アメリカとイスラエルによる「不意打ち」に態度を硬化させ、ホルムズ海峡の実質封鎖に出たイラン。原油の供給滞りへの不安から、世界経済は大混乱となっています。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』』では、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野晃一郎さんが、現在のイラン情勢に触れつつ、かつて同国にその名を轟かせた出光興産創業者である出光佐三氏の足跡を紹介。制裁下のイランから原油を運び出した「海賊と呼ばれた男」の気骨と独自の経営哲学を取り上げています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです:海賊とよばれた男、出光佐三氏について(前編)
海賊とよばれた男、出光佐三氏について(前編)
イラン戦争が世界に及ぼす影響が懸念される状況が続いていますが、戦争終結に関しては、トランプ大統領の発言が二転三転していて、なかなか先が見通せません。
戦況についても、イスラエル側のダメージがかなり拡大しているという情報もあり、一部ではネタニヤフやモサド長官の死亡説まで流れています。これらの真偽は不明ですが、戦争とは、情報戦・心理戦でもあり、まさにありとあらゆる憶測が世界を飛び交っている様相です。
今のところ最も懸念されるのは、ホルムズ海峡が実質封鎖される状況になっていることでしょう。イランによる民間のタンカーや貨物船への攻撃も相次いでいます。当初から想定されていたこととはいえ、実際にこのような事態に至り、現在の状況が長引くと、世界的なエネルギー危機や物価高騰が現実のものとなってしまいます。
前回、トランプ政権内でもヘグセス戦争長官とルビオ国務長官が対立していることに言及しましたが、直近の状況では、戦争推進派のヘグセス長官に対して、終戦派のルビオ国務長官が、暗にヘグセス氏を牽制するような発言をしており、イラン戦争のゴールは、イランの
- ミサイル発射能力
- ミサイル生産能力
- 海軍
の3つを破壊することだということを改めて提示しました。
● https://x.com/statedept/status/2031008112589594976
SECRETARY RUBIO: The goals of the mission against the Iranian regime are clear:
– Destroy their ability to launch missiles
– Destroy factories making these missiles
– Destroy their navy pic.twitter.com/KPUpMGNtDf— Department of State (@StateDept) March 9, 2026
この直後に、トランプ氏も、フロリダ州で行われた記者会見で「イラン攻撃は大きな進展を遂げている。間もなく終了する」「イランにはもう攻撃対象が存在しない」などと発言しています。一方、ヘグセス氏は、戦争省内での経費の不正使用が追及され始めたこともあってか、急にトーンダウンしています。
この状況がまたいつ変わるかはわかりませんが、今のところトランプ政権内では、戦争推進派よりも終戦派が優勢な状況のようです。
イラン戦争の成り行きについては引き続き取り上げていきますが、今号では、少し目線を変えて、かつてイランにその名を轟かせた日本人を取り上げてみたいと思います。それは、出光興産の創業者である出光佐三氏です。
イラン戦争に際して、出光佐三氏を思い出す日本人も少なからずいるようで、Xに同氏のことを投稿されていた方を見つけ、私もそのポストを引用して以下のように投稿しました。なお、3月7日は同氏の命日にあたります。
● https://x.com/ktsujino/status/2030459470426558669
米国とイスラエルによるイラン攻撃で、出光佐三氏を思い出す日本人も少なくないだろう。高市氏はイランのみを非難しているが、強きには屈して何も言えず、弱きは簡単に切り捨てるような今の日本の為政者たちには、戦後日本にもこのような気骨ある人物がいたことに、少しは思いを馳せてほしい。 https://t.co/6zb7fBVyeg
— 辻野 晃一郎 (@ktsujino) March 8, 2026
『日本人にかえれ』という著作もある出光佐三氏は、日本人であることへの強烈なこだわりの持ち主でした。太平洋戦争で資産の大半を失いましたが、復員してくる社員の首を一人も切ることなく受け入れ、玉音放送の2日後には全社員を集めて「愚痴を止めよ」と告げました。
その上で、「戦争に負けたからといって、大国民の誇りを失ってはならない。すべてを失おうとも、日本人がいるかぎり、この国は必ずや再び起ち上がる」と述べ、「ただちに建設に掛かれ」と号令を発して出光興産の再興に向けて動き出したとされます。
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「今週のXから」では、2週連続でジャック・ドーシー氏の大量リストラの件を取り上げましたが、敗戦後のどん底の中、いつ倒産してもおかしくない状況下にあって、漁業をしたりラジオの修理をしたりしながら何とか食いつなぎ、1人の首も切らないということがどういうことなのかについては、まさに想像を絶する話です。
「大家族主義」といわれる独自の経営哲学を持ち、戦後日本が欧米型資本主義や合理主義を礼賛する傾向に警鐘を鳴らし、日本政府や欧米の石油メジャーからの理不尽な圧力にもひるまずに正面から対峙した人です。
「黄金の奴隷になるな」と自らを戒めて、「互譲互助」など、日本独特の思想、文化、精神性を大切にしました。逸話には事欠きませんが、最も有名なのはイランにまつわる「日章丸事件」でしょう。今回はこの話を振り返っておきたいと思います。
欧米諸国の利権争いに翻弄されたイランは、戦後独立こそしていたものの、当時世界最大とされていた同国の石油資源は、英国石油メジャーのアングロ・イラニアン石油会社(後のBP)の管理下にありました。そのため、イラン国庫にも国民にも、石油の恩恵が回らない状況にありましたが、同国は1951年に石油産業の国有化を宣言して、西側諸国の追い出しに掛かりました。
これに猛反発した英国は、中東に海軍を派遣して、イランに石油を買い付けに来た外国籍タンカーはすべて撃沈すると、国際社会に向けて警告を発しました。経済制裁や禁輸措置を強行する英国に、イラン政府は態度を硬化させ、「アーバーダーン危機」と呼ばれる一触即発の状況になっていました。
一方、戦後、連合国による占領を受けた日本は、占領終結後も米英の強い影響下にあって、独自ルートで石油を自由に輸入することが禁じられており、それが戦後の経済復興の足枷になっていました。
イラン国民の困窮と日本の早期経済復興を憂慮した出光佐三氏は、英国のイランに対する経済制裁に国際法上の正当性は無いと判断し、原油買い付けのために自社のタンカー日章丸2世号をイランに派遣することをついに決意します。
ここまで書くだけでも、出光佐三氏の度胸と気骨に大いに興奮するのですが、長くなりましたので、この続きはまた次回にしたいと思います。
(本記事は『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中 』2026年3月13日号の一部抜粋です。次号以降の続きのほか、今号は「ジャック・ドーシー氏のAIリストラ宣言についての補足」と題した「今週のXから」や「読者の質問に答えます!」、「スタッフ“イギー”のつぶやき」など、レギュラーコーナーも充実。この機会にぜひご登録をご検討ください)
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