特殊詐欺による被害を未然に防ぐため、警視庁が高齢者のATM利用額に制限を設けることを検討している。「75歳以上は30万円まで」という案だが、巷では「まるで預金封鎖」といった批判も聞こえてくる。
75歳以上のATM利用を制限「上限30万円」案が物議
犯人が電話などで家族や公的機関を名乗り、被害者を信じ込ませて現金を騙し取ったりATMから口座に送金させたりする「特殊詐欺」の被害が、高齢者を中心に急増しているのは周知のとおり。
この特殊詐欺を防止するため、警察庁が、75歳以上の利用者によるATM(現金自動預け払い機)の1日あたりの利用限度額を「30万円」に制限することを検討している。読売新聞が25日に報じた。制限は引き出し、振り込みどちらにもかかり、法令改正にむけて全国銀行協会などと調整を進めていくという。
ただこの制限案、巷の評判は必ずしも芳しくないようだ。ネットメディア編集デスクが説明する。
「SNSや掲示板では“75歳以上”の根拠がまったくわからない、という不満が多く目に付きます。人の認知能力や判断力は、加齢によって少しずつ衰えていくとはいえ、年齢で一律に区別できるものではない、という意見です。たとえばソフトバンクの孫正義さんは現在67歳ですが、わずか8年後にこのような制限を受け入れる気になれるでしょうか?自民党の麻生太郎さんなんて84歳なのにピンピンしてるじゃないですか。そのため、個人の財産権に対する侵害行為だ、という厳しい見方をする方が少なくなく、中には“預金封鎖の予行演習”や“実質的な預金封鎖”を危惧する声もあがっています。これらの背景には、折からのインフレや金地金などコモディティ価格の異常高騰のほか、日本の財政問題、さらに貸金庫窃盗があったメガバンクへの不信感があるようです」(ネットメディア編集デスク)
もしかすると某氏による「高齢者は集団自決すればいい」という発言も、そのような不信感の遠因になっているかもしれない。
ATMの利用上限額は銀行の自主規制によりもともと減少傾向にあった。マネーロンダリングなどの犯罪防止が目的というが、銀行窓口で自分のお金を動かすだけでも、しつこく目的を聞かれウンザリさせられるのが現状だ。
法改正と聞いて思わず“預金封鎖”を連想してしまう人が出るのは無理からぬところだろう。
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タンス預金への“逃避”で別の犯罪被害が増える恐れも
そのいっぽう、ネットでは「今回のニュースは詐欺被害を防ぐためのものだが、預金封鎖などの“陰謀論”を言い出す人間が大量発生するに違いない」といった冷静な(?)意見も。
ただ、日本は敗戦直後の1946年に預金封鎖の“前科”がある。そうでなくとも、個人が自分のキャッシュを自由に動かせなくなる施策は人々に不快感をあたえ、高齢層にとっても、どうにも受け入れがたいもののようだ。
都内在住、投資歴50年近い指数先物トレーダーのHさんも、警視庁の制限案は「絶対にあり得ない」と憤っている。
「警察なんて馬鹿のくせに、特殊詐欺の厳罰化など本来やるべきことから目を背け、善良な市民の財布に目をつける姿勢が実に気に入らないです。私もあと10年やそこらで“75歳以上”になりますが、こんな制限は絶対に受け入れませんよ。もし1日30万円しか動かせないとなったら、その前にぜんぶ出金するだけ。全国の75歳以上が一斉に預金を引き出したら、それこそ取り付け騒ぎになるのでは?(笑)それは冗談としても、高齢者の間でタンス預金が流行るのは間違いないでしょう。この国はいったい何をやりたいのか、理解に苦しみます」(Hさん)
特殊詐欺撲滅のためにも、警察にはぜひ頑張っていただきたい。ただ、見当違いの対策によってタンス預金が増加し、特殊詐欺は減ったものの闇バイト強盗が激増してしまった、などというオチにならなければいいのだが――。
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