交通事故で家族を亡くした子どもの気持ちに寄り添う…遺族団体が絵本を制作、豊島区長に寄贈

2024.10.23
by sakky(まぐまぐ編集部)
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一般社団法人「関東交通犯罪遺族の会」(通称・あいの会)は10月17日、東京都豊島区の同区役所を訪れ、絵本『ぼくのおかあさんはおつきさまにいる ~ひとりじゃないよ~』1000冊を寄贈しました。区立幼稚園や小中学校に順次配布される。

遺族となってしまった子どもの気持ちに寄り添う絵本

絵本『ぼくのおかあさんはおつきさまにいる ~ひとりじゃないよ~』は、交通事故遺族の中で、特に子どもの気持ちに寄り添うために作られました。

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絵本『ぼくのおかあさんはおつきさまにいる ~ひとりじゃないよ~』

制作したのは、一般社団法人 関東交通犯罪遺族の会(通称 あいの会。以下)。あいの会とは交通犯罪で家族を奪われた遺族の会で、赤い羽根共同募金が行っている赤い羽根福祉基金 特別プログラム「被害者やその家族等への支援活動助成」事業の助成金を受けて制作されている。

そのうちの1000部が、豊島区内の幼稚園3園、小・中学校、区民ひろば26か所、区立図書館、児童相談所などに配布されることが決定、配布に先立ち、あいの会のメンバーは2024年10月17日に豊島区へ『ぼくのおかあさんはおつきさまにいる ~ひとりじゃないよ~』を寄贈しました。

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左から高際みゆき豊島区長、あいの会 代表理事の小沢樹里さん、あいの会 副代表理事 松永拓也さん、あいの会 理事の中村正文さん、絵本の制作をサポートされた日本パッケージデザイン株式会社 代表取締役 小野一左さん

絵本『ぼくのおかあさんはおつきさまにいる ~ひとりじゃないよ~』の寄贈を受けた高際みゆき豊島区長は、「この絵本の主人公が『お父さんが辛いから自分は頑張らなきゃいけない』と思っているように、子どもは大人が思っている以上にいろんなことを考えています。そんな(交通事故遺族の)子どもたちの気持ちを多くの人に伝えるため、大事に大事に配りたいと思います」と話しています。

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高際みゆき豊島区長

子どもの心情は見落とされがちで、一人で苦しむケースも多い

絵本『ぼくのおかあさんはおつきさまにいる ~ひとりじゃないよ~』は、あいの会代表理事の小沢さんのアイデアを元に作られました。

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あいの会 代表理事 小沢樹里さん

あいの会は交通犯罪で家族を奪われた遺族の会です。

代表の小沢さんは家族が交通事故被害に遭い、それをきっかけに理事の中村さんの他、交通犯罪遺族のみなさんで2012年年7月8日、あいの会を結成しました。

副代表の松永さんは、読者の多くの方がご存じかもしれませんが、2019年4月に発生した池袋暴走事故の遺族です。

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あいの会 副代表理事 松永拓也さん

松永さんは、横断歩道上の事故で妻と娘の、お二人を亡くされました。

「二人の死を無駄にしない。他の人にこんな思いはさせない」と松永さんは決意し、あいの会から声をかけられことをきっかけに活動を始められました。

理事の中村さんは、2010年4月に横断歩道上で右折車に妻と次男が事故にあい、妻を亡くされました。

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あいの会 理事 中村正文さん

当時1歳と4歳の兄弟の育児と、自身の仕事を続ける中で裁判を経験し、それをきっかけとして交通犯罪遺族のための活動を始めました。

代表の小沢さんによると、遺族の中には、引きこもりになってしまったり、パニック障害になったり、摂食障害になってしまう子どもたちがいるそうです。

そして、松永さんは「被害者への理解は昔より社会に浸透してきましたが、被害にあった子どもの心情については、見落とされがちで、それにより苦しんでいる子どもたちが多い」といいます。

この絵本が制作されたきっかけは、小沢さんが「被害者遺族だけが一人で頑張らなくていい……それを伝えるためにはどうしたらいいか」と考えていた3年ほど前の朝、突然に構想が湧き出てきたところから始まったそうです。

「もう、5時ぐらいに起きて、パッとひらめいてダーッとひたすら全部書き綴りました」と小沢さんはいいます。

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絵本の主人公は、交通事故で母親を亡くした男の子

絵本『ぼくのおかあさんはおつきさまにいる ~ひとりじゃないよ~』は、交通事故でお母さんが亡くなって苦しんでいる子どもが主人公です。そして、お父さんも悲しんでいるからと自分の気持ちを言えず、自分の中でとても苦しんでいます。

その苦しみにファシリテーターであるうさぎたちが寄り添って、解決に向けて一緒に取り組んでいくというストーリーとなっており、悲しみの中で苦しむ遺族をサポートする、「グリーフケア」の大切さも教えてくれます。

松永さんはこの絵本を通して、「一人で苦しまなくていいということが伝われば嬉しいなと思います」といいます。

そして、代表の小沢さんは「大人の悲しみというのがあるんです。子どもの前で交通事故の話をできないっていうご家庭がすごく多いんです。でも、大人も子どもも読める絵本なら、読み聞かせをする時でもあまり重苦しくないかなと。子どもたちに『一人じゃないんだよ』とか『言葉に全部出さなくても寄り添ってくれる大人も周りにいっぱいいるんだよ』と伝えてあげたいです。そして、大人たちには、『子どもたちには口に出せない苦しみがあるんだよ』と伝えられたらと思います」といいます。

手作りで作られた絵本はどこで読める?

絵本『ぼくのおかあさんはおつきさまにいる ~ひとりじゃないよ~』は、小沢さんの構想を元にまとめられ、日本パッケージデザインの小野さんたちのサポートを受けながら制作されました。

そして、「絵本ができるまで、私たちは子どもファーストでいたい」というあいの会の強い思いから、自分たちだけで作り上げたそうです。

そのため、現在は書店などでの一般販売は行われておらず、配布先となる豊島区立図書館や豊島区民ひろば、児童相談所なでご覧いただくことになります。

「絵本ができた事で、次の段階にワンステップしたいという気持ちがあります。今後はこの絵本が店頭に並ぶ、または通販などで買える、そういった事を将来的にできたらいいなと思ってます」

取材・文/中馬幹弘 撮影/編集部

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