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Lisa S./Shutterstock.com

中国投資銀、オバマの弱腰が招いたパクスアメリカーナの終わり

中国が提唱し主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)。これに参加しないよう各国に強く働きかけたアメリカでしたが、英・仏・独・伊、韓国やブラジルなどが相次いで参加を表明しました。ジャーナリストの高野孟さんは、この流れは当然だと語ります。

中国主導の「アジアインフラ投資銀行」に参加続々

『高野孟のTHE JOURNAL』Vol.177より一部抜粋

韓国政府は3月27日、中国が提唱する新しい国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)に創立メンバーとして参加することを正式に発表した。さらに28日にはロシア、ブラジル、オランダが相次いで参加表明し、これにより、G7諸国のうち英仏独伊が参加しカナダが検討中、またG20諸国ではサウジアラビア、インドネシア、インド、トルコ、韓国、ブラジルが参加表明し豪州が検討中と、参加国は約40に達した。これに参加しないよう各国に強く働きかけてきた米国と、それに唯々諾々と従ってきた日本が、21世紀的な金融秩序の形成から取り残される形となった。

この流れについて米誌「ニューズウィーク」3月31日号は「アメリカの手痛い失策」と題して、「同盟国に不参加を呼び掛けてきたアメリカは、イギリスの加盟表明を中国への融和政策だと強く非難した。だが、イギリス批判はアメリカの無力さをかえって際立たせるだけだ。皮肉なことに、アメリカが警戒心をあらわにしたしてせいで、AIIBは米中の対立を象徴する存在となってしまった。……しかもアメリカはその戦いに敗れつつある」と指摘した。

事の本質は、米中間の勝った負けたではなく、第2次大戦後に米国主導で創られた世界銀行、アジア開発銀行を中心とした国際開発投資のシステムとルールをそのままにしておいて、21世紀の世界の繁栄センターとなりつつあるユーラシア大陸の旺盛な投資需要を賄えるのかどうかということにある。答えはハッキリしていて、ユーラシアの大繁栄を主導しつつある中国とインドとロシアの資金力と構想力、サウジを中心とするイスラム金融パワー、それらとの連携に危機脱出の機会を見出そうとする欧州が積極的に参与する新しいシステムとルールの創出が求められている。

>>次ページ 台頭する中国への腰が定まらない米国の失策

時あたかも中国・海南島で開かれた国際金融フォーラムで中国政府系投資ファンド「中国投資」の丁学東会長は「世界の投資を巡るルール作りは歴史的に先進国主導で行われてきたが、新興国が主体的に関与すべきだ」と語ったが、その通りで、20世紀的な米欧日中心のシステムとルールが21世紀的な中国主導のシステムとルールに置き換えられようとしているのであり、それに乗りかかって行くことに「失敗」した米日は、今さら他国の動向を見て参加する訳にはいかず、せいぜい世銀・ア開銀がAIIBと敵対するものではないと位置づけ直して、AIIBと協調して仕事を進めていきたいと表明する以外に道が残されていない。

こんなことになるのは、台頭する中国をどう扱うかについて、米国の腰が定まっていないからである。一方では、中国、インドをはじめユーラシアの巨大市場が欲しい多国籍企業などビジネス界や民主党リベラル派などの対中国融和論があり、他方では中国の軍事的台頭を危険視する共和党タカ派や軍産複合体などの対中国対決論があって、オバマ大統領は基本的に前者の立場だが、後者に足を引っ張られて曖昧化せざるを得ない。

TPPが、アジア・太平洋の包括的な自由貿易圏を目指すのであれば、最初から中国を参加させなければ意味がないことは、誰が考えても分かることだが、オバマはそうせずに、先に米国主導で新しい貿易ルールを強引に作ってしまって、もし中国が入りたいなら膝を屈して従えと言わんばかりの経済的“中国包囲網”を敷こうとした。ところが彼は他方では、習近平主席との親密な関係を重視し、米国のアジア回帰が決して軍事的な“中国包囲網”を意図するものでないことを繰り返し表明していて、戦略的整合性を欠いている。

>>次ページ 米国覇権が終わり、世界は多極システムへ

つまり、中国をどう扱ったらいいのか思い惑っているのだが、裏返せば、米国は実は、自分自身をどう扱ったらいいか分からなくなっているということでもある。20世紀後半の「アメリカの世紀」は終わりつつあり、それと共に数世紀に渡って続いてきた覇権システムそのものが終わって、世界は多極システムに向かいつつあるというのに、米国内には今後もまだ覇権システムの時代は続くかの前提に立って、米国の覇権を維持し中国やロシアの覇権を阻止しようとする時代錯誤の冷戦型の発想が根深く残っていて、それが「オバマの弱腰」批判という形で米国が多極世界へと適合しようとする努力を攪乱している。

多極世界では、安全保障にせよ経済にせよ、分野別・地域別に関係する当事国を網羅して共同で新しいルールやシステムを作り上げていくことが必要で、東アジアやユーラシアに関してはよろず中国を巧く巻き込むことなしにはどんなルールやシステムも成立しない。そのことが頭で分かっていても体が動かないというのが、ニューズウィークが言う「アメリカの手痛い失敗」の意味である。

 

『高野孟のTHE JOURNAL』Vol.177より一部抜粋

【Vol.177の目次】
1.《INSIDER No.776》
一体何なのか、鳩山クリミア訪問を巡る狂騒
──異論を許さない嫌~な国柄へ

2.《FLASH No.090》
「農協潰し」は安倍政権の政治的怨念
──日刊ゲンダイ2月26日付から転載

3.《CONFAB No.175》
閑中忙話(2015年03月08日~14日)

4.《SHASIN No.153》付属写真館

 

『高野孟のTHE JOURNAL』

著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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