「AIが人の職を奪う」という議論が盛んですが、単純な置き換えの発想では本質を見誤ります。たとえば学校教師の仕事。AIチューターが教壇に立つ未来を想像する人もいますが、実際にはAIの圧倒的なコストの低さとスケーラビリティにより、生徒一人一人に24時間つきっきりで教えることが可能になり、教育の仕方そのものを根本から変えることができるのです。メルマガ『週刊 Life is beautiful』では著者で著名エンジニア・投資家の中島聡さんが、AIを「仕事の代替」ではなく「新しい価値の創出」という観点から捉え直す視点を提示しています。
AIは人の職を奪うのか?
最近、「AIはどんな人の職をどのくらい奪うのか」という議論が盛んにされています。「AIが人の代わりに仕事をしている時代」を想像したくなる気持ちは分かりますが、私は少し異なる未来を見ています。
分かりやすい例が学校の教師です。人間の教師の代わりに、AIチューターが教壇に立ち、生徒たちに授業をしている姿を想像する人がいるかも知れませんが、そんな世界は来ないと私は思います。
AIチューターが変える教育の形
AIにはAIの良さがあります。一番の利点は、そのコストとスケーラビリティです。人間の教師の数には限りがあるし、人件費も高いので、これまでの授業は、教師が教壇に立ち、30人から50人の生徒に対して、講義形式の授業を行うしかありませんでした。
従来型の講義形式の授業は、平均的な生徒を対象に作られているため、一旦落ちこぼれてしまうと追いつくことが不可能になるし、逆に、理解が早い生徒たちにとっては「退屈な授業」になってしまうという欠点があります。
しかし、AIであれば、その圧倒的なコストの低さとスケーラビリティにより、生徒一人一人に24時間つきっきりで教えることが可能になります。それぞれの生徒の得意・不得意・性格を理解した上で、その生徒にその時点で必要な教育をマンツーマンで施すことが可能です。
従来のように、「1時間目は国語、2時間目は算数」のような時間割や、「割り算は小学3年生で勉強する」などの固定的なカリキュラムも不要になります。国語が不得意な生徒には、他の生徒に追いつくまで、重点的に国語ばかりを教えることも可能です。逆に、算数が得意な子には、どんどんと先に進んでもらうことも可能です。
つまり、圧倒的に安くてスケーラブルなAIの誕生により、教育の仕方を根本的に変えることが可能になりつつあるのです。
この例を見ても分かる通り、「人間の教師をAIで置き換えることにより人件費が節約できるか」「人間の教師をAIで置き換えるべきか否か?」という従来型の発想でいる限りは、そんな未来に到達することはできません。
もちろん、AIチューターの時代になっても、AIに対して「どんな教育をすべきか」を指示するのは人間だし、友達や大人との付き合い方を教えることができるのは人間の教師だけです。AIチューターを与えても、勉強することを拒否する子供もいるでしょう。
それゆえ、そんな時代になっても教師は必要だと私は思います。ただし、AIチューターの誕生により、教師の役割は大きく変わるだけなのです。ある意味、生徒一人一人に24時間つきっきりで教えることができるAIチューターは、教師にとってはスーパー・パワーなのです。
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