11月13日に開かれた安倍元首相銃撃事件の証人尋問で、初めて公の場に姿を現した山上徹也被告の母親。その証言から浮かび上がったのは、信者を巧みに操る旧統一教会の手口でした。今回のメルマガ『詐欺・悪質商法ジャーナリスト・多田文明が見てきた、口外禁止の「騙し、騙されの世界」』では、著者で同教団にかつて信者として身を置いていたジャーナリストの多田文明さんが、証人尋問であらためて露呈した教団の責任の大きさを指摘するとともに、彼らの「献金引き出し術」を解説。その上で、かような重大事件を未然に防ぐ社会を作るため、我々市民に何が求められているのかについて考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:安倍元首相銃撃事件 山上被告の母親の証人尋問からみえてきたこと 長時間の話で判断力を奪う手口は、特殊詐欺でも使われている
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暴走は止められなかったのか。安倍元首相銃撃事件、山上被告の母親の証人尋問からみえてきたこと
13日から、山上徹也被告の裁判にて、母親が出廷しての弁護側の証人尋問が始まりました。それについて解説します。
また、これまでの検察側の主張で注目したのは、山上被告が銃を入手しようとして、詐欺でだまされた経緯です。
ニセ警察官詐欺の被害を20代男性の取材をしました。その中から、手口の巧妙さが新たにわかりました。それについてもお伝えします。
「ここに安倍元総理が来ているかもしれない」の意味
山上被告の母親の証人尋問が始まりましたが、それに先立って行われた、安倍明恵さんの上申書からは、愛する人を失った悲しみが伝わってきます。二度とこのような悲劇は繰り返してはならないという気持ちを強くさせるものでした。
山上被告の母親は「次男の徹也が大変な事件を起こしたことを心からお詫び申し上げます」」と謝罪をしましたが、その前に「ここに安倍元総理が来ているかもしれないですし」という言葉を入れました。
旧統一教会の教義では、人間は霊人体(いわゆる霊魂)と肉体に分かれると、教えられますので、これは教義を信じ続けているから出てくるものです。謝りながらも、教義にもとづいた言葉が自然に出てきてしまう。
子供の頃から、こうした発言が次々にあったでしょう。
子供たちの心を理解しようとしない母親には、本音を話せない山上被告の置かれた状況が、みえてきます。
今も教団の手口を知らぬ純粋な末端の信者でしかない母親
母親の入信の経緯が明らかになりました。姓名判断をするとの訪問をうけたことがきっかけです。
1991年当時の教団では、旧統一教会という正体を隠して占いをしながら、悩みを聞き出して、教団施設に誘い込むことが全国で組織的に行われており、山上被告の母親もその勧誘を受けたことがわかります。
記事では「2,000万は自分がそれくらい(献金を)したらいいと思っていたので、不思議でびっくりした」としていますが、教団内では事前に資産を把握して、その金額を出すように誘導しますのですので、そう思うのは当然です。
出させる金額は、組織内の会議である程度、決められています。母親は、今もそのカラクリがわからない純粋な末端の信者であることがわかります。
発言をみる限り「そう思った」という言葉が多いように思います。教義において「そう思うように誘導させられている」ことに気づいていない側面も多々みられます。
そうしたなかで、子供たちよりも、教義を優先して家庭をかえりみることなく、宗教的虐待をしてしまったことがよくわかる母親の証言でした。
これまで教団の信者らは、元信者の被害の言葉を捏造などといってきましたが、現役信者自身も赤裸々に、自分たちのしてきた加害行為を公にすることが求められます。
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教団への恨みを一人募らせ安倍氏へ銃口を向けた山上被告
山上徹也被告の裁判のなかで、彼が20万円の詐欺に遭っていたことが、検察側の主張によりわかりました。
被告は、旧統一教会の最高幹部の殺害を考えて、拳銃を取得しようとしています。
報道では、売人から「薬、武器どんなものでも用意します」というメッセージを受けて、被告は拳銃を注文します。そしてビットコインで約20万を売人に送金しますが、商品は届きません。
ここからは、詐欺にだまされないための知識が、なかったことがわかりますが、この後のやりとりでは「明日発送がないなら警察に行く」とメッセージを送るといった、全く意味のないこともしています。
犯罪者側は、拳銃入手という「後ろめたい行為ゆえに、警察には相談できない」こととわかっての詐欺です。案の定「こちらは海外拠点であり、結構です。お疲れさまでした」といった返信がきて終わります。その後、山上被告は手製の銃を作るようになっていきます。
ここから、ネットの情報を信じ過ぎる彼の行動と、周りに相談したり、助言をしてもらえる人が誰もいなかったことがわかります。
このようにして、旧統一教会への恨みを一人で募らせて、亡くなる人の気持ちにまで思いが至らずに、安倍元首相へ銃口を向けたのでしょう。
重大な事件を未然に防ぐためには、どんなささいなことでも、社会や周りの人たちがその言葉を聞こうとする環境を作れるのか。それが今後、重要になります。
特殊詐欺でも使われる「長時間の話」で判断力を奪う手口
悪徳商法では、ターゲットにした人を勧誘場所に連れ込んで、3~4時間以上の長時間の勧誘をして、判断力を奪いながら高額な契約をするように仕向けますが、その手口が、警察をかたる詐欺でも使われています。
20代男性は、ニセ警察官詐欺の手口で560万円の被害に遭いましたが、14時頃に最初の電話があり、その日の話が終わったのは19時過ぎでした。その間に、男性はマネーロンダリングの疑いをかけられて、資金調査の名目で、お金をだまし取られています。
今回、逮捕状などを見せて恐怖心をあおるだけでなく、調査名目で送金させた後に「潔白が証明された」といって、返金手続きをしたことを示す振り込み用紙の画像までみせています。もちろん、これは偽造ですが、安心させるための手の込んだ罠を仕掛けています。
恐怖心と安心感の気持ちを抱かせる。心をジェットコスタ─にのせるようにして、揺さぶっているのです。警察庁が発表する令和7年9月末時点のニセ警察詐欺による被害額が661.2億円(特殊詐欺全体の68.5%)となっていますが、その理由もみえてきます。
旧統一教会の責任と、被害を放置した日本社会の罪
母親の証言からわかることは、教義を純粋に信じて教団の上の指示に従い、妄信する信者ほど、身の丈をこえた献金をしてしまいます。さらに、ネグレクト(育児放棄)や信仰の強制をして家庭が崩壊してしまう状況があるということです。
その状況を長年放置して、海外の修練会に行かせたり、高額献金をさせたり、布教活動をさせてきた、旧統一教会の責任は大きいといえます。一方で、社会の責任もまた、しかりです。
被害を絶対に放置しない社会にすることが、安倍元首相を銃撃事件のような悲劇を引き起こさないことにつながります。
(この記事はメルマガ『詐欺・悪質商法ジャーナリスト・多田文明が見てきた、口外禁止の「騙し、騙されの世界」』2025年11月14日号の一部抜粋です。続きは、ご登録の上お楽しみください、初月無料です)
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