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中国の動きを加速させるだけ。トランプが「アメリカ・ファースト」を叫べば叫ぶほど世界で高まる米国への警戒

接戦必至との前評判を覆し、アメリカ大統領選で圧勝したトランプ氏。選挙戦のさなかには「再任なら中国への関税大幅アップ」を公言したトランプ氏ですが、習近平政権は新大統領とどのように向き合ってゆくのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂さんが、中国が米大統領選の期間中に見せていたさまざまな動きを紹介するとともに、そこから見て取れる彼らのアメリカに対する姿勢を分析。さらにトランプ氏が叫ぶ「アメリカ・ファースト」が加速させかねない動きを予測しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:返り咲いたトランプと向き合う中国

返り咲いたトランプは中国にとって「吉」か「凶」か?関税だけじゃない不安要素

ドナルド・トランプの大統領への返り咲きは中国にとって「吉」なのか、それとも「凶」なのか──。

日本で多く聞かれるのは「トランプは習近平やプーチンなど強いリーダーが好きで、ディールを重視するため中国は御しやすい」といった分析だ。しかし、少なくとも中国がホッと胸をなでおろす状況にないことだけは間違いないだろう。

次期大統領がトランプなのか、カマラ・ハリスか。それは米中関係の未来を占ううえで確かに大きな変数であった。しかし、選挙が終了したいま、変数が減ったのか、といえばまったくそうではない。

まず、見極めなければならないのは人事だ。

前政権で重用された閣僚が再登板ということになれば、中国はいきなり厳しい選択を迫られることになる。

トランプ前政権時に閣僚だった元国務長官のマイク・ポンペオを筆頭に、中国が個人的に制裁を科し、入国を制限している人物が少なからずいるからた。

トランプの性格からして、中国に配慮してそうした面々を人事から外すとは考えにくい。

対する中国も一度制裁を科した相手を軽々とそのリストから外すことはない。

もちろん、第三国で会うという折衷案もあるにはある。しかし、米中という2大国が滑り出しからぎくしゃくする印象を世界に与えることは避けられない。

予想外に多くトランプに流れた中南米系有権者の票

今回の大統領選挙の特徴は「稀に見る接戦」だったはずだ。しかし、ふたを開けてみると「トランプ圧勝」というべき内容だった。

その原因は何か。指摘されるのは、アメリカ内外で見られた多種多様のネジレや対立だ。

象徴的であったのは、移民対策で厳しい姿勢をアピールしたトランプに、中南米系の有権者の票が予想外に多く流れたことだ。

移民の有権者のなかでも、すでにアメリカ国籍を取得し、社会に溶け込んでいる人々にとって、違法な手段で国境を越えようとするニューカマーは、中南米系住民への印象を悪化させる迷惑な存在であり、それを厳しく制限するトランプの政策は歓迎された。

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従来からの「方程式」が通用しなくなったという事実

さらに興味深いのはアラブ票の行方だ。

大統領選挙の直前、カタールのテレビ局・アルジャジーラは、アラブ系有権者内部の分裂を米中西部ミシガン州のデトロイト郊外にあるディアボーンからの中継で伝えた。

ディアボーンは、別名「アラブ系アメリカ人の首都」と呼ばれていて、ミシガン州は大統領選を左右するとされたスイングステートの一つだ。

アルジャジーラの現地特派員は、「4年前の選挙ではアラブ票はバイデン氏を支持しましたが、今回は割れています。最新の現地の世論調査によると、2020年にアラブ票の32%を獲得したトランプ氏は、今回は42%ほどの票を獲得するのではないかと予測されています」と危機感を伝えた。

現地では、ディアボーンの商工会議所が音頭を取り、何とか民主党支持で票を一本化しようと動いていたことも報じられたが、アラブ系有権者は必ずしもそれには応じなかったようだ。

バイデン政権の対パレスチナ政策に不満があっても商工会議所が民主党支持を呼び掛けた理由は、「民主党政権に変革を促し中東政策を変えさせることは可能であっても、トランプ氏率いる共和党では望みがない」と判断したからだ。

しかし、有権者の多くは、現在のガザの惨状を目の当たりにし、なおイスラエルに武器を供給し続けるバイデン政権への怒りをより深刻に受け止めたようなのだ。

こうした事情から見えてくるのは、従来からの黒人や中南米系有権者が民主党を支持するという従来からの方程式が通用しなくなったという事実だ。

つまり、来年1月に誕生するトランプ政権の行方を占おうとしても単純な四則演算では追い付かないほど複雑化したのだ。

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アメリカを強く意識した李強中国首相の発言

では中国は、そんなアメリカとどう向き合おうとしているのか。

実は、中国は選挙前から「トランプが良くてハリスが悪い」といった発想から早々と脱却していたと思われる。

別の表現をすれば、「不安定なアメリカの影響を受けない世界をできるだけ拡大」しようと動いてきたのだ。

実際、大統領選挙の期間中も、中国はそうした動きに余念がなかった。

象徴的なのはBRICS首脳会議であり、奇しくも開催が重なったのが、5日に上海で開幕した第7回中国国際輸入博覧会(輸入博)である。

輸入博初日に基調演説を行った李強首相は、「中国にとって輸入博の開催は開放的協力を拡大する重要な措置であり、世界に対する厳かな約束」だと強調した。

強くアメリカを意識した発言だ。

そもそも輸入博は、第1期トランプ政権時代に対中貿易不均衡を問題視するアメリカを意識してスタート。貿易不均衡への不満を解消するイベントに位置付けられた。

つまり、当初は中国経済の独り勝ちに対する世界の風当たりを和らげる目的だったが、いまでは中国のグローバル化推進の象徴の一つとなっている。

李は演説で「現在の世界は100年間なかった変化が加速し、反グローバリズムの思潮が台頭し、一国主義と保護主義が強まり、世界の平和発展事業の直面する不安定化要因と不確定要因が増加している」と暗にアメリカを批判。その上で、「このような状況であればあるほど、我々はなおさらに開放を堅持し、拡大し、高め、永続的な平和・安定と発展・繁栄を後押しする必要がある」と断じた。

ドナルド・トランプの大統領への返り咲きは中国にとって「吉」なのか、それとも「凶」なのかはわからない。しかし、トランプが「アメリカ・ファースト」を叫べば叫ぶほど世界のアメリカに対する警戒は強まり、もう一つの秩序を作り出そうとする中国の動きを加速させてしまうのかもしれない。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年11月10日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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image by: Algi Febri Sugita / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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