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【ピケティ】「21世紀の資本論」でわかる欧州の反アメリカ化のリスク

世界の俯瞰図

『高城未来研究所「Future Report」』第190号より一部抜粋

今週はECB(欧州中央銀行)が量的緩和に踏み切り、ギリシャの反緊縮を掲げた政党が第一政党に躍り出た、通貨ユーロの今後につきまして、私見的にお話ししたいと思います。

先週1月25日、ギリシャで行われました総選挙は、アレクシス・チプラス氏率いるポピュリスト政党の急進左派連合(SYRIZA)が大きな勝利を収めました。チプラス氏は、ギリシャの債務の大幅削減を求め、公共支出の大盤振る舞いを公約に掲げることで、大きな支持を得ています。

最近は、「Grexit」(グリグジット)という単語が欧州各国マスメディアの紙面を賑わせるようになり、これは、「Greece」(グリース)と「exit」(エグジット)を併せてつくられた「ギリシャのユーロ圏離脱」を意味する造語で、この「Grexit」の文字が目立つようになると、通貨ユーロは再び危機が迫っていることを暗に示しています。その理由は、いうまでもなく数年前に起こった「ユーロ危機」はギリシャからはじまり、その火種は、いまだに消えてないからに他なりません。

このギリシャの選挙結果を予見するように、ECB(欧州中央銀行)は先月22日、市場予想を上回る量的緩和策を発表しました。「ECBの最後の手段」と書く経済紙も多く、その規模に関しまして今週2月2日、ECBのクーレ専務理事は、「量的緩和策が無期限であり、拙速に終了させるようなことはない」と語っています。

この「ECBの最後の手段」を裏返せば、ギリシャの総選挙で勝ったチプラス氏が、「正しい」ということになります。このままの状態では、「ユーロ」が良くなることは二度となく、ギリシャの負債は返せる金額ではない上に、強度な緊縮財政は「焼け石に水」だと理解でき、通貨ユーロと同じく、ギリシャも「最後の手段」に出るしかないことが理解できます。

わずかこの6年で、ギリシャは増税と歳出削減にもかかわらず、債務は国内総生産(GDP)比109%から同175%という膨大な規模にまで膨らみました(90年代の日本と似ています)。ギリシャが望むのは、強度な緊縮財政は「焼け石に水」である以上、債権放棄をしてもらうことにあります。この意を多くの国民が汲み、ギリシャでは総選挙の結果、急進左派連合(SYRIZA)と右派「独立ギリシャ人」が手を組むという、これまでの常識では考えにくい異例中の異例の連立政権が発足しました。

反アメリカ的なトマ・ピケティ「21世紀の資本論」

そんな中、トマ・ピケティの「21世紀の資本論」が、世界的ベストセラーになり、先日日本でも講演会が開催されました。ピケティ、もしくは「21世紀の資本論」で大切なことは、トリクルダウンや増税が正しいかどうかではなく、彼がアメリカ人ではなく、フランス人(南欧育ち)であることだと僕は思います。ポール・クグールマンやスティグリッツとは根本的に違うのです。

トロイカ(IMF、ECB、EU)体制=主にプロテスタント=アメリカ化(僕が言うところの民主主義<資本家主義)ではなく、ギリシャが申し出ているのは、行きすぎたアメリカ化こそが問題であり、だからこそギリシャの左派と右派が手を組むようなことが起きて、その南欧から起きた反アメリカ的な「あたらしい理論」が、トマ・ピケティの「21世紀の資本論」だと僕は考えています。ですので、フランス極右「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首は、政治的な背景と移民政策が相反するにもかかわらず、極左のSyrizaを支持すると明確に表明したのです。

もし、中東が反アメリカの狼煙を大きく上げたことに呼応して、武力ではなく、経済システムとして南欧がアメリカ化に反旗を翻すと、これは一大事になります。世界の金融システムが大きく揺れることになり、おそらくロシアが、それに歩調をあわせて動き出すことになるでしょう。

今年2015年は、欧州の多くの国家で総選挙が控えています。政治リスクの調査やコンサルティングを手掛けるユーラシア・グループが言うように、2015年の10大リスク予想第一位が「欧州の政治」なのは間違いありません。

 

『高城未来研究所「Future Report」』第190号より一部抜粋
発行日:毎週 金曜日
登録料:¥864(初月無料)

著者/高城剛
1964年生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。
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