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中国のサイバー攻撃に最も悩んでいるのが習近平というパラドックス

習近平・オバマ首脳会談の翌日に米企業にサイバー攻撃を仕掛けた中国。評論家の黄文雄さんのメルマガによれば、この信じがたい行為に一番頭を悩ませているのは習氏本人だというのですが…、いったいどういうことなのでしょうか。

中国のサイバー攻撃に最も悩まされているのは習近平だ

米企業7社に中国のサイバー攻撃、首脳会談後=クラウドストライク

先週は中国で逮捕された日本人スパイの話題でした。今週は米中間でヒートアップしているサイバースパイ合戦について紹介しましょう。

報道によれば、習近平がオバマ大統領と会談し、「サイバー攻撃実行せず、支援せず」で合意した翌日に、米テクノロジー企業5社と製薬会社2社がサイバー攻撃を受けたといいます。そして、犯人中国政府と関係していることも突き止めたそうです。

これに対して、中国政府は何の反応も示していません。これまでは頑なに中国も被害者だと言い張っていた態度に比べれば、サイバー攻撃はしていないと関与を否定するだけでも進歩したと言えますが、証拠を提示されても白を切る図々しさは健在のようです。

中国問題が非常にわかりづらいのは、このサイバー攻撃は、はたして習近平指示によるものなのかということです。中国の特徴は、国内の権力闘争が「外に向かう」という点にあります。

鄧小平は軍権を握るために中越戦争を起こし、毛沢東を支持した許世友の南京軍区の軍隊と、林彪の部隊、つまり鄧小平の政敵の部隊をベトナムの最前線に殺到させて、それで敵に殺してもらい、軍権を握ったということがありました。

9月末の習近平の訪米直前には、中国軍機アメリカ軍機異常接近するという事件がありましたが、これから米中首脳会談をしようというときに、習近平がわざわざアメリカと揉め事を作るというのもおかしな話です。

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米中首脳会談のちょうど1年前、2014年9月末に、習近平はインドを訪問しましたが、このときも人民解放軍が国境を超え、インド軍と一触即発の事態となりました。インド訪問中の習近平の顔に泥を塗るような行為だったわけです。

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習近平の腐敗追放キャンペーンによって、前軍事委員会副主席の徐才厚や郭伯雄が失脚しました。また、宴会や贅沢の禁止令によって、軍部には相当な不満が高まっているとされています。

習近平への怒りをぶつけるために、軍部がいろいろや嫌がらせをしている可能性も否定できません。とはいえ、習近平としても一国の最高指導者として、「自国の軍が暴走している」とは言えません。あくまで中国側の立場に立った物言いしかできないわけです。

13年5月、米国の国防総省が「国家が支援する産業スパイが増加している」とのレポートを発表し、14年5月、太陽光パネルなどを手掛ける米企業の機密情報を盗んだとして、中国の軍関係者ら訴追されました。

15年5月、アメリカを代表する半導体メーカーのアバゴ・テクノロジーは、アバゴに勤務経験のある天津大学の張浩教授ら6名によって産業スパイの被害にあいました。張教授らは、アバゴから盗んだ無線通信技術を使った製品生産、販売する会社を天津大学と設立し、その製品を企業や軍に販売する契約を結んだと言われています。

こうした事例を踏まえて、アメリカ側が規制を強化したり中国を名指しで非難することが増えるたびに、中国も国内における外国人への規制を強化し、スパイをでっち上げたりしています。習近平としては、そうでもして体裁を整えないと体面が保てないという裏事情があるのかもしれませんが、他国にとってみれば迷惑このうえない話です。

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このようにサイバー攻撃問題で、米中関係がぎくしゃくする一方で、習近平はイギリスに急接近してヨーロッパに手を伸ばそうとしています。習近平は、10月19日からイギリスを公式訪問していますが、訪英前にはキャメロン首相の単独インタビュー映像を繰り返しテレビで流し、中英の蜜月を国内に印象付けています。

これはもちろん、習近平がぶちあげた「新シルクロード構想」(中国名「一帯一路」)がうまく行っていることを演出するためです。米中首脳会談も失敗に終わり、経済もボロボロで四面楚歌の習近平としては、ここで名誉挽回するしかないからです。

キャメロン首相もインタビューでは中国を褒めちぎっており、中国との接近大歓迎だとしています。EU中では真っ先にAIIBへの参加を表明し、中国の構想である「一帯一路」の終点をイギリスと想定していることも、まんざらではない様子のイギリスは、アメリカのように中国と対立はせずおだてながらうまく立ち回り、美味しいところだけを持っていきたいというのが本音でしょう。

