狂人トランプに見切りをつけた習近平。“一帯一路”と“内部循環”で中国が加速させる「脱アメリカ」

 

西側先進国にはもはや期待できない力強い成長

興味深いのは、5月15日、「内部大循環の強化促進工作会議」に出席した李強首相の発言だ。

李はここで、「内部循環が可能であることは大国経済が備え持つ優位性だ」との認識を示している。これは言い換えれば、中国は国内だけで完結することのできる経済体だと言ったに等しい。

中国の外需依存、とりわけ対西側先進国への依存は、サステナブルではない。

関税の発動という政治的なリスクもそうだが、西側先進国にはもはや力強い成長は期待できないからだ。

4月15日、イギリスは2025年の第1四半期のGDP成長率を発表した。

英BBCはこの結果を「予想外の強い数字」と積極的に評価したが、その成長率は0.7%でしかない。

BBCは「G7先進7カ国のなかではおそらく最も高い数字」と評価。スターマー政権にとっても心強い発表となった。しかし、それは新興国や発展途上国ほど力強い成長ではない。

今後、大きな成長が期待される東南アジア諸国連合(ASEAN)をはじめ、中東やアフリカの国々、いわゆるグローバルサウスの潜在力に中国が重心を移しているのは、むしろ自然な選択だ。

中国の期待する経済の「双循環」を実現するためには「安定した外の循環」が不可欠だ。その外の循環における軸足は、関税という制裁がなくとも、いずれは欧米からシフトせざるを得なかったのだ。

それにしても双循環という政策が、こうした事態を見込んで準備されてきたとすれば、驚くべき先見性と言わざるを得ない。

スイスにおける米中協議が進められる以前から中国は活発な外交を仕掛けてきた。習近平国家主席がロシアや東南アジアを訪問し、帰国後は中南米諸国の外相を北京に集めて大きな会議を開く、といったように新興国、発展途上国との交流に余念がない。

北京で開催された中国とラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)との閣僚級会合を報じた日本メディアは、「アメリカの裏庭に触手」(毎日新聞)と中国の意図を伝えたが、そんな短期的な発想だろうか。

アメリカけん制を目的とした短絡的な動きではなく、むしろ中国の発展を長期的に担保するための備えだ。第一、このフォーラムは昨日今日始まったものではなく、2014年から続けてきたものだ。

そして今回、コロンビアが新たに「一帯一路」に参加すると表明したことの裏側には、中国の地道な働きかけが連想されるのだ。

着々と前に進んでいるのだ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年5月18日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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