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ソフトバンク最高技術責任者が漏らした「ファーウェイ排除」への本音

先日もお伝えした、アメリカ政府による「ファーウェイ排除」の動き。結局ソフトバンクは、同社製品の採用を断念する形となりました。ケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さんは、今回ソフトバンクの最高技術責任者である宮川潤一氏を取材。当事者が語った「排除」に至るまでの経緯や、それに対する本音などを、自身のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』で紹介しています。

基地局ベンダーは、キャリアのネットワークから情報を抜けるのか━━「4Gと5Gでは違う」と語る、ソフトバンク宮川潤一CTO

事態の収束が見えないファーウェイ問題。アメリカがファーウェイ製通信機器の安全性を疑問視し、日本などに政府調達しないように通達。日本はまんまと同調した格好だ。

ただ、日本政府としては民間には具体的なメーカー名を列挙して、調達しないように圧力をかけるのは難しい。しかし、5Gの免許申請においては「機器メーカー名を記載しろ」という条件があるようで、免許を欲しいキャリアとすれば、そこに中国メーカー名を記入するのは躊躇せざるを得ない。結果として、5Gの機器調達から中国メーカーは排除されることになりそうだ。

今回の騒動で気になったのが「そもそも、ファーウェイはキャリアに納入している機器から情報を抜き出せるのか」という点だ。キャリアがネットワークを管理しているのだから、そうした怪しい動きはキャリア側で把握できるのではないか、と思うのだ。

ソフトバンクの宮川潤一CTOによれば「4Gと5Gでは基地局の仕組みが違う5Gでは基地局側で情報を処理する仕組みがあり得る。MEC(Mobile Edge Computing、基地局などにサーバーを置いて、超低遅延で処理する仕組み)になると、サーバーが基地局に近い場所におかれるようになる。そういう意味では米国政府の懸念も理解できる

一方、4Gはコア側で暗号化したデータをトンネルのようにデータ転送しているので、普通の考え方からすると、(データの抜き取りは)難しいのではないか。少なくとも私の能力ではできません。いろんな人がいるので断言はできないが、4Gと5Gでは相当、違うという認識だ」という。

ちなみに、基地局ベンダー関係者に話を聞いたところ「無線部分や伝送路などは暗号化されているので、かなり難しいのではないか。ただ、途中、ルーターを経由することになるのだが、その際には一度、暗号化が解かれる状態になるため、そこでは(情報が抜き出せる)可能性はゼロではない」という。

となると、5Gの場合、基地局近くのMECにより、ルーターなどがあった場合に情報が抜き取られる可能性があり得るかもしれないということのようだ。

となると、5Gの機器設備選定の際には、やはり中国メーカーは外すべきという発想にならざるを得ないのか。

ただ、宮川さんの「ファーウェイはコストも安く、技術的には先の世代を見ている」という発言を聞いてしまうと、やはり、ソフトバンクとしてはファーウェイを継続して採用していきたいんだなという、断腸の思いが伝わってくる。

「ウルトラギガモンスター+」のような料金プランも、ファーウェイのMassive MIMOなどの技術があったからこそ導入できたわけで、アメリカに同調し、安易にファーウェイを外すことが日本のモバイル業界にとって健全なことなのか。もうちょっと時間をかけて、議論しても良いのではないだろうか。

ファーウェイ製スマホの未来はどうなってしまうのか━━キャリアに判断を迫る、アメリカ「国防権限法」

宮川CTOのファーウェイに関する話は示唆に富んでいた。

ネットワーク機器だけでなく、ファーウェイ製の端末に関してはどんな扱いになりそうなのかといった話もあったからだ。

宮川CTOは、政府と端末に関する話もしていたようで、政府の方針では「買う側が選択できるものであれば、(政府として調達に対して)言及するものではない」という考えのようだ。

つまり、キャリアが扱うファーウェイ製スマホに関しては、政府としては特に圧力をかけるわけではなく、自由に販売できることになりそうだ。

ただし、やっかいなことになりそうなのが、アメリカの「国防権限法」の存在だ。2019年8月13日からは「ファーウェイ、ZTEなどを含む5社が製造した部品を組み込む他社製品を調達することを禁止」。さらには2020年8月13日からは「5社の製品を社内で利用している世界中の企業を対象に、いかなる取引もアメリカ政府とはできなくなる」という。

ソフトバンクが直接、アメリカ政府と取引をすることはないだろうが、いまのところ、グループ会社としてスプリントがある。また、ソフトバンクビジョンファンドを通じ、数多くのアメリカ企業に出資している状況にある。

ソフトバンクとしては、社員が社内でファーウェイスマホを利用するのも難しくなるだろうし、製品を調達し、販売することも困難になるだろう。

去年から今年にかけて、ソフトバンクでもファーウェイのMateシリーズが扱われるようになったばかりだ。もちろん、NTTドコモでもP20 Proを扱い始めている。KDDIも同様にファーウェイスマホを扱っているが、国際通信関連でアメリカ政府と取引をする可能性も十分にあるだろう。

日本政府としては、キャリアに対してファーウェイスマホの販売は何ら問題視する要素はないかもしれないが、アメリカ方面を意識するとキャリアとしても扱いづらくなる。

ファーウェイとしては、ようやくキャリア向けに製品を納入できるようになったものの、アメリカ政府の意向に阻まれ、さらに国内では完全分離プランの導入により、高額なファーウェイスマホに割引を適用してキャリアが販売するという道も絶たれようとしている。

今年、世界シェア2位となり、いよいよサムスン電子の背中が見えた矢先に、このような強烈な逆風が吹くとは、ファーウェイ自身も予想外の展開だったはずだ。

image by:josefkubes / Shutterstock.com

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日経トレンディ編集記者として、ケータイやホテル、クルマ、ヒット商品を取材。2003年に独立後、ケータイ業界を中心に執筆活動を行う。日経新聞電子版にて「モバイルの達人」を連載中。日進月歩のケータイの世界だが、このメルマガ一誌に情報はすべて入っている。

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