なぜ日本はできない。独機墜落事故、迅速な情報開示という唯一の救い

Lukas Rebec / Shutterstock.comLukas Rebec / Shutterstock.com
 

全世界に衝撃を与えたドイツのジャーマンウィングス機墜落事故。次々と事実関係が明らかになってきていますが、ジャーナリストの冷泉彰彦さんは、その「情報開示の早さ」はEUにおいて「情報の透明性」が確保されている証拠であり評価に値すると述べ、今後の捜査の焦点となるであろう問題についても言及しています。

ジャーマンウィングス墜落事故を考える

『冷泉彰彦のプリンストン通信』第57号より一部抜粋

既に報道されていることですが、独仏の警察当局が連携して捜査結果をどんどん情報公開したことは救いでした。この種の事件に関しては、どんなに証拠がハッキリしていても、「タイミングを見計らって発表しよう」とか、事件に個人的に関係した人びとに個人的に知らせた後で公表しようといった行動をとりがちになるものです。

特に事故機をオペレートしていた経営の関係、あるいは管制や規制関係の当局などは将来的に責任を問われる危険があり、「発表前にある種の調整を」つまり「偉い人だが責任を問われそうな人」には「その人の権力に見合った心の準備期間」を与えようというメカニズムは働くものです。

一方で遺族の関係に対して衝撃的な事実は「メディアで公表される前に、直接関係者から伝達する」というのがセオリーで、どうしてもこの種の事件の場合に時間がかかるのです。

ですが、ボイスレコーダー回収後、極めて早期に事故原因に関する発表があったこと、しかも墜落現場の主権を有するフランスの検察が発表したというところには、そうした「事情」よりも事実関係を発表すること、つまり情報の透明性の確保ということが優先されたのだと思います。

EUというのは今でも壮大な実験を続けている組織ですが、この「情報の透明性」ということが実現できているということだけでも、評価に値するように思われました。

現在は、恐らくは故意に機体をアルプスに激突させたという容疑が濃厚になっている中で、このアンドレアス・ルビッツ副操縦士に関する捜査が進行中です。捜査の焦点は、同副操縦士に対する心療内科や眼科などの治療の実態と、そうした健康上の問題に関して航空会社に管理上の過失があったかどうかの問題になっていくと思います。

その場合に、EU並びにドイツではアメリカや日本などとは異なる法制で、個人情報の保護や、労働者の権利保護がされている側面も出てくると思いますが、同時に遺族への補償など経営側の責任を問う動きの方も、徹底して出てくると思われます。今後も、この問題を注目していきたいと思います。

 

『冷泉彰彦のプリンストン通信』第54号より一部抜粋

【第57号の目次】
1.巻頭言 ジャーマンウィングス墜落事故を考える
2.メイン・コンテンツ「プリンストン通信」(第57回) 私の住むニュージャージーとは?
3.連載コラム「フラッシュバック70」(第39回)
4.Q&Aコーナー

 

『冷泉彰彦のプリンストン通信』

著者/冷泉彰彦(作家)
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
≪無料サンプルはこちら≫

 

print
いま読まれてます

  • なぜ日本はできない。独機墜落事故、迅速な情報開示という唯一の救い
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け