「いつ発生しても不思議ではない」と言われ始めてから久しい台湾有事。そんな中にあって、早稲田大学の教授が沖縄県の宮古島住民らに行った、台湾有事をめぐる意識調査の内容を問題視する声が上がっています。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、調査票の内容について5つの疑問点を上げつつ、住民に対して過度な不安を与えるかのような「前提」を強く批判。その上で早大教授に対して、自身が記したすべての疑問に対して回答すべきよう求めています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:多湖淳=早大教授が無責任に煽る「台湾有事で沖縄が戦地と化す」というデマ/国際政治学者と聞いて呆れる知的低劣
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
国際政治学者が聞いて呆れる。早大教授が流す「台湾有事で沖縄が戦地と化す」のデマ
11月19日付の沖縄2紙によると、早稲田大学の多湖淳教授が宮古島などの住民に意識調査を行った中で、「台湾有事なら沖縄は戦地と化す」のがあたかも自明であるかに前提した上で、その場合に「日本が台湾防衛のための武力行使に賛成ですか、反対ですか?」と設問している。
両紙は、こういう問い掛け方自体が、住民の不安を助長し危機感を煽るものではないかと問題視していて、その通りである。私に言わせれば、こういう無責任な戯言を言いふらしている人物が国際政治学の教授の肩書を名乗っていること自体が信じられないほどである。
ほとんど全くあり得ないような危機シナリオ
多湖教授が作った調査票にはこのように書いてある(全文を捜索したが同教授のサイトからは見つからなかったので、沖縄2紙の要約から問題の部分を合成する)。
将来起こりうる架空の国際情勢についてお読みいただき、あなたのお考えを伺います。
2025年X月、中国の習近平主席が武力による台湾統一を中国人民解放軍(中国軍)に指示しました。台湾本島の東海岸沿いに中国軍が上陸し始め、台湾政府は中華民国軍(台湾軍)に対して東海岸沿いで中国軍を迎え撃つ作戦を命令しました。両軍の間の戦闘によって、多くの台湾市民が死傷し、近隣諸国に逃れようとする市民が空港や港湾に集まるなど、混乱が起きています。
さらに台湾政府は、国際社会に支援を求め、米国や日本に対して台湾防衛への支援を求める緊急の声明を発しました。
この動きを受け、日本政府も台湾支援に向かう米軍とともに自衛隊を台湾に出動させるか否かの決定を迫られています。日本政府は、台湾防衛のため武力行使をするか否かをすぐに決めなければならない状況です。
中国政府は新華社通信を通じて日本政府に「日本が武力行使を行うのであれば宮古島を含めた沖縄県は戦地と化す」と伝えてきました。
問5。あなたは、日本による台湾防衛のための武力行使に賛成ですか、反対ですか?あなたのお考えに最も近い選択肢に丸をつけてください。
ここに書いてあることは、ほぼ1行ごとに、あり得ないか、あったとしても極めて稀なことの連鎖であるのに、何やら自明のことであるかにスラスラと書き流していて、全体として見ればほとんど全くあり得ないような話を作り出している。
もちろん、文頭に「架空」と断ってはいるけれども、たくさんある架空シナリオの中からなぜこれを唯一であるかに選び取ったのかを語らなければ、社会科学者ではない。
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