沖縄が中国のミサイル射程圏内に。米シンクタンクの「中国脅威論」

 

中国は全分野で米国に追いつく必要なし

(3) 距離、とりわけ短距離という問題が、双方が重要な目標を達成する上で主要なインパクトを与える。中国の遠隔投入能力は改善されつつあるが、今のところ制約があって、ジェット戦闘機やディーゼル潜水艦が給油なしに活動できる範囲外では、中国が事態に影響を与えたり戦闘で勝利する能力は急減する。これは近年中に変化するだろうが、それでも中国から遠く離れた距離での作戦は常に中国に不利である。

(4) 中国軍が総合的な能力において米軍にキャッチアップして迫ってきているという訳ではない。しかし、中国が直近の領域を支配するには、米軍にキャッチアップする必要はない。近接性がもたらす優位は、米軍の軍事任務を極めて複雑なものにする一方で、中国軍には大いに有利に作用する。このことは、本研究の最も重要な発見であり、抽象的な戦力比較よりもむしろ具体的な作戦様態の分析が重要であることを示す。

つまり、静態的な軍備能力の比較はあまり実践的な意味はなく、中国周辺で起こりうる具体的な事態に即して双方がどのような行動をとろうとするかを動態的に捉えなければならないということである。そうすると、中国軍全体的な能力で必ずしも米軍にキャッチアップする必要が実はないのであって、例えば、近距離の目標に対する電撃的な奇襲攻撃によって、米軍が十分に対応しきれない内にすでに目的を達成してしまうということすら考えられるのである。

 報告書の結論部分では、「今後5年から10年の間に、もし米中両軍が今とほぼ同様の軌道を歩むと仮定すれば、アジアにおける米国支配のフロンティアは目に見えて後退することになろう」と、かなり悲観的な予測で終わっている。

嘉手納基地に中国のミサイルが雨あられと

中国軍がアッという間に米軍に打撃を与えるかもしれない可能性の1つとして例示されているのが、沖縄の嘉手納空軍基地へのミサイル攻撃である。

中国弾道弾ミサイルの改善は目覚ましいものがあり、1996年にはDF-11およびDF-15が台湾に数十発注がれるという程度の脅威にすぎなかったものが、2010年にはDF-21CおよびDF-10 が嘉手納はもちろん日本列島やフィリピン群島に数百発届き、H-6 および中距離ミサイルがグアムにも数十発届くようになった。これが2017年になると、嘉手納は日本に数千発グアムに数百発というオーダーになる。

写真資料

そうなると危ないのは、直近の中国領から650 キロしか離れていない嘉手納基地である(ちなみに、中国領から一番近い米軍基地は韓国の群山[390キロ]と烏山[400キロ]、次が嘉手納と普天間、横田は1100キロ、グアムのアンダーセンは2950キロ)。

報告書の分析はいくつもの前提を踏まえた複雑な計算をしているが、結論だけを引けば(写真)、2017年予測で、中国が108ないし274発の中距離ミサイルを集中的に発射し、嘉手納の2本の滑走路にそれぞれ2個所直径50メートルの穴を空けられた場合、米軍の戦闘機が飛べるようになるまでに16~43日、大型の空中給油機が飛べるようになるには35~90日もかかるというのである。

翁長知事が言うように、これほどのミサイルの雨が降れば、嘉手納町だけでなく那覇市を含む広域が壊滅的な打撃を受けるのは明らかで、何日経ったら戦闘機や給油機が飛べるようになるかなどどうでもいい話である。逆に、もし嘉手納をはじめ普天間や辺野古の米軍基地がなければ沖縄県民の頭に中国のミサイルが撃ち込まれることはない

米軍のためにも沖縄県民のためにも、基地はない方がいいというのが本当の結論である。

image by: Shutterstock

 

高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋

著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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