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薬代だけで月に数十万円を払い続けている人も。高額療養費問題が突きつけたニッポンの“不都合な真実”

今年8月に予定されていたものの、二転三転の末に見送られることとなった高額療養費制度の負担上限額引き上げ。この過程でさまざまな問題が浮き彫りになったと、健康社会学者の河合薫さんは言います。河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、高額治療を巡る患者と病院側双方のリアルな現実を紹介。さらに日本において「がん患者の就労」が議論されるべき理由を解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:高額療養費制度と「命の時間」の歪み

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

世界的に高い日本人のがん罹患率と死亡数。高額療養費制度と「命の時間」の歪み

「すったもんだ→平謝り」が繰り返される石破政権ですが、高額療養費増の方針の見送りは、“病とともに生きる”ことのさまざまな問題を浮き彫りにしました。

おそらく「命をつなぐため」に、薬代だけで月数十万のお金を払い続けているがん患者が多くいることを知らない人はたくさんいたでしょうし、そもそもがん治療に数十万円もの薬代が必要な場合があることを、知らなかった人も多いかもしれません。

日本人のがん罹患率と死亡数は世界的に高く、その大きな原因が人口の高齢化です。

一方、人口の高齢化の影響を除いた場合(年齢調整率)、がんの罹患率は2010年までは増加するものの、その後は横ばいで、死亡数も1990年代半ばをピークに減少。つまり、生存率が伸びているのです。

その大きな理由が医学の進歩による「治療の効果」です。

最新のデータによれば、12年にがんと診断された患者約39万人の10年生存率は54%で、進行がんの場合も、診断から1年以上が経過した患者は、その後の5年生存率が改善する傾向が確認されています。

しかしながら治療代が高いため、経済的な理由で治療を中断し、命をつなぐことをあきらめた人たちも存在するのです。

私が長年インタビューさせていただいたがん患者の女性は、治療薬の効果で余命を超えて生きられているのに、「がん患者を雇ってくれる企業がない」という苦境に立たされました。病院のキャリアカウンセラーに相談したところ「あなたの体では働くのは難しい」と言われ、「死ねと言われてる気がして情けなくなった」と泣いていました。

医学とは何なのか?治療とは何なのか?働くとは何か?

金が全て…とは思いたくありませんが、社会的・経済的に弱い立場の人ほど「命をつなぐのが難しい」現状にこそ、国は手を差し伸べるべきではないでしょうか。

しかも、高額治療を行えば行うほど、病院の負担も増え、経営が厳しくなるというリアルもありまあす。

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いまだに「元気でバリバリ働ける人仕様」で動き続けている社会

言わずもがな、今の「私たち」が生きるのは超高齢社会です。

働く人の半数以上が50歳を超え、この12年間で60歳以上の従業員は2倍に増え、特に65歳以上は3.2倍と爆増しました。人生100年時代だの、70歳まで働くのが当たり前の時代だの、といった言説はあちこちにあふれていますが、働く時間が延びれば「病」になる人は必然的に増えます。がんも含めて、年齢が高くなるほど病いになる人の割合は高まり、発症のピークは50代です。

社会の年齢構成が変われば社会のスタンダードも変わるはずなのに、いまだに社会は「元気でバリバリ働ける人仕様」で動き続けている。

アメリカでは、がんに罹患した労働者が職場で不利益に扱われた場合、裁判所に救済を求めることが出来る法律があります。「障害を理由とする差別を明確かつ包括的に禁止するための法律(ADA)」です。

1990年に制定されました。がんに罹患したことをきっかけに直面する雇用の喪失や望まない配置転換、降格などの不利益取扱いは「がんを理由とする雇用差別」にあたるのです。

日本には「世界=米国」と考える人が上級国民に多く、アメリカ産を輸入するのが大好物です。ADAこそ見習うべきですし、高額療養費が議論の俎上に上がったのですから、「がん患者の就労」についての議論も行ってほしかった。

厚生労働省によると労働人口の3人に1人が、何らかの疾患を抱えながら働き、会社(所属長・上司)に相談や報告「できない」あるいは「していない」人は、非正規雇用ほど多いことがわかっています。「派遣社員」では半数近い46.2%「パート・アルバイト」38.1%、「契約社員」31.5%、「正社員」でも4人に1人 25.3%です。

誰もが老いるし、老いれば誰もが病と共に働くことを余儀なくされるのに…。

みなさんのご意見や体験など、お聞かせください。

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image by : Princess_Anmitsu / Shutterstock.com

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