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まずは時代錯誤的な妄想「アジア版NATO」構想をドブに捨てよ。石破首相が公明党の「アジア版OSCE」に賛同する前にやるべきこと

石破茂氏が首相就任前から主張している「アジア版NATO」の設立。ところがここに来て首相は、公明党の山口那津男元代表から説明を受けた同党の「アジア版OSCE」なる構想に好意的な姿勢を示したと新聞各紙が伝えています。そんなニュースを取り上げているのはジャーナリストの高野孟さん。高野さんはメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で今回、この動きを「1つの事件」だとしてそう判断する理由を解説するとともに、首相が公明党の構想に賛同する前段階で「しておかなければならないこと」を指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:またまた露呈した軍事オタク首相の政治オンチぶり/公明党の「アジア版OSCE」構想にどうして簡単に賛成するのか?

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

「軍事オタク首相」の政治オンチぶりがまた露呈。公明党の「アジア版OSCE」構想に簡単に賛成する石破氏

公明党の山口那津男=元代表が1月8日石破茂首相と面会し、「アジア版OSCE」を創設する同党の構想について説明し、さらに13日から自公両党幹事長が訪中して開かれる「日中与党交流協議会」の席で西田実仁=公明党幹事長からその構想を中国側に提案するつもりだと伝えた。それにに対し石破は「しっかり勉強してみたい」と応じ、さらに翌9日、東南アジア訪問に先立つ記者会見で「アジア版OSCEを念頭に置いて各国と対話していく」考えを示した。

これは1つの「事件」と言うか、スキャンダルである。石破自身がよく分かっていない上に、聞いている記者がまるで珍紛漢紛なので数段程度の小さな新聞記事にしかなっていないが、よろしいですか、「アジア版OSCE」というのは「アジア版NATO」の対抗概念なんですよ。聞いた記者はすぐさま、「えっ?!それじゃあ石破さんが『長年の信念』とされてきた『アジア版NATO』構想はもう取り下げるんですか?」と突っ込みを入れなければならないが、そうする者はいなかったようだ。

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「協調的安全保障」のOSCE、「敵対的軍事同盟」のNATO

本誌は、冷戦終結以来の35年間、繰り返しこれを論じ、最近ではウクライナ戦争との関連で「NATO東方拡大」の誤りに根底にある西側の思考混濁の問題として取り上げているので、古くからの読者の皆様には「また、それか!」と言われてしまいそうだが、第2次大戦後の80年間を貫いているのは新旧2つの安保原理の鬩ぎ合いである。

一方には「協調的安全保障」の考え方があり、これは「そこに」ある全ての国が参加して円卓を囲み、紛争の予防とそのための信頼醸成措置の構築、それでも紛争が起きてしまった場合も武力不行使、あくまで話し合いを通じて解決を図ろうとする。それに対して「敵対的軍事同盟」は、第2次大戦の「枢軸国vs連合国」や、冷戦時代の「NATOvsワルシャワ条約機構」のように、予め敵を想定して味方を結集し、いざとなれば問答無用の武力攻撃で相手を叩きのめそうとする。

前者の代表例は、最後はヒロシマ・ナガサキの地獄絵にまで行き着いた第2次大戦の悲惨を踏まえて創設された「国連」であり、その憲章の「第6章 紛争の平和的解決」の第33条から第38条、「第7章 平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」の第39条から41条までは、何とかして紛争を平和裡に解決するための知恵が書き連ねてあり、それでもダメな場合として第42条で初めて加盟国の陸海空軍による国連軍の行動が発動されることが記されている。

「そこに」ある全ての国は、国連の場合は全世界であり、その下での欧州における地域安全保障取極の機関であるOSCE(全欧安保協力機構/Organization for Security and Co-operation in Europe――「安保協力」ではなく「安保と協力のための機構」であることに注意)の場合は欧州の全ての国(プラス米国とカナダ――本来は無用だがNATOの一員として欧州安保に関わってきた言わば既得権益で強引に参加)である。

後者の代表例が言うまでもなくNATOで、冷戦が終わり、その趣旨に忠実にゴルバチョフのロシアが直ちにワルシャワ条約機構を解体したのに対し、ブッシュ父の米国は「冷戦という名の第3次世界大戦に勝利したのだから、これからは米国が唯一超大国として世界に君臨するのだ」という錯誤した時代認識に溺れNATOを解消しなかったどころか、それを東方に拡大し、旧東欧やソ連邦傘下の諸国を引き込んできた。それが今日の世界の混迷の最大の要因となっている。

戦後、国連は「敵対的軍事同盟」の思想を断ち切って、「協調的安全保障」原理が支配する世界を作ろうとし、日本はその方向を信じて率先、憲法第9条を制定したのだったが、肝心の米国とソ連がたちまち敵対原理に後戻りし国連理念を裏切った。だから、冷戦が終わった時がその1945年の初心に帰るチャンスで、ゴルバチョフはそうしようとしたのにブッシュはそれを理解しなかった。米国の今日に至る国家的な認知障害はここに始まったのである。

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まずは「アジア版NATO」構想をドブに捨てなければならない首相

OSCEの前身はCSCE(全欧安保協力会議)で、それは当時の西ドイツ社民党政権の首相ヴィリー・ブラントが唱導した「東方外交」の結果、冷戦下にも関わらず壁の両側の東西主要国が一堂に会して円卓を囲み、安全保障のみならず経済協力や文化交流、人権問題改善などを協議しようという機運が高まり、1975年にヘルシンキで発足した。これこそが、15年後の冷戦終結の土台を築いたのであり、当然にも、NATOも解体され以後の欧州の安全保障はCSCE(1994年に常設機構化されOSCEに改称)が担うことになると考えられたが、米国がそれをブチ壊したのだった。

しかしその理念は他地域にも影響を与え、とりわけアジアではアセアンが94年に「アセアン地域フォーラム(ARF)」を結成し、アセアン加盟10カ国に加えて域外から――

北東アジア】日本、中国、ロシア、北朝鮮、韓国、モンゴル
南アジア】バングラデシュ、スリランカ、インド、パキスタン
大洋州】東ティモール、パプアニュイーギニア、オーストラリア、ニュージーランド
西方】欧州委員会、米国、カナダ

の16カ国1機関が参加し、信頼醸成、紛争予防、紛争解決を旨としたOSCE型の地域安保を目指した。が、南シナ海を巡る中国とアセアン諸国の紛争を上手く解決できなかったことから今は活動が低下。しかし枠組みは維持されており、「アジア版OSCE」と言うならまずこのARFの再活性化から取り組まなければならないだろう。

我々の「東アジア共同体」構想は、「東南アジア」のアセアン10カ国のまとまりに加えて、日中露朝韓(プラス米?――これはねえ、加えたくないが加えなければ僻むので扱いがなかなか難しい)で「東北アジア」のまとまりを作り、その複眼が強く連携し合う「東アジア」をイメージするところに発している。北東アジアの6カ国はかつての朝鮮半島非核化のための「6カ国協議」の顔ぶれでもある。

もし本当に石破が「アジア版OSCE」に賛同するのであれば、まずは彼の時代錯誤的な妄想である「アジア版NATO」構想をドブに捨てるところから始めなければならない。その覚悟もなしに公明党の構想に賛同したのだとすれば軽薄すぎるということになる。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年1月13日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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