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50名が告発!米軍で「IS」情報操作疑惑が発覚

対「イスラム国」の作戦が効果を上げてないにもかかわらず、分析を楽観的に書き換え、情報を歪曲したとして、アメリカの情報部門の幹部が告発されました。この情報操作疑惑について、静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之さんが、メルマガ『NEWSを疑え!』で、現在のアメリカや「イスラム国」の状況を交えつつ解説しています。

米軍で「イスラム国」情報操作疑惑が発覚

中東や南西アジアの米軍を指揮している米中央軍の情報部門の幹部が、実際は「イスラム国」に対する作戦が効果を上げていないのに、その分析を楽観的に書き換え、米軍高官や政策決定者へ上げていたと、部下の情報分析官50人が連名で告発する事態となっている。

8月26日付ニューヨーク・タイムズのスクープによれば、米議会両院の情報委員会と国防総省監察官は、米情報コミュニティ(17の情報機関)の監察官が情報分析官告発信憑性があると判断した結果、情報歪曲疑惑を調査中だという。

国防総省監察官は、2014年に「イスラム国」に攻撃されたイラクの都市からイラク軍が撤退・逃亡したことを、中央軍幹部が「転進」と書き換えたことや、中央軍情報部長の少将と副部長の文官が、コンピュータからメールとファイルを削除して監察妨害したという疑惑の調査に着手している。オバマ大統領は「バラ色の報告が自分に上がってきたことはないが、調査すべきだ」と述べている。

しかし、既に今年1月22日には、「イスラム国」の兵力に関する中央軍と情報機関のきわめて楽観的な推定がCNNテレビで報じられていた。オバマ政権はその時点で、中央軍の分析が、客観性を担保するための手続きに従っているのか調査すべきだった。

米国のスチュアート・ジョーンズ駐イラク大使は1月22日、アル・アラビーヤ・テレビに対し、昨年8月以後、米軍などが「イスラム国」戦闘員6000人以上を殺害したと述べ、さらにCNNは、「これは空爆の戦果を米中央軍が計算したもので、米情報機関によるとイラクとシリアの『イスラム国』戦闘員は9000‐1万8000人」と報道した。

これが事実なら、この戦果と残存兵力の数字を比べると、「イスラム国」は5か月間に兵力25‐40パーセントを空爆で失ったことになる。同時に「イスラム国」が6000人の損耗を補充し、兵力が減少しなかったとしても、その間に実施した、シリア北部のトルコ国境に接するクルド人の拠点コバニ市に対する包囲戦のような大規模な作戦を遂行できたとは考えにくい

また、「イスラム国」はシリアで200万人以上イラクで400万人以上の住民を支配している。「イスラム国」が一定の住民の支持を得ているとしても、住民に対する兵力の比率は、2001年以後のアフガニスタンやイラクにおける多国籍軍や現地国軍の対反乱戦の成功例と同等の、約60人に1人程度と考えるのが妥当だ。それに従って推計するとシリアとイラクの「イスラム国」は、米国側の楽観的推計を大きく上回る合計10万人以上の兵力を有していると考えなければならない。

オバマ政権の初期には、国防総省本省にも国家安全保障会議(NSC)にも、アフガニスタンやイラクで対反乱戦を経験しており、このような検算作業を直ちに実行できる人材が少なくなかったのだが、昨年までの間にこれらの人材が転出したか、なんらかの原因で活用されなくなっているようだ。

(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)

image by: Orlok / Shutterstock.com

 

NEWSを疑え!

著者/小川和久
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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