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中国はカネのためなら嘘もつく? 超富裕層にすり寄る習近平の変節

先日掲載の記事「日本は中国を軽視するな。ダボス会議でわかった習近平の真の狙い」でもお伝えしたように、トランプ大統領の誕生で自分たちの身の上を案じ始めた超富裕層たちに向けて、点数稼ぎとも取れる演説を行った習近平国家主席。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、この演説を受けた一部の超富裕層が中国を見直せば、また世界の流れは変わると推察、さらに気になるアメリカの「TPP離脱問題」についても持論を述べています。

習近平、「核なき世界」を目指す!発言の真意

スイスで1月17日~20日、世界中の超エリートが集結する「ダボス会議」が開かれました。ずいぶんと「暗い雰囲気」だったそうです。なぜでしょうか?

ナショナリストトランプがアメリカの大統領になったから。「ダボス会議」に参加する人は、政財界の超エリートばかり。そして、彼らは概してグローバリスト」なのです。なぜ?

元から住んでいる労働者は苦しくなっていきますが、雇う側の超富豪は、喜びます。というわけで、「グローバリズム超富豪たちはますます豊かになっていく

ちなみに、この「超富豪」という用語。いかにも「陰謀論ぽい」と思う方も多いでしょう。しかし、この下の情報を知れば、「他の用語」は思い浮かびません。

世界人口の半分36億人分の総資産と同額の富、8人の富豪に集中

AFP=時事 1/16(月)13:01配信

 

【AFP=時事】貧困撲滅に取り組む国際NGO「オックスファム(Oxfam)」は16日、世界人口のうち所得の低い半分に相当する36億人の資産額と、世界で最も裕福な富豪8人の資産額が同じだとする報告書を発表し、格差が「社会を分断する脅威」となるレベルにまで拡大していると警鐘を鳴らした。

そして、これまで欧米では、「超富豪 >>> 政治家」という関係だった。つまり、政治家は、超富豪に奉仕し、「グローバリズム」を推進していく。ところが、ナショナリスト・トランプが超富豪お気に入りのヒラリーに勝ってしまった。それで、ダボスに集結していた超エリート達は、オロオロしていた。

超エリート層に「取り入った」習近平

そんな超エリート層の心理を知り見事に取り入った」男がいます。そう、習近平。彼は1月17日、ダボス会議で演説し、「まさにグローバリストが聞きたいこと」を話しました。

習主席、保護主義に警鐘 トランプ新政権にらみ、ダボス会議で講演

AFPBB News 1/18(水)9:37配信

 

【1月18日 AFP】中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は17日、スイス・ダボス(Davos)で開幕した世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で講演し、世界が抱える諸問題の責任をグローバル化に転嫁したり、保護主義の殻に閉じこもったりするべきではないと警鐘を鳴らした。

これは、「保護主義者トランプを批判したのです。

中国は今後も「門戸を開き」、新興国がグローバル化の恩恵を受けられるよう後押ししていくと言明。同時に、トランプ氏が脱退を示唆している地球温暖化対策の新たな国際的枠組み「パリ協定(Paris Agreement)」を支持する意向を示した。

 

また、「世界の諸問題を経済のグローバル化のせいにするのは無意味だ」と指摘し、2008年に欧米を襲った金融危機の原因は自由貿易ではなく、圧倒的な規制不足にあったという中国の見方を強調した。
(AFPBB News 1月18日)

習近平、「中国はグローバリズムを推進していく!宣言です。トランプ大統領誕生で劣勢になっていた支配者たちは、とても喜びました。

習近平の「変身」は見事です。なぜか?

習近平は2012年11月、中国のトップになった。この時彼は、「ナショナリストとして登場したのです。彼のスローガンは、「中国の夢」。「中国を、アヘン戦争があった1840年以前の栄光ある地位に戻す」。これは、「ナショナリズム的スローガン」です。だから、グローバリストの超エリートたちは、中国から逃げ始めた。

シティやバンク・オブ・アメリカ、ゴールドマン・サックス・グループなどが2012年の初め以降、中国の銀行株を少なくとも140億ドル(約1兆7,000億円)相当を売却したという。

 

投資先としての中国の落日ぶりを象徴するのが、ブラジル、ロシア、インドを含む4カ国に投資する「BRICs(ブリックス)ファンド」をゴールドマンが閉鎖したことだ。ゴールドマンはBRICsの「名付け親」として新興国投資ブームを作ったが、中国が人民元を突如切り下げた時期にあたる8月12、13日の会合で閉鎖を決め、10月に別の新興国向けファンドと統合した。「予見できる将来に資産の急増が見込めない」と閉鎖理由を説明している。
(夕刊フジ 2015年11月25日)

その結果、中国経済はボロボロになってしまいました。習近平は、自らの過ちを悟り、超エリート達との和解を試みているのです。この作戦が成功し、投資が戻ってくれば、中国経済はずいぶん楽になるでしょう。

習近平は、「核なき世界」を目指す???

