国際法違反が指摘される、アメリカによるベネズエラ侵攻。しかし先進各国の首脳は、トランプ大統領の軍事行動に対して正面切って非難できない状況が続いています。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、「自分が同じ立場に置かれたらどう思うのか」という想像力の欠如こそが、トランプ氏の暴走と国際秩序の崩壊を招いていると厳しく批判。その上で、米国内外から「トランプ包囲網」を作り上げていくことこそが肝要との見解を記しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:トランプも高市も「自分がマドゥロと同じ目に遭ったらどう思うのか」の想像力が欠けているのでは
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
自分がマドゥロと同じ目に遭ったらどう思うのか。トランプにも高市にも欠けている想像力
私が10歳前後の子どものころには、教師からも親からも「自分が言われて嫌なことは、他の人に向かって言わないほうがいい。自分がやられて嫌なことは、他の人に対してやってはいけない」と繰り返し教えられた。
今にして思えば、細かい禁止項目を50も100も並べて1つでも違反したら罰すると脅す「他律型」ではなく、自分の心や体を基準にして他人の痛みへの想像力を働かせれば自ずとやっていいことと悪いことの区別はできるはずだと諭す「自律型」の教育ということだったのだろう。
自らを律する「普通の大人」になりきれていないトランプ
私自身がその後の70年余の人生でその教えに忠実だったかどうかは措くとして、トランプ米大統領がそのような教育を受けていなかったことはほぼ確実で、もし受けていれば、彼がベネズエラに対してやったのと同じことを今度はベネズエラのロドリゲス暫定大統領が米国に対して行い、トランプ夫妻を拉致してカラカスで裁判にかけたとしても、「それは正当である」と主張しなければならない。
そういうことになってしまうからと想像力を働かせ、「だからこんなことはしてはいけないんだ」と自らを律するのが普通の大人で、それが出来ないということは、トランプが初等教育以前の幼児レベルに留まっているか、認知障害がますます進行して幼児並みの判断力しか持てなくなっているということだろう。
高市早苗首相はじめ旧西側同盟国の首脳が一様に困惑し、トランプを正面切って批判できずにモゴモゴ言っているのは滑稽極まりない。事は簡単で、自国がベネズエラと同じことをされたらどうなのかに想像力を働かせればいいだけである。
米国が日本やイギリスやフランスやドイツに対してそういうことをした場合に、「嫌だ」「困る」というだけではなく「国際法上で違法な犯罪行為」「侵略」になるのだとすれば、ベネズエラに対してもそうなのである。
その時には、指導者が独裁者で人民を弾圧しているとか、選挙で選ばれたと言っても不正選挙の疑いがあるとか、経済が破綻してせっかくの石油資源を活用できないでいるとかいった当該国の内情は何ら関係がない。外形的に国の体を成しており、それゆえに国連加盟国としても認められているのであれば、全ての国家は「主権平等の原則」(国連憲章)に基づいて取り扱われなければならない。
その点を問われたトランプは、NYタイムズに対し「私には国際法は必要ない。私自身の道義性。私自身の心情。それだけが私を止められる(My own morality. My own mind. It’s only thing that can stop me.)」と言い放った。これじゃあ、B級西部劇に出てくる酒場や賭博場の用心棒を兼ねた悪徳保安官の「俺が法律だ。何か文句があるか。ズキューン!ズキューン!」というのと同じで、近代以前である。
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トランプ「どうしてみんな俺を褒めないんだ」の噴飯
加えて、トランプには「自己愛性パーソナリティ障害」とも言うべき気質がある。ベネズエラ侵攻から4日経った1月7日、トランプは執務室に多くの記者を迎え入れ、2時間にも及ぶ質疑応答を行った。これに参加したNYタイムズのホワイトハウス担当記者ケイティー・ロジャースは、同紙10日付に載せた報告をこう書き出している。
▼トランプ大統領はクレーマー・モード〔文句ばかりつける人のような風情〕で、それで我々は気づいたのだが、彼はこれまでずっと、ニュース・メディアによって、ノルウェーのノーベル賞委員会によって、ニューヨークの〔マムダニ〕市長によって、民主党の幹部や若干の共和党員によって、自分が尊敬をもって扱われてこなかったと感じているのだ。
▼トランプは、彼を尊敬してしかるべき人たちからちゃんとした扱いを受けていないという、深く、長期にわたる不満感を抱いている。積極的な承認を得たいという衝動は、彼の大統領としての執務ぶりのあらゆる部分を形成してきたし、このインタビューのほぼあらゆる場面にも示されていた。
▼彼は、マムダニNY市長に腹が立っていると言ったが、それは同市長が最近、ベネズエラの指導者マドゥロを逮捕したのは「体制変更を目指すもの」であり「連邦法および国際法に違反するもの」だと語ったからだ。マムダニが昨年11月にホワイトハウスの執務室を訪問した際には、若くてカリスマ性のある政治的逸材に出会って興奮しているようにも見えたが、数週間後にはマムダニが全てを台無しにしたと失望に陥った。
▼ノーベル賞を貰えないでいることへの不満は長く続いていて、この日も「私は8つの戦争を終わらせてきたというのにノーベル賞を貰っていない。オバマが貰ったのはいささかビックリだよ。彼自身もなぜ貰えたのかわかっていないんじゃないか」と述べた……。
「自己愛性パーソナリティ障害」の原因については諸説があり、ネット上で見ると例えば「養育者が過度に批判的であったり、過度に賞賛したり甘やかしたりし
て……子どもの安定した自己感覚の発達を妨げてしまった」場合とか、別の言い方では「幼少期の子どもの承認欲求を親が肯定し、共感することで正常な自己愛が形成されるが、親が子どもへの共感を示さないと、自己愛が育ちにくくなる。自己愛が成熟していないと、他人からの賞賛や注目を集めて自己愛を満たそうとするが、それで自己愛が成熟することはない」とされる。
過剰なまでの賞賛を受けないと気が済まず、それが途切れるとすぐに自尊心が壊れてしまうので、他の人から批判されたり失敗を指摘されたりすることに敏感。そのため、自尊心を防衛するため引きこもることもあるが、逆に激しく怒ったり荒々しく反撃したりすることもある。対ベネズエラ作戦の発動はこの「荒々しい反撃」の反応タイプの一種なのだろう。
このような精神がどのようにして形成されたのかを、幼児期まで遡って解明することは意味がない。若い頃ならば明らかな精神障害として医師の治療を受けることも出来たかもしれないが、79歳になった今ではその障害は気質そのものとなっていて、変えることなど出来るはずもない。
米国民と全世界の人民はあと3年間、このままのトランプを何とか真綿で包むようにしてこれ以上の暴発を起こさないよう「要介護」3~4レベルの面倒見を覚悟しなければならない。
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中間選挙で勝ちたいがためにジタバタを続けるトランプ
トランプがこのようにジタバタするのも、秋に迫った中間選挙で勝ちたいがためだが、私の予感では、彼がジタバタすればするほど米国民は流石に目が覚めて、厳しい審判を下すのではないか。その結果次第では、トランプは意外に早くレイムダック状態に入り、米国と世界に迷惑を及ぼすことが少なくなるかもしれない。
しかしそれはあくまで希望的観測にすぎず、本筋はあくまで米国内外から世迷い老人包囲網を作り上げていくことである。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年1月5日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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