衆院での単独過半数の獲得を狙い、国会冒頭という「最も有利」と思われるタイミングでの解散を選択した高市首相。しかしその後、立憲民主党と公明党が合流するという想定外の展開が起き、選挙情勢は一転して不透明さを増す事態となっています。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、「中道新党」の結成が自民党に与えかねない大きな影響について分析。さらに高市氏が掲げた勝敗ラインと、今後の政権運営の行方について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:立憲・公明の新党結成で一転、高市自民の単独過半数しぼむ
高市の大誤算。立憲と公明の新党結成で一挙にしぼんだ自民の単独過半数
「強い日本」をめざすため、安倍内閣時代のように盤石な政権をつくりたい。今こそ、その野望をかなえる最大のチャンス、と気がはやったのだろう。
高市首相は、自民党が衆院で単独過半数を得るために最も有利な解散のタイミングとして、1月23日の通常国会冒頭を選んだ。「大義」など、何もない。ただ圧勝したい。それだけだ。
「大義」は後からついてくる。ならば、何が語られるのだろうか。世間の人々は、19日の解散表明会見を固唾をのんで見守った。
「高市早苗に国家運営を託していただけるのか国民の皆様に直接、ご判断をいただきたい」
「与党で過半数をめざし、内閣総理大臣としての進退をかける」
国民にしっかりと響いただろうか。要するに、「私という人間を信任してほしい」と訴えただけだ。国家運営の何を変えるのか、どの政策を、どこまで、どんなリスクを負って進めるのか、ということではない。
いつも通り笑顔を浮かべてはいても、高市首相の胸の内は激しく波打っていたはずだ。
想定外の事態が起きていた。立憲民主党と公明党が新党をつくって合流するというのだ。その名も「中道改革連合」。保守強硬派といわれる高市首相に挑戦状を叩きつけるかのような命名だ。小選挙区を制するのに、公明の組織票がいかに威力を発揮してきたかは、長年にわたる連立パートナー、自民党が一番よく知っている。
多くの自民党候補を当選ラインに引き上げてきた公明・創価学会票が、こんどはそっくり“立憲議員”にまわるとしたら、自民にとっては悪夢というほかない痛手である。
高市首相の危機意識は、これまで慎重だった飲食料品の消費税率を2年間ゼロとする政策の表明にも表れた。「恒久的にゼロ」を基本政策に盛り込む方向の新党を意識し、「争点つぶし」を狙った政策転換宣言だ。
自民党の衆院選情勢調査で、自民が過半数(233)をはるかに上回る260議席を獲得できるとの予測が出て、高市首相は「今のうちに」という思いに駆られていた。まさか立憲と公明が組むなどとは夢にも思わなかっただろう。選挙準備の進んでいない野党陣営に不意打ちをかけたつもりだった。
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節操はないが勝負としては面白くなった立憲と公明の合流
崖っぷちに追い込まれた立憲と公明が手を結ぶのにさほど時間は要しなかった。連立を離脱して以来、公明は「中道改革」への結集を立憲、国民民主、自民党の一部に呼びかけてきた。真っ先に応じたのは立憲の野田代表だった。
自民党に対抗すべき野党第一党でありながら存在感を示せず、「議席半減」との予測さえ飛び出していた立憲。創価学会の高齢化で党勢の衰退に歯止めがかからない公明。いずれも党の未来に暗い影がさしている。苦境の両者が、平和や福祉を重んじる政治理念では近いことを奇貨として、助け合うため窮余の一策をひねり出した。
むろん、この両党の合流に節操があるかといえば、ない。一方は与党として安保法制を制定し、原発再稼働を推進してきた。一方はそれを激しく批判する立場だった。その矛盾を帳消しにしようとして新党を結成したのである。
ひとまず衆院議員だけがそれぞれの党を離党して新党に合流し、立憲、公明両党には参院議員と地方議員がそのまま残る。公明は小選挙区から完全に撤退、比例だけに候補者を立て、名簿順位上位で優遇される。選挙に勝つためだけの急ごしらえ政党。「選挙互助会」と揶揄されても仕方があるまい。
