アメリカは全面戦争覚悟で台湾有事に関与するのか
第3に、台湾政府が声明を発して米国や日本に対して台湾防衛への支援を求めるということがあったとして、米日はどういう態度をとるのか。
(A)まず、原理的に言って、米国も日本も「中国は1つ」、つまり台湾は中国の一部であることを承認した上で北京との外交関係を樹立させている。そのことを大前提とすると、仮に台湾が独立を宣言しそれに対して中国が武力を用いて制止しようとしたとしても、それは、中国から見ればもちろん、米日を含む国際社会から見ても、中国の国内問題、すなわち「内戦」であって、それに他国が外から軍事介入するとすれば、内政干渉というにとどまらず国際法上の明白な「侵略」に該当する。
これは、本誌が前々から指摘してきたように、本質的にキーウ政権と東部ロシア系住民との内戦にすぎないウクライナ紛争にロシアが国境を超えて参入すれば「侵略」になるのと同じで、北京政府と台湾当局との内戦にトランプ次期大統領や石破茂首相が軍事介入すれば、プーチンと同じ過ちを冒し、同じような国際的非難を浴びなければならない。
(B)しかも周知のように米国は、台湾との間に直接的な防衛取り決めを持っておらず、台湾防衛は米国の義務ではない。1980年に失効した米華相互防衛条約に代わって米国内法として制定された「台湾関係法」は、「台湾の将来が平和的手段によって決定されるであろうとの期待」を米中のみならず台湾当局も含めて確認し合うことを趣旨としており、従って米国は台湾が必要とする自衛目的の兵器供給を行うこと、危険が生じた場合に米大統領と議会が米国憲法の手続きに沿って適切に対応することを謳っているだけで、台湾の要請があったとしても直ちに軍事介入するかどうかは敢えて明言していない(戦略的曖昧さ)。
(C)さらに米中は共に核保有国であり、米国が安易な介入の仕方をすれば双方の思惑をたちまち超えて「全面戦争」≒「核を含む第3次世界大戦」へとエスカレートしていく危険が常に伏在する。そのため、米国がキーウ政権に前例のないほどの規模の兵器供給による支援を行いながらも米軍及びNATO軍の派遣は絶対に避けているのと同等もしくはそれ以上に、実際にどのような軍事行動を採るかについて極めて慎重にならざるを得ないだろう。
このように(A)(B)(C)の制約要因が多重に働くので、台湾政府が支援を求める緊急声明を発したからと言って直ちに米国がフルスペックの(全面戦争覚悟の)戦争体制を採るかどうかは不可測である。
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