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Vladimir Gjorgiev/Shutterstock

ブラック企業がよく使う、定額残業代という名の長時間タダ働き制度

残業代を毎月一定額で支給されている人ってけっこう多いですよね。「うちはいくら残業しても決まった額しか残業代は出ない」といったボヤキもよく聞かれますが、実はこれ、ブラック企業がよく使う手法。超過した分の残業代が支払われない場合や、一定の残業時間に満たないと「固定残業代」が支払われない場合は、過去2年間さかのぼって請求することもできるんだとか。現役の社会保険労務士がお届けするメルマガ「働くあなたが幸せであるために 知っておいて欲しい労働法規」では、問題となっている定額残業代について詳しく説明しています。

残業代について

定額残業代というものをご存知ない方もいらっしゃると思います。

定額残業代とは、1日について8時間または1週間について40時間(44時間)を超えて働いた時間について、会社(使用者)には残業代を支払う義務があります。

ただ、細かい残業代の計算を行うのはなかなか大変で手間もかかります。

そこで、毎月の残業代は▲▲▲円と決めてしまって、この額を基本給に上乗せして支払う制度です。

ですから、たとえ残業が極端に少ない月でも、あるいは全くない月でも、この定額残業代を支払います。

「おや!? お得じゃん!」と思われた方、ヤバイです!

この制度は、いろいろ細かなルールに従わないと、適法として利用することができません。多くのブラック企業は、この定額残業代制度を、従業員を『長時間のタダ働き』させることに活用しています。

裁判になった例を1つあげます。居酒屋チェーン「日本海庄や」の新入従業員(24歳)が、入社後わずか4カ月で過労死した事件です。

この従業員の方、初任給19万円余りに、月約7万円の定額残業代があらかじめ組み込まれていました。しかも、残業時間が80時間に満たない場合は、この定額残業代を減額するというもの。(この場合、正確な意味での定額残業代とは呼べませんね)実際には、1月当たり100時間を越える残業が行われていました。

厚生労働省の過労死基準では、

1.発症前1カ月に100時間超の時間外労働

または

2.発症前2~6カ月に渡り1カ月当たり80時間超の時間外労働が行われた場合、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされていて、いつ過労死してもおかしくない状態。

この裁判では、「日本海庄や」の本部企業である「大庄」と、「大庄」の取締役4名に対し、約7800万円の支払いが命じられました。この裁判の中で裁判所は、「労働者の至高の法益である生命、健康の重大さに鑑みて、これに、より高き価値を置くべきである」と述べ、「責任感のある誠実な経営者であれば、自社の労働者の至高の法益である生命、健康を損なうことがないような体制を構築し、長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務があることは自明である」としました。

この文言、裁判所はかなり怒っています

非常に厳しい口調であり、相当憤っているのを感じます。それだけ、「大庄」とその取締役らの行為はヒドイという事!

では、定額残業代は全て違法なのかというと、そんなことはありません。合法となる要件を以下にあげますが、全て満たせばちゃんと認められます。

(要件1)実質的に見て、その定額残業代が残業代としての性格を有していること。
(要件2)定額残業代とそれ以外の賃金部分とが明確に区別できること。
(要件3)定額残業代の額が、実際に残業した時間に対する法定残業代に満たないときは、その差額を支払うこと。

(要件1)を満たすには、就業規則や労働契約などで、残業代であることが示されていることが必要です。

更に、この定額残業代が、時間外労働に従事する者に対してだけ支払われていることも重要です。

(要件2)を満たすには、この定額残業代が、何時間分の時間外労働に相当するのかが示されていなければなりません。最新の裁判例では、この定額残業代のうち、何時間分が時間外労働の賃金なのか、何時間分が深夜割増賃金に当たるのか、何時間分が休日割増賃金に当たるのか明確にするよう求めています。更に、定額残業代の残業時間の上限は45時間以内に抑えるべきです。これを越えると、無効と判断されやすくなります。

(要件3)を満たすには、毎月の残業時間を把握して、定額残業代に相当する残業時間を超えた場合については、別途、残業代を支払わなければなりません。

(要件3)を考えると、結局、従業員の労働時間について正確に把握しなければならず、通常通りの残業代を支払う手間も、定額残業代を採用する手間もほとんど変わりません。

定額残業代を採用するメリットとしては、「日本海庄や」のように、募集の際に見せかけの給料を高く見せることで、より多くの人を集めることができるということぐらい。

反面、リスクは大きい。

もし、この定額残業代が(要件1~3)を満たさず、残業代として認められなかった場合、残業代は未払いとされます。この場合、定額残業代も基本給と同一と考えられるので、「定額残業代+基本給」を基準にして2割5分の割増賃金が計算されます。

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わかりにくいので例を示します。

月の所定労働時間 160時間
月給20万円
定額残業代(30時間分)5万円

通常の残業代 20万円÷160時間×1.25=1563円(1時間あたり)
※しかも、月30時間までは追加で残業代を支払う必要なし。

定額残業代制度が無効とされた場合

(20万円+5万円)÷160時間×1.25=1953円(1時間あたり)

この金額を、残業時間に対してまるまる支払わなければならない。
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それを過去2年分さかのぼって支払う義務が生じ、それと同額の付加金の支払い命令がされる場合もあります。
最近は、定額残業代制度=ブラック企業みたいなイメージも定着しつつあるので、社会保険労務士である私としては、この制度の利用は控えることをおすすめします。

 

「働くあなたが幸せであるために 知っておいて欲しい労働法規」より

働くことは、幸せになるための手段の一つである! 現役の社会保険労務士が、働くあなたとあなたの大切な人に、是非知っておいて欲しい労働法規について、やさしく解説致します。
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