私たちの食生活に欠かせないものとなっている穀物。しかし、穀物中心の食生活になると、脳などにさまざまな悪影響が生じる可能性があると、メルマガ『糖尿病・ダイエットに!ドクター江部の糖質オフ!健康ライフ』で著者の糖尿病専門医の江部康二先生は語ります。正常な脳機能に必要なEPAやDHAを摂るためにはどんな食材を食べるとよいのか、ドクター江部先生が伝授。その食材とは何なのでしょうか?
農耕の広まりと問題点:EPA、DHAの不足
現生人類(ホモ・サピエンス)誕生後に起こった最初の大きな歴史的変化は、組織的農耕の開始です。
ティグリス川とユーフラテス川の間の沖積平野であるメソポタミアは、現在のイラクの一部にあたり、小麦や大麦が自生していました。
この肥沃な三日月地帯に属する地域で、小麦(あるいは大麦)の栽培が約12000年(或いは10000年)前から始まりました。
アジアでは、約9000-10000年ほど前、中国の長江流域やベトナムで稲作を中心とした農耕が開始されたとされています。
農耕の発達により、単位面積当たりで養える人口は20倍-100倍に激増しました。
しかし「天才と分裂病の進化論」(デビット・ホロビン著、新潮社、2002年、金沢 泰子翻訳)によれば、水棲食物中心の食事から穀物中心への食事への変化は、少なくとも過渡期に人間に健康状態の悪化をもたらしました。
狩猟採集生活者の遺骸が見つかった場所で、農耕生活者の遺骸も見つかりました。
そうした数多くの調査結果で、身長は数インチ低くなり、遺骨は変性疾患の痕跡を示していました。
人口が少ない狩猟民族の頃は、魚や肉など動物性タンパク質をかなりの割合で摂取していたと考えられます。
組織的農耕が始まってからは、増えた人口を養うためには、穀物(糖質)中心の食生活とならざるを得ず、結果として動物性タンパク質の摂取不足が発生した可能性が高いのです。
さらに穀物中心の食生活からは、正常な脳機能に必要なEPA・DHA(ω3系必須脂肪酸)の摂取が不足するため、脳の代謝に悪影響がでる可能性があります。
この記事の著者・江部康二さんのメルマガ
EPA・DHAは、穀物や野菜・果物・ナッツなど植物性食品にはほとんど含まれていません。
一部の海草、苔、肉微小藻類には含まれています。
肉微小藻類を食べる水棲小動物や地虫・水鳥・魚・は虫類・両生類・昆虫・肉・臓器・脳・骨髄などの動物性食品にEPA・DHAは含まれています。
さんまには、100gあたりDHAが1600mg、EPAが850mg含まれています。
鯖は、それぞれ970mgと690mgです。
あじやアナゴなど海の魚にもDHAとEPAは多く含まれています。
豚肉は100gあたりDHAが67mg、EPAが0mg含まれています
鶏肉は、それぞれ16mg、と5mgです。
牛肉は、それぞれ4mg、と20mgです。
全卵は、DHAは0mg、EPAは120mg含まれています。
EPAとDHAの含有量に関しては、陸に対して海の圧勝ですね。
精製炭水化物を中心に食事を摂取する文明国の統合失調症は、重症のことが多いのです。
例えば、
・精神疾患患者に対して、ドコサヘキサエン酸(DHA)やイコサペンタエン酸(EPA)を既存の精神疾患治療薬と共に投与すると、症状緩和の増強効果が認められること
・統合失調症では赤血球膜や死後脳で多価不飽和脂肪酸が低下していること
・気分障害では血中のDHAやEPAが低い患者ほど自殺の危険性が増すこと
などが知られています。
このように、脳機能におけるDHAやEPAの役割の大切さが立証されています。
読者の皆さん、DHA・EPAの確保のために海の魚をしっかり食べましょう。
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