19日に発表された「中道改革連合」の綱領と基本政策。むろん焦点は安保法制と原発政策だ。
密接な関係にある他国が攻撃され、日本の存立が脅かされる「存立危機事態」と政府が認定すれば、自衛隊が集団的自衛権を行使できる。これが安倍政権時代に制定された安保法制だ。これまで立憲は「違憲部分の廃止」を訴えてきたが、新党「中道改革連合」の基本政策では「存立危機事態における自国防衛のための自衛権行使は合憲」と明記した。
「集団的自衛権」という言葉を使わず、「自国防衛のための自衛権行使」に置き換えて、合憲を導いた。いわば公明の政策に合わせるための“ごまかし”である。
原発政策では「将来的に原発へ依存しない社会を目指す」としつつも、「安全性が確実に確認され、実効性のある避難計画があり、地元の合意が得られた原発」については再稼働を容認するとした。これも、「原発ゼロ社会の一日も早い実現」を掲げていた立憲が公明に歩み寄ったかたちだ。
小が大をのみこむような印象となったが、立憲の衆院議員148人のうち144人が新党に参加するという。背に腹は代えられない。理念より食い扶持ということか。
それでも、勝負としては面白くなった。ふつう、弱いものどうしが手を結んでもたいした勢力にはならないが、この場合は違う。いざとなれば集票マシーンとしての創価学会パワーが凄まじい力を発揮する。
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進退をかけると言い切った首相の口から漏れ出た恨み節
公明は自民と連立を組んでいた間、小選挙区には多くの候補を立てず、学会員を動員して自民候補を支援。その代わり、自民候補の陣営が「比例は公明」と呼びかけていた。
公明・学会票は1選挙区あたり1万票から2.5万票といわれる。それが自民から立憲へ移動すれば各選挙区で大逆転の構図となり、立憲・公明の「弱者連合」は見違える姿に変貌する。
時事通信のシミュレーションによると、自民が132議席を獲得した2024年の衆院選で、もし公明票が自民候補から離れ、そっくり民主系候補に上積みされたとして計算した場合、自民は54議席に減少、立憲は170議席になり、劇的に勢力図が塗り替わる。
ただ、時事の調査の場合、各選挙区での公明比例票をベースに試算しているが、実際にはその中に自民支持者の票が混じっているはず。したがって、公明支持者による小選挙区での「公明票」は、もっと少ないと考えるのが妥当だ。
朝日新聞は、公明比例票のうち立憲に投じられるのが5割、7割、10割のケースについて試算している。それによると、2024年の場合、「5割シナリオで自民は89議席、中道改革は149議席となった。7割の場合は自民79に対し中道改革159。10割だと自民58、中道改革176だった。いずれも中道改革が第1党になった」という。
むろん、何事も計算通りにはいかない。だいいち、24年衆院選当時の石破政権とは比較にならないほど現在の高市政権の支持率は高い。その勢いに乗って自民候補が集票をすれば、そもそも公明票は不要であるかもしれない。
それに、学会員が選挙区で、これまで「仏敵」と罵ってきた立憲の候補者のために熱を入れて選挙運動をするかどうか。公明の候補者は全員、比例なのである。いかに本部からの指示があろうとも、比例に「中道」と書いて投票することに重きを置いた選挙戦術になるのは火を見るより明らかだ。
要は、巨大な支持母体である「連合」と「創価学会」が、どれだけ組織力を発揮できるかに、この新党の命運がかかっており、そのエネルギーの総量をはかるのが難しいだけに、自民への重圧もまたはかりしれないわけである。
「わずか半年前の参議院選挙でともに戦った相手である立憲民主党に所属しておられた方々を、かつての友党が支援する。少し寂しい気持ちもいたしますが、これが現実です」
総理として進退をかけると言い切った高市首相の口から恨み節が漏れる。自民の単独過半数獲得はかなり難しくなった。高市首相が進退をかける勝敗ライン「与党で過半数」も微妙なところだ。すべては高市人気しだい、というのが自民党を取り巻く現下の情勢といえよう。
image by: X(@野田よしひこ)