ロシアで行われた最新の世論調査で、プーチン大統領の支持率がなんと89.9%に達したそうです。国際関係アナリストの北野幸伯さんは無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、プーチン人気を支える3つの理由を上げています。
プーチン、支持率9割のなぜ??
プーチンの支持率が、グングン上がり、ついに9割に達しようとしています。
● プーチン大統領の支持率が9割に 政府系世論調査 CNN.co.jp 10月23日(金)11時4分配信
(CNN) ロシアの政府系世論調査機関の最新の調査によれば、プーチン大統領の支持率が過去最高の89.9%に達した。
調査を行ったロシア世論調査センターによれば、この数字はこれまで最高だった今年6月の89.1%を上回った。
「ロシア大統領がこれほど高い支持を集めた背景には、まず第1にシリア情勢がある。テロリストの拠点に対するロシア軍の空爆だ」と同センターは分析している。
支持率「89.9%」!!
これ、普通の日本人だったら、「そんなもん、独裁国家の世論調査なんて信用できるんかい??」と思うでしょう。私だって、日本在住だったら、そう思うことでしょう。モスクワに住んでいる実感を書きたいと思います。
プーチン人気の秘密
プーチン人気の秘密、1つ目は「ロシア経済を建てなおしたこと」です。
1991年末、ソ連が崩壊した。98年には、デフォルトがありました。で、1992年~98年までに、ロシアのGDPは、なんと43%も減少した。
ところがプーチンが首相になった1999年からプラス成長に転換。彼が大統領になった2000年から2期目が終わる08年まで、ロシアは毎年平均7%の成長をつづけました。
「プーチンのおかげで豊かになった!」
これがプーチン人気、1つ目の理由です。
メドベージェフ大統領、プーチン首相の時代
プーチンは08年、惜しまれながら大統領をいったん引退。というのは、「大統領は4年2期」までと決まっていたからです(現在は、6年二期まで)。
08年、プーチンにかわりメドベージェフが大統領になりました。プーチンは、首相になります。
プーチンは、首相である面ラッキーでした。というのも、08年「リーマンショック」から「100年に1度の大不況」が起こった。09年のGDPは、マイナス7.8%。主な理由は、原油価格が暴落したことでした(08年夏はバレル140ドル台だったが、09年初は30ドル台まで下がった)。
しかし、原油価格は、比較的はやく回復。ロシアのGDPは、10年4.5%、11年4.3%、12年3.4%。中印には及ばないものの、まあまあな数字でした。
プーチン、憂鬱な帰還
12年、プーチンは大統領に返り咲きました。08年に惜しまれながら引退したころのパワーは、すでにありませんでした。主な理由は、「経済成長の鈍化」でしょう。メドが大統領だった期間、ロシアの「イケイケ時代」は終わったのです。
プーチン人気も、60%台まで下がっていました。皆さんも、モスクワの「大規模反プーチンデモ」を覚えておられることでしょう。
経済はイマイチですが、プーチンは2013年、外交で大きな実績を残しました。2013年8月、オバマは「アサドが化学兵器を使ったので、シリアを攻撃する!」と宣言します。2013年9月、オバマは「やっぱりシリア攻撃やめた!」と戦争をドタキャン。世界を仰天させます。
なぜアメリカは、シリア攻撃をやめたのか? 長くなるので、詳細はこちらをご一読ください。
日本ではあまり知られていませんが、世界的には「プーチンが止めた」ことになっています。なぜプーチンは、フォーブス誌で2013、14年「世界でもっとも影響力のある男」に選ばれたのか?
