本当に台湾有事で沖縄は“戦地と化す”のか?早大教授が煽る「あり得ない危険シナリオ」に浮かぶ“5つの大きな疑問符”

 

台湾との間に安全保障に関わる条約・協定を持たない日本

第4に、多湖教授は「この動きを受け、日本政府も台湾支援に向かう米軍とともに自衛隊を台湾に出動させるか否かの決定を迫られています。日本政府は、台湾防衛のため武力行使をするか否かをすぐに決めなければならない状況」が生じるかのように切迫感を持って判断を求めているが、さあどうなのか。

日本は台湾との間に安全保障に関わる条約・協定を持たず、また米国の台湾関係法のような国内法もないので、日台間で(どちらか一方が侵略された場合に他方はそれを自分事、すなわち自国への侵略と同等のものとみなして助っ人として出動するような軍事同盟加盟国同士の相互防衛義務という本来の意味の)「集団的自衛権」関係は成立していない。従って、台湾有事に際し日本が台湾防衛のために出動して戦うというのは自明のことではない。

安倍政権が2015年に強行採決で成立させた「安保法制」はかなり怪し気な、論理的にも法理的にもツギハギ・パッチワークの曲芸のような法律で、「我が国に対する武力攻撃が発生」していなくても、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされる明白な危険がある《存立危機事態》であれば武力行使が許される」こととなり、しかもそれが「国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある」と但し書きを付けたことから「集団的自衛権の一部容認」と説明された。

が、そもそもの狙いは、安倍が国会質疑や記者会見で「大きなパネル」を持ち出して口角泡を飛ばすが如きに解説したように、例えば朝鮮半島有事の際にたまたま在韓日本人が米国艦艇に救済されて脱出しようとし、その艦艇がたまたま北朝鮮軍機から攻撃を受けた場合、それにたまたま随伴警護していた自衛艦は我が国に対する武力攻撃が発生しているわけではないためこれに反撃して米艦船を助けることができない。それでは余りに米国に対して申し訳ないので、このたび法律を改めて、後方支援の場合も米国に対する集団的自衛権の発動として武力行使が行えるようにしようというところにあった。

しかし後になると、この「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされる明白な危険がある」場合という文言を台湾に適用し、「台湾有事は日本有事」という余りに情緒的かつ短絡的な時局認識が安倍や麻生太郎副総裁によって振り撒かれるようになったのだが、台湾は「国」ではないから「他国」に当たらないし、ましてや同盟関係にはないのでその属性である集団的自衛の名による相互防衛盟約も成立しない。

安倍の言う「他国」とは赤裸々な話、米国のことであり、安保法制とは戦後日本の対米従属体制を質的に一段も二段も深化させて米国の歓心を買う手段に過ぎなかった。その米国という御本尊がさあどうするかという大変な決断をしなければならない時に、日本政府が先走って「台湾防衛のため武力行使をするか否かをすぐに決めなければならない状況」になるのかどうか、極めて疑問である。

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