オランダの「寿司食べ放題」で嫌がらせ?巨大握りを出す意味とは

 

私も食べ放題の店には何度か行きました。いずれもオランダ南部ですが、初めて行ったのは、走りの頃にできたアイントホーフェン(Eindhoven)の某店、デンボス(Den Bosch)の1軒、アイントホーフェンにある別の2軒、そしてティルブルフの3軒。こうしてみると、結構あちこち行ってます。通算10回、平均年2回のペースです。お味のほうは、10年前の寿司を思えば最近はだいぶ良くなり、お店間の差もほとんど感じられません。きっと、食べ放題のビジネスモデルが定着したので、どこも同じような業者から素材を仕入れているのでしょう。

オランダのAll You Can Eatで一番思い出深いのは、食べ放題初体験で5年前に行ったアイントホーフェンの某「老舗」です。食べ放題だから、餃子の王将にいるようなツワモノたちの豪快な食いっぷりが拝めるのかと思いきや、周囲の客からは食欲を感じることすらできません。米を食べつけないせいか、お寿司1皿か2皿だけ、それもきちんと食べきっておらず、その他の品もおつまみ程度に頼むだけ。食べるよりもおしゃべりに忙しく、これでは元が取れないどころか、返って割高です。こんな客ばかりならお店も儲かってしょうがないだろうなと思いながら、ちょっとした使命感に燃えて、メニューにじっくりと目を通します。

ご存じの方もおられると思いますが、ここで説明を入れましょう。食べ放題には、どの店にも共通するルールがあります。注文は自分で記入した注文カードを店員さんにピックアップしてもらうのですが、2時間半の間に5ラウンド注文することができます。各ラウンド1人5品まで注文できますが、前のラウンドの注文品が全部出てくるまで、次のラウンドの注文をしてはいけません。注文した品は完食が義務付けられており、残した場合は罰金として、1品当たり所定の金額が追加で請求されます。

さて、食い意地の張った私と連れは、値段の高そうなネタを中心に、ひたすら寿司ばかり注文し、出てくるとあっという間に平らげ、また次の注文を入れます。米食に慣れた我々の腹には、寿司ならいくらでも入るのです。3ラウンドで30品の寿司を完食し、4ラウンド目もフルで10品、美味しかったものをリピートします。でも気のせいか、先のラウンドよりも出てくるのに時間がかかりました。店内の真ん中にある厨房エリアに目をやると、アジア人の調理人が2人、背伸びをしてこちらの様子を伺っています。「こいつらなんでこんなに食うんだ?」と言わんばかりの困惑した表情。特に連れがオランダ人のくせして寿司ばかり食べるから、余計に不安を煽ったのかもしれません。

しばらくすると、エビの握りが出てきました。2人とも、とっさに言葉が出ません。写真に撮っておいたらよかったといまだに後悔するような、それはそれは立派なエビの握り……いや、エビのおにぎり、と呼ぶべき物体でした。シャリの分量が通常の3倍くらいで、それはもう、猫の背中のようにこんもりとしています。そして上に載っているのは、いつも通りのペラペラなエビが一枚。なんだかトラ猫みたいにも見えますが、「これ以上食うな」という、厨房からの直球メッセージです。さすがの我々も、エビの酢飯おにぎりを食べるとほぼ満腹ラインに達し、5ラウンド目に駒を進めることはできませんでした。

「天網恢々疎にして漏らさず(天の報いは遅くとも、悪事は必ず罰せられる)」とはよく言ったもので、そんな我々の意地汚さにも、天罰の下る日がやってきます。

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