮の中ロへの傾倒が強まっています。

北朝鮮にとって運命的な変化が訪れたのは、ロシアによるウクライナへの侵攻ですが、それを機にロシアの不足を北朝鮮が埋め、その見返りにロシアの最新鋭の宇宙技術やロケット技術、そして恐らく核兵器製造のノウハウを得ることになり、ミサイルの精度・性能が向上しただけでなく、予てより懸念されていた核弾頭の最小化と、弾道ミサイルの大気圏突入のための技術を獲得したことで、北東アジア地域における軍事的プレゼンスを自ら獲得するに迄至っています。

今後、金体制の継承がなされるか否かは分かりませんが、必ず浮かび上がってくる大きな懸念こそが【北朝鮮の核の管理を誰がどのように行うのか】というBig questionです。暴発して地域全体を巻き込む惨禍を生み出すのか?意地で米国への発射を試みて自爆するのか?それとも…。

現在、ウクライナ情勢を巡ってロシアのプーチン大統領による核使用の脅しがよく取り上げられますが、それはウクライナのみならず、Beyond Ukraineの欧州各国がロシアの直接的な核の脅威に曝されることを意味するからですが、今後、そのロシア、中国、そして北朝鮮、さらには米国が核保有国として存在する北東アジア地域は、北朝鮮による核兵器使用の脅しによって、一気に緊張が高まることになります。

それで北朝鮮が得るものは「簡単にアメリカなどに攻め込まれることがない」という国家安全保障かもしれませんが、もしミサイルのみならず、お得意の“列車などでの核兵器・ミサイルの移動”が可能になったとすれば、世界各地の紛争に対しても少なからず影響を与えうる事態がそう遠くないうちに生まれるかもしれません。

もしかした同盟国であるイランに核兵器が供与されるかもしれませんし、それがアラブ諸国の核保有を加速し、核軍拡の波を世界各地に拡げるトリガーになる可能性も否定できません。

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世界の紛争と緊張に影響を与える存在になりつつある北朝鮮

中東問題ではイランのバックにいて、ロシアとウクライナ戦争の背後ではロシア側について武器供与のみならず、戦闘部隊の提供を行い、アジアにおいては、微妙な緊張をベースに中国を自らの側に寄せ、同胞韓国に対してはアメリカ離れを求めるための材料として核兵器を保有するという“緊張と脅威”の全方面対応を“弱者の戦略”として提示することで、もしかしたら世界で同時進行する数々の紛争に対して影響を与えうるワイルドカードという立ち位置を手に入れるのかもしれません。

ウクライナの戦争も、イスラエルと反イスラエル(親イラン)勢力との複数正面での終わりなき戦いも、アジアで高まる中国の影響力の拡大のトレンドとアジア諸国のアメリカ離れの加速も、そしてアフリカで広がる内戦の行方にも、北朝鮮は目立たずとも影響を与えうる存在になってきているのかもしれません。

これまで複数案件の調停プロセスを同時進行的に進める中で、見えてきた“もの”を今回描いてみました。

見当違いかもしれませんし、北朝鮮は内紛で自爆して何ら影響を与えられない存在なのかもしれませんが、現行の国際情勢を俯瞰的に眺めてみた時、浮かび上がってくる北朝鮮の存在と行いが、もしかしたら今後の世界を変えるトリガーになるかもしれません。

以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2024年11月1日号より一部抜粋。続きをお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録ください)

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image by: 朝鮮労働党機関紙『労働新聞』公式サイト

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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