国民年金と厚生年金、「どちらが不利で有利か」という議論は果たして成り立つのでしょうか? 今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、国民年金と厚生年金の違い、そして厚生年金期間が多い人の年金額について紹介しています。
厚生年金期間の多い人の年金ライフ
1.厚生年金期間が多いと将来の年金給付もとても充実する。
前回までは国民年金期間が多い人の年金額を事例として取り上げてきましたが、今日は厚生年金期間が多い人の事例を考えてみたいと思います。
国民年金のみの期間が多い人の年金額を見てみると、そこそこ加入期間が多くても年金額としては月額6万円という非常に少ない額というケースでした。
そのため、国民年金のみの話をするとこれでは老後は暮らしていけないではないか…という声を多くもらいます。
確かにそうで月額6万程度では月の生活費としてはあまりにも少ない。
年金はそもそもとしては生活費の全てを賄うようにはできていませんが(昭和29年の年金局長の説明による)、有力な足しにはなります。
ちなみに国民年金額の平均受給額は5.7万円となっており、平均としては6万円も行っていません。
では国民年金のみの人が多い自営業などの人は老後は貧困に陥るのではないかという心配がなされますが、サラリーマンや公務員などとは違って定年という制度はありません。
自営業なので「健康」でありさえすれば、定年なく働く事ができます。
そのためサラリーマンや公務員よりも稼ぐ期間が長めであり、また、自営業者向けの資産形成などの商品も多いのでサラリーマンよりも明らかに不利というわけでもないです。
もちろん年金のみを比較したら圧倒的に国民年金のみの方が不利ではありますが…
少し過去に遡ると、国民年金ができる前の話にはなりますが厚生年金は55歳支給開始でした。
これは厚生年金の定年が55歳だったから厚生年金の支給開始年齢を55歳に設定したものでした。よって、厚生年金保険料を払うのは20代前後から55歳までの約35年と考えられていました。
しかしながら、これからは平均寿命も伸びてくるし、高度経済成長とともに高齢者が増えてくる傾向にありました。
そうすると年金財政が将来は逼迫してしまう可能性が示唆されたため、昭和29年の厚生年金再建の時に男性の支給開始年齢が55歳から60歳に引き上げられました(昭和32年から昭和48年にかけて)。
女性は厚生年金期間が少なく、受給できる人も非常に少なかったので昭和60年改正が行われるまでは55歳支給開始年齢として優遇していました。
昭和60年改正から女性の支給開始年齢に引き上げが始まり、3年ごとに1歳引き上げながら15年後の平成12年度からはようやく60歳へと引き上がりました。
男女とも支給開始年齢が60歳に統一されたのです。
同時に、定年が引き上げられる事が平成6年改正で決まり、平成10年度からは定年が60歳へと義務付けられる事になります。
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では逆に国民年金はどうかというと、国民年金は昭和34年4月から施行されて昭和36年4月から本格的に保険料徴収が始まっていくのですが、当初から国民年金の保険料納付期間は20歳から60歳までの40年でした。
厚生年金に比べると5年長いですよね。
そして厚生年金は60歳から貰えるのに、国民年金は65歳からとなっていました。
保険料も受給も5年間長いのが国民年金でした。
これは国民年金加入者は定年もなく働けるし、厚生年金より長い事は無理がないだろうと考えられたからです。
もし厚生年金と同じく55歳までとしたり、支給を60歳にしたらその分保険料を高くしたり、受給額を少なくしたりしないといけないからですね。
まあ、厚生年金と国民年金の年齢の差は定年制のある点が大きかったです。
さて、少し話が過去に行ったのですが、将来を考えたら厚生年金に加入していた方が老後は充実するのは事実です。
厚生年金というのは国民年金の上乗せで過去の報酬に比例した年金を受給する事ができるからです。
なので今の時代は少しでも年金額を増やしたいのであれば、どこかの会社に雇用されて厚生年金に加入した方が手っ取り早いといえます。
でも人によっては加入させてくれない場合があるでしょ?という事も巷ではよく聞く話ですが、確かに会社に就職すれば必ず厚生年金に加入するわけではありません。
一応の条件があります。
それは1日の労働時間が正社員の4分の3、かつ、月の労働日数の4分の3の働き方をする事が厚生年金加入の目安となっています。
しかし平成28年10月からはこれが緩和されていきまして、厚生年金加入がしやすくなっていきました。
・週の所定労働時間が20時間以上
・月給与が8.8万円以上
・1年以上雇用見込み(令和6年10月からは2ヶ月以上見込みに緩和)
・従業員が501人以上の会社で働く(令和6年10月からは51人以上の会社)
・学生でない事
という条件になりました。
これに該当すれば厚生年金に加入できる事になります。
従業員が501人以上というのはまさに大企業の水準だったので、ほとんどの人が対象外になりました。よって増加した厚生年金加入者は25万人程度でした。
これが51人以上まで緩和されたわけですが、それでも全企業の3%程度に過ぎないものです。これにより厚生年金加入者は約70万人ほど増える事にはなりました。
