オランダの「寿司食べ放題」で嫌がらせ?巨大握りを出す意味とは

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ヨーロッパ在住の日本人たちが、その土地ならではのユニークな話題を、リレー形式で綴っていく『出たっきり邦人【欧州編】』。今回はオランダ在住のあめでおさんが、現地ですっかり定着しているという「食べ放題のお寿司屋さん」をご紹介。元を取るべく食べまくる客と、それを防ぎたい店側との“静かな攻防”とは?

注文の多い日本料理店

オランダ各地の日本料理店といえば、10年前なら、中国人などがやっている鉄板焼きのお店でした。日本の鉄板焼きではやらないアクロバット調理がお約束で、卵焼きを客の口めがけてシュートし、入っても外しても盛り上がるという、参加型(?)のレストランです。お店によっては、エプロン代わりにテラッテラの派手なサテンのKIMONOが配られ、みんな内心「えーー……」と思いながら袖を通します。はたから見ると、いい大人が無理やりパジャマパーティーに引きずり込まれたような有様で、哀れをもよおします。

そんな鉄板焼きは、料理の質と量に関係なくお値段が立派です。和食という肩書きがあるだけで値段を高くできたのも、日本食に関する一般人の知識が限りなくゼロに近かったからでしょう。和食好きであることが一種のセレブなステータスだった当時、鉄板焼きは、余裕のある人たちが、ちょっとわかった風な顔をして行くお店だったのです。でもそれでは、景気が悪くなると客足が遠のいていきます。

その後、All You Can Eat(食べ放題)スタイルのお寿司屋さんを街中で見かけるようになります。やはり、日本人以外のアジア人たちが手がけるお店ばかりで、大人1人25~30ユーロで2時間半食べ放題(ドリンク別)という、外食が高くつくオランダでは割とお得な設定です。メニューは、寿司に代表される冷菜と、肉・魚のグリルものが半々で、そこに数種類の中華デザートが加わります。定額で好きなものを色々と少しずつ楽しめるのが魅力で、米を主食としない現地人なら、寿司をいくつかつまんだ後は、温かい肉料理を食べたいので、このメニュー構成がぴったりくるようです。

リーマンショックがもたらした不景気の波にも後押しされたのでしょう、店舗数は着実に増えていき、最近のデータによると、全国で400店舗にまで膨れ上がっているそうです。九州くらいの国土に約1700万人が暮らす小さな国のことですから、なかなかの密集度だと思います。

たとえばオランダ南部のティルブルフ(Tilburg)市では、数年前からでしょうか、中心部の大通りにAll You Can Eatのお店が3軒も並びました。さすがに飽和状態になったのか、今年の6月には1軒閉店しましたが、その間に同じエリアにもう1軒できたので、中心部には相変わらず3店舗あるわけです。かつて紡績工場で栄えたこの町は、工場労働者が多く暮らしていたことから、オランダ南部の他都市に比べると外食文化が発達しておらず、また大学があって若い人も多いため、エコノミーな飲食店は新規参入しやすかったのかもしれません。しかし、この町で同じ商品を扱うお店がこんな風に並ぶとしたら、カフェか靴屋くらいでしたから、この人気は一種異様な現象です。

こうして、日本に縁も興味もない人たちが、手軽に寿司を食べられるようになりました。でも、日本食に対する認識が高まったかといえば、かなり個人差があるようです。相変わらず、寿司とは魚を生で食べる料理のことだと思っている人も少なくありません。寿司なんて食べそうもない若い男性が「寿司食いに行こうぜ!」と言って周囲を驚かした挙句、お店では寿司以外のものばかり頼んでいた、なんていう残念な笑い話もあります。そうやって、食べ放題の店寿司屋の代名詞になりつつあるようで、ちょっと寂しい気もします。

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