さて、習近平は、さらに先に行きます。

習主席、核なき世界の実現呼び掛け 国連欧州本部で演説

AFP=時事 1/19(木)3:25配信

 

【AFP=時事】(更新)中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は18日、スイス・ジュネーブ(Geneva)の国連(UN)欧州本部で演説し、各国に対し、核兵器が禁止され現存の貯蓄分も破壊される世界を目指すべきだと呼び掛けた。習国家主席は「核兵器のない世界を実現するため、核兵器は完全に禁止され、時間をかけて破壊されるべきだ」と述べた。

日本人からすると、「よくこんなウソを平気で語れるな!」ということなのですが…。中国の指導者は、「ウソも戦略のうち」ですから、平気で何十年もウソをつき続けることができます。

「核なき世界」といえば、すぐ思いだされるのはオバマさんでしょう。トランプ当選を受けて、超エリート達は、考えています。「トランプと比べ、オバマはなんと素晴らしい大統領だったのだろう…」と。

ヒラリー大統領が誕生し、オバマ路線を継承し、「グローバリズム」をさらに進める計画だった。ところが、それが挫折した。そんなナーバスな超エリート達に対し、習近平は、「俺がオバマの継承者になる!!!!!!」と手を挙げたのです。

もちろん、彼が「核なき世界」を目指すはずはなく、要は、「超エリートに都合のいい政治をするからまた投資してね!」ということです。

世界のパワーバランス

少し現在の世界のパワーバランスを見てみましょう。

「どの国が大国?」という質問の答えは、いろいろあるでしょう。リアリズムの大家ミアシャイマーさんは、アメリカ中国ロシアを「大国」としています。世界一の戦略家ルトワックさんは、これにイギリスやフランスを加えています。私は、ミアシャイマーさんの考えに賛成です。

ブッシュ(子)時代を見ると、

それで、超エリート達は中国を非常に大切にしていました。だから、中国は栄えた。プーチン・ロシアは、超エリートに嫌われていましたが、原油高で繁栄しました。オバマ時代を見ると

というわけで、アメリカ経済は復活し中国は沈み始めました。ロシアは、「クリミア併合」で、超エリートにケンカを売り、「制裁」「原油安」「ルーブル安」で苦境に陥りました。トランプ時代を見ると、

というわけで、習近平は、行き場を失った超エリートの資金を引っ張ろうとしている。超エリート達はそんな習近平を見直し始めています。超エリート層の声を代弁する男ソロスは、2016年1月「中国経済のハードランディングは不可避!」と宣言し、世界を驚かせました。しかし、2017年1月19日、彼はこんなことを語っています。

習近平国家主席は中国を社会的にもっと開かれた状態にすることも、もっと閉じられた状態にすることも可能だが、中国自体はより持続的な経済成長モデルに向かうだろうと語った。
(ブルームバーグとのインタビュー)

1年でずいぶん変わりました。何が変わったかというと、アメリカ大統領と習近平が変わったのです。

安倍総理の深謀???

最後に、わが国の動きについて触れておきましょう。安倍総理はナショナリストとして登場しました。それで、2013年末から2014年初まで、ずいぶんバッシングされた。特にオバマさんから嫌われていました

しかし、2014年3月の「クリミア併合」、2015年3月の「AIIB事件」で、オバマは、安倍さんを取り込む必要がでてきた。それで、安倍さん、オバマさんの関係はどんどん良くなっていきました。

そして、アメリカに、ナショナリストのトランプ大統領が誕生した。安倍さんとトランプさんは、「ナショナリスト同士で波調が合うはずです。

しかし、安倍さんは、同時に「TPP推進」などと言っている。皆さんご存知のように、トランプさんは、大統領就任直後、「TPP離脱」を宣言しています。安倍さんがトランプをマジで説得する!と考えているのなら大問題です。「公約を早速破れ!」ということですから。

しかし、「グローバリスト達を怒らせないようにTPPを推進するフリをしておこう」ということであれば、立派ですね。

日本は、対中国で、トランプ政権とどこまでも仲良くする必要がある。同時に、超エリートのグローバリスト達と不必要な対立を避ける必要もあります。そういう役割(反グローバリズムトランプさんとプーチンさんにやってもらいましょう。

image by: Drop of Light / Shutterstock, Inc.

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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