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「どの国でもやってる」という論点ずらし。高市早苗の「大量AI中傷動画作戦」を“矮小化”する人たちの恐ろしさ

扱い方一つで、良薬にも猛毒にもなりうるAI。その「猛毒的影響」は選挙戦の情報操作にまで及ぶ事態となっています。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、週刊文春が暴いた高市陣営による「大量ネガキャン動画作戦」を、「スピンコントロール」という言葉により正当化する動きの危うさを分析。その上で、AIとSNSが結びつくことで加速する「民主主義ハッキング」の危険性について論じています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:AIによる大量中傷動画作戦はスピンコントロールの名で免罪されるのか

「国のリーダーが範を示す」を忘れた先に待つもの。高市首相の“AI中傷動画作戦”が破壊する日本の民主主義

高市陣営の大量ネガキャン動画作戦について、単純に「それはダメだろう」と批判するのは、きわめて健全な態度であろうと筆者などは思う。ところが世の中は広いもので、「世界中誰もがやっているのだから、やるべきだ」という意見もけっこう大手を振っているようだ。

気になる動画番組があった。5月18日にライブ配信された「NoBorder NEWS」。この日、サナエトークンの開発者でもあり、高市陣営のために、AIを使って1日100~200本もの動画を作成したとされる起業家、松井健氏が出演していた。

サナエトークンや高市陣営の誹謗中傷動画について、週刊文春の報道をもとにした説明があった後、MCの上杉隆氏と松井氏との間で、以下のようなやり取りが交わされた。

上杉氏 「これ先週もそう取り上げましたけど、スピンです。スピンコントロールと言って、もう世界中で当たり前のようにやってるものなんですが、この動画作成を含めて、これは松井さん、やられたんですか?」

松井氏 「そうですね。はい、行いました」

上杉氏 「日本だとスピンコントロールってすごい悪みたいなんだけど、やってない国ないですから、これ。何度も言ってる通り。これ逆にむしろやった方がいいよとずっと言ってきたんです。25年間。はい。全世界やってるんだから」

上杉氏 「高市総理は、完全に国会答弁で否定してるんですね。松井さん、これ高市総理はこのスピンについてはご存知だったんですかね?」

松井氏 「高市総理が認識していたかは、分かりませんが、木下秘書とやり取りをして、実施いたしました」

「上杉さんがおっしゃっていただいたように、世界ではスピンコントロールが当たり前のように行われていて、実際に今年2月の解散総選挙も、中国だったり北朝鮮、ロシアも日本の選挙に入り込んで、大きな影響を与えてるような状況もあります」

「外交防衛の観点からも、国として日本を守るという観点でも、外国と戦うためにも、そういうチームが必要ではないかと個人的には思っています」

スピンコントロールは「軍隊がマスコミに対して行う情報操作」というのが、もともとの意味だったらしい。今では「政治的な情報操作」全般を指すようだが、そんな大きな括りなら、大概の政略は該当するだろう。

だが、何でもかんでもスピンコントロールで片づけるのは、物知りゆえの浅知恵とはいえないだろうか。

そもそも、世にいうスピンコントロールとは、事実に立脚しつつ、自陣営に有利な解釈や文脈、すなわち「スピン」を付与して世論を誘導する広報技術である。

この動画番組で上杉氏が例示したスピンコントロールの実例は、さきの米中首脳会談におけるトランプ氏と習近平氏の対面画像を、習氏が一段高いところに座っているかのように中国側が改変して世界に流した事実だった。

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民主主義のさらなる劣化につながるネガキャン動画作戦の矮小化

政治家がいかに自分を強く見せるか、あるいは相手をいかに低く見せるかというイメージ操作は、古くからある手法であり、世界で広く行われているといってもおかしくはない。しかし、今回高市陣営が行ったとされるのは、それとは明らかに異なっている。

今年の衆院選で、中道候補に浴びせた大量動画の中の文言を文春記事からいくつか引用してみよう。

枝野幸男 <国民の血税を1日3億円もドブに捨てながら政局ゲームに興じるプロのクレーマー>

岡田克也 <息を吐くように嘘をつく「ミスター真面目」>

馬淵澄夫 <一度国を壊した素人に今の激動を乗り切れるはずがない>

文春の記事によれば、松井氏は知人から「総裁選で高市陣営が苦戦しているので手伝ってあげてほしい」と木下秘書を紹介され、すぐにチームに参加した。苦戦からの逆転のためには、対立候補へのネガティブな内容のショート動画をAIで大量につくるのが効率的と松井氏がアドバイスして、作戦は進められた。

その後の衆院選で再び「部隊」が動き出すと、木下秘書はショートメッセージで具体的な中道批判を次々に依頼。松井氏は写真とAI生成のイメージ図を組み合わせ、ほぼ自動で大量生産し、様々なアカウントを使って投稿を繰り返した。

これは嘘や真偽不明の情報をバラまいて社会的に抹殺しようとする行為にほかならない。「スピンコントロール」という言葉で一括りにし、「外国がやっているから日本も」とするのは、意図的な論点ずらしとしか思えない。

そもそも「外交・防衛のためにも誹謗中傷動画の大量作成部隊が必要」という論理がさっぱりわからない。外国からの工作が怖いからといって、自国内の政敵を、匿名AIを使って組織的に誹謗中傷して潰すことが、なぜ国の「防衛」になるのか。 全く説明がついていないのだ。

外国からの情報工作を懸念するのであれば、本来とるべき策は「透明性の確保」「ファクトチェックの強化」「デジタルリテラシーの向上」といった、民主主義を強化する方向をめざすべきであろう。

選挙における誹謗中傷は確かに昔からあった。だが、それはチラシ撒き、週刊誌リーク、口コミなどであって、人力とコストに限界があり、情報の拡散速度は遅かった。

今は全く違う。AIによる自動量産とSNSアルゴリズムによる拡散である。民主主義への介入が、大量破壊兵器化しつつあるのだ。

高市首相は相変わらず国会で「私自身も秘書も面識がない」と、松井氏との関係を否定している。しかし、木下秘書との67通にのぼるショートメール、LINE、シグナルの“証拠メール”を文春に提供したであろう松井氏は「世界ではスピンコントロールは当たり前」とうそぶいているのだ。高市陣営の本音もまた松井氏と同じなのではないだろうか。

「世界で」「昔から」「どこの陣営でも」。そんなレッテルを貼ることで、今回のような「民主主義ハッキング」の異常性を、あたかも「いつもの光景」であるかのように錯覚させようとするべきではない。

一国の首相の陣営で発覚したネガキャン動画作戦の持つ意味を矮小化することは、民主主義のさらなる劣化につながる。国のリーダーが範を示すという、あたりまえの“倫理”を忘れた先に待っているのは、政治エゴがはびこる無間地獄だ。今、この欺瞞を看過すれば、日本の選挙戦は遠からず、「誰がより巧妙に大衆を騙すか」を競う、末期的で殺伐とした空中戦へと姿を変えてしまうだろう。

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