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しかし、イギリスは中国のことを知らなさすぎます。アメリカにしても、できることなら表向きだけでも中国と握手して協力体制を持ちたいと思っているでしょうが、サイバー攻撃による実害や南シナ海での中国の横暴には目に余るものがあり、黙ってはいられない状況だったのです。

中国は、アメリカ民間企業から機密情報を盗んでは、国に持ち帰り再現して軍や国営企業で模倣し活用するということを繰り返してきました。そうやって自国企業を富ませてきたわけですが、その手法がこんどは習近平を追い詰める手段となっています。

一方のアメリカは、これにより雇用の機会を奪われ、経済的打撃も受けました。それなのに、「中国はサイバー攻撃とは無関係」としらっと言われているのですから、腹が立たないほうがおかしいでしょう。

いまや、アメリカは中国から受ける恩恵よりも被害のほうが大きいため、習近平が訪米中にボーイング社の飛行機を300機購入すると言っても、それほどアメリカ人の心をつかむことができませんでした。

また、普遍的価値を共有できない中国に対する批判が大きいのもアメリカです。人権無視の共産主義に対して、アメリカは異常なほどアレルギー反応を示します。

イギリスは、まだ実害がなく中国による迷惑を被っていないから、呑気に構えていられるのですが、しかし、習近平がイギリスに接近することで、軍部によるイギリスへのサイバー攻撃今後激増する可能性もあります。

もともと、キャメロン首相やチャールズ皇太子は、ダライ・ラマ14世と会談するなど、チベット擁護派でしたが、リーマンショック以来経済的に困窮したイギリスは、2013年に訪中しチベット捨て中国に寝返ることでイギリス経済を救ったのです。

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大戦末期のカイロ会議から、英米における対中政策は異なっていました。簡単にいえば、アメリカ政策巨視的で、イギリス目前の利害関係にこだわるミクロ的な政策を好んだのです。イギリスとEUとの関係も英米に似ています。英中関係は、利害関係の変化によって流動的で、今後さらに現実的に変わっていくと予想されます。

しかし、英中の蜜月も、いつまで続くかわかりません。二枚腰外交はイギリスの得意技ですし、中国経済の衰退も明らかです。昨日中国は第3四半期のGDPを発表しましたが、前年比6.9%増という数字でした。7%割れしたことが大きく報じられましたが、7月から8月にかけて、あれほどの株暴落があり、チャイナショックが騒がれていたことからしてみても、高すぎです。粉飾していることは間違いありません。

経済成長が鈍化すると、中国人によるサイバー攻撃はいっそう激しくなります。「保八」がダメなら「保七」でも「保六」でも、少しでも経済成長を維持したいからです。

先進国の技術を盗み、稚拙に模倣し、オリジナリティが一切ないまま成長してきたのですから、すぐに限界が来るのは当然です。そこで、さらに模倣するものを得ようとサイバー攻撃をしかけ、企業秘密を盗み、情報を窃取する、というのが経済面から見た中国のサイバー攻撃やハッキングの目的です。

しかし、習近平が外交を展開するなかで、反習近平派がそのようなサイバー攻撃を公然としかけるのですから、習近平もなかなか頭がいたいところだと思います。「国のため、経済のため」だと言われたら、習近平もサイバー攻撃やハッキングを止めさせるわけにはいかないでしょう。「愛国行為」を責めるわけにもいきませんし、実際に経済成長が共産党政権が生き残る唯一の道だからです。

サイバー攻撃をやめろというアメリカの要求に対して、中国もそれなりの言い分があります。そうしなければ中国には生き残る道が残されておらず、13億人の生存権を確保することができないのです。少なくとも、習近平の「中華民国の偉大なる復興の夢」が消滅してしまえば、習近平自身も終わりです。

だから、習近平もサイバー攻撃やハッキングを半ば公認せざるをえないのでしょう。ある意味で、中国のサイバー攻撃に最も頭を悩ませ、ジレンマを抱えているのは、習近平なのかもしれません。

image by: Kaliva / Shutterstock.com

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黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」より一部抜粋
著者/黄文雄
台湾出身の評論家・黄文雄が、歪められた日本の歴史を正し、中国・韓国・台湾などアジアの最新情報を解説。歴史を見る目が変われば、いま日本周辺で何が起きているかがわかる!
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