13年は、「シリア戦争を止めたこと」が原因。
14年は、「クリミア併合」が原因なのです。
「クリミア併合」、ロシア国民の反応
さて、2014年3月、ロシアは「クリミア」を「サクッ」と併合してしまいました。日本人には、「驚天動地」の大事件です。で、私が本当に心の底から驚いたのは、「ほぼ全ロシア国民がクリミア併合に賛成した」ことです。昨日まで「反プーチン」だった知人、友人も、朝目覚めたら「プーチンえらい!」といっている(プーチン人気、2つ目の理由は、「クリミア併合」です)。
あらゆる友人、知人に質問したら、ほぼ全員が「大賛成!」と答える。
「なんなんだこの一体感は~~~~~!!??」
私は、本当に驚きました。
かなり前ですが、ある年配の友人が、戦争中のことを話してくれました。
「日本は、戦争したくなかったけど嫌々戦争になったという人がいる。だけど、私は生きてこの目で見てたんだから、はっきりわかる。国民は戦争を望んでいたんだよ。国際連盟を脱退した時だって、みんなそれを大歓迎したんだ」
私は、この言葉の意味が長いことわからなかった。しかし、ロシア国民が一夜にして、「クリミア併合大賛成!」になるのを見て、「ああ、日本も昔はこんな感じだったのかな~~~」と思ったのです。
ちなみに、「クリミア併合」に反対したモスクワ国際関係大学の教授は首になりました。
さらに、「クリミア併合」に反対のミュージシャンたち、「マシーナ・ヴレメニ」「DDT」「グレベンシコフ」などが、「裏切り者」のレッテルを貼られました。
国営放送RTRのニュースで、「こいつらはクリミア併合に反対する裏切り者だ!」と名指しでさらし者にされたのです。しかも、繰り返し、繰り返し。上のミュージシャン、RPE読者さんでも、90%以上は知らないと思います。日本でいったら、長淵剛さん級の人たちです。
「反対する人は、許さない!」。こんなのも、「戦前の日本にもあったのだろうな」と思いました。だから、私は日本に一時帰国した際、メディアが安倍総理の悪口ばかりいっているのを聞き、「ああ、健全だ」と思ったのです。しかし、リアルインサイトの鳥内先生から、「健全ていうか、中韓に操られているだけですよ!」といわれ、「ああ、まさにその通りだ」と反省しました。
ところで、なぜロシア国民は「クリミア併合」を支持しているのでしょうか?
まず、クリミアは、1783年から1954年まで「ロシア領」だった。1954年、スターリンの後を継いでソ連書記長になったフルシチョフ(ウクライナ人)が、突然「クリミアは、今日からロシアではなくウクライナの管轄にします!」と宣言した。
理由は、「権力基盤が弱かったフルシチョフが、ウクライナの支配層を味方につけるためだった」と言われています。
まあ、いずれにしても、書記長の「鶴の一声」で、クリミアはロシアからウクライナに移ってしまった。ロシア人は、この処置をずっと「不当だ!」「違法だ!」と憤っていた。
しかし、当時は、ロシアもウクライナも同じソ連の一部。「東京管轄だったのが埼玉管轄になった」感じで、大きな問題にはなりませんでした。しかし、ソ連が崩壊すると、クリミアは独立国家ウクライナのものになってしまった。
ロシア人は、このことにずっと不満を抱いていたのです。それをプーチンが、サクッと取り返してくれた。これで、彼は、「歴史的英雄」になりました。日本でいえば、「北方領土を1日で、無血で取り返した」ような感じ。プーチンの支持率は、86%まで急上昇しました。
ロシア国民は、シリア空爆を支持する
さて、CNNの記事には、「プーチンの支持率がさらにあがったのはシリア空爆が原因」だとあります。ロシア国民は、「シリア空爆」をどうとらえているのでしょうか?
テレビを見ていたら、「66%が空爆に賛成」だそうです。私がいろいろな人に聞いても、ほとんどの人が「賛成だ」と答えます。ロシア人は、「アサドは、合法的大統領であり、欧米が反体制派を支持して革命を支持するのは、『内政干渉』ではないか!」と怒っているのです(合法的大統領の依頼で、ロシアが「反体制派」や「イスラム国」を空爆するのは、「国際法に合致している」というのが、ロシアの立場)。
とはいえ、「クリミア併合」時のような熱狂はありません。なんといっても「他の国」ですから。
プーチン人気はつづくか?
最大のネックは、「景気の悪化」です。ロシア経済は今、「3つの要因」で苦しんでいます。
1つは、日欧米の制裁。
2つ目は、原油価格の暴落。(バレル115ドルが50ドルに)
3つ目は、ルーブル暴落(1ドル35ルーブルが70ルーブルに)
いずれも大きな要因です。しかも、この「不況」は、「長つづき」しそうな感じです。理由は、「原油価格低迷が長つづきしそう」だから。
今回の原油安は、「シェール革命による供給過剰が原因」といわれています。そして、今年7月に核問題を解決し、欧米と和解したイランが市場に戻ってくれば、原油価格はさらに下がるかもしれない。
そうなると、原油・ガス依存体質のロシア経済は、上向かないのではないでしょうか。
というわけで、プーチン、現在は支持率9割。しかし、不景気が長引くことによって、楽ではない時代がやってきそうです。
image by: plavevski / Shutterstock.com
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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