なお、今後はさらに条件を緩和して厚生年金加入者を増やしていく事になります。
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ちなみに厚生年金加入の条件を緩和していこうという事になったのは平成16年改正の時ですが、どうして緩和していこうとしているのでしょうか。
これは非正規雇用者の急増に関係します。
昭和60年あたりは600万人ほどの非正規雇用者でしたが、平成20年代からはこれが2000万人ほどと急増しました。
この間に何があったかといえば、平成3年のバブル崩壊、平成10年前後の金融危機による会社の倒産の増加、平成19年のサブプライムローンによる住宅需要の崩壊から生じたリーマンショックなど景気が大きく崩れるような事が相次ぎました。
よく就職氷河期の人が問題になりますが、これはバブル崩壊により会社がコストを削減するために、新規採用を控えたりして正社員ではなく非正規社員に置き換えていった事が発端です。
非正規社員は基本的に厚生年金に加入させなくていいからですね。
会社としては、厚生年金に加入させる事で保険料を半分支払うのをとにかく嫌うのです。
厚生年金だけでなく健康保険も半分は会社が持たなければならない。
よって、そのような負担が増加しない非正規社員を大量に雇って、経費を削減していったのです。
会社としてはその場しのぎで乗り切れるかもしれませんが、従業員としては将来が大変です。
厚生年金に加入できないという事は将来の年金が低くなるという事であり、前回のメルマガのように国民年金のみの場合と変わらない事になります。
非正規社員は現役時代も給料が低く、生活が大変の場合が多いですが、老後になっても年金が低い事で貧困に喘ぎかねないです。
そうすると将来は貧困者が溢れかえり、社会が不安定になっていきます。生活保護費も今の3兆円(社会保障費130兆円の2%ほど)から20兆円ほどに膨れ上がる事が危惧されています。
そうなると当然、企業も安全でいられるわけはなく貧困者が増えれば商品を買ってくれないから、会社としては収益が下がってしまいます。
収益が上がらないのであれば、従業員の給料を上げられないし、給料の低い社員はモノが買えなくなるのでますます会社の収益は下がるデフレスパイラルに陥ります。
このままでは今の40代くらいの就職氷河期世代だった人が、貧困者になってしまう恐れが高いのでできるだけ厚生年金に加入させる方向に向かわせる事で、高い年金を貰えるようにしたいのです。
今の若い人を守るための政策がちょうど今大きな課題なのです。
会社側は厚生年金加入緩和を嫌がりますが、そんな事にいちいち構ってられないのが現状です。
さて、今回は厚生年金の期間が多い人の年金事例を考えていきましょう。
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2.厚生年金の期間が多い人の年金事例。
◯昭和37年3月16日生まれのA子さん(令和7年に63歳になる人)
・1度マスターしてしまうと便利!(令和7年版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法。
・絶対マスターしておきたい年金加入月数の数え方(令和7年版)。
15歳年度末の翌月である昭和52年4月から平成15年3月までの312ヶ月間は厚生年金に加入しました。この間の平均給与は35万円とします。(20歳になるのは昭和57年3月からなので平成15年3月までの253ヶ月が老齢基礎年金に反映)
平成15年4月から平成17年6月までの27ヶ月間は国民年金保険料の退職特例免除を利用しました(老齢基礎年金の3分の1に反映)。
なお、A子さんは今後の年金の事を考えて平成26年6月に過去の免除期間の追納をしたとします。追納は過去10年以内の免除が対象なので、平成26年6月からだと「平成16年6月から平成17年6月まで」の13ヶ月を追納しました。
よって、平成15年4月から平成16年5月までの14ヶ月は退職特例免除で、平成16年6月から平成17年6月までの13ヶ月は国民年金保険料納付済み期間と変更になります。
ちなみに追納する時は一番古い方から納めていく事になります(10年の時効にかかるのを防ぐため)。
その後、平成17年7月からはまた厚生年金に加入する事になり、62歳の前月である令和6年2月までの224ヶ月間働きました。この間の平均給与(賞与含む)は50万円とします。
なお、A子さんは62歳以降も働いているとします。
(平成17年7月から60歳前月の令和4年2月までの200ヶ月が老齢基礎年金に反映)
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さて、A子さんは62歳以降も働いているのですが、生年月日を見ると62歳から厚生年金が貰える人ですので62歳前月までの記録で年金計算をします。
記録を整理しますーーー(『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2025年3月5日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください)
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