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中国の野望をくじくため、米国は「辺野古」を捨て石にする

南沙諸島などを舞台に緊張感が増しているアメリカと中国。2つの大国が覇権を争ってにらみ合いを続ける中、米国側にとって対中国の重要な軍事拠点となっているのが沖縄です。一般的には、市街地にある普天間基地の代替地として辺野古への基地移設が進んでいると思われていますが、メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』は、「そんな政府の説明を信じる人間は無知だ」と断じ、米国が辺野古移設や集団的自衛権を強引に推し進める「真の思惑」を暴露しています。

辺野古基地建設は対中戦のためなのか

闇の魔法使い「ヴォルデモート」。ハリー・ポッター最大の強敵だ。

中国米国軍事計画部門におけるヴォルデモートである」。そう指摘するのは、アメリカの米海軍大学教授、トシ・ヨシハラとジェームズ・R・ホームズの二人。

「なぜならちょうどハリー・ポッターの強敵の名称が声に出して発せられないように、アメリカの戦略家は中国の名前を、その結果を恐れるあまり、声に出す勇気が無いからである」

彼らが書いた「アメリカ流非対称戦争」と題する論文の一節だ。

訳者は海上自衛隊幹部学校の石原敬浩二等海佐。同校は旧海軍でいえば海軍大学校に相当する。もちろん海上自衛隊の最高教育機関で、上級指揮官や幕僚の育成を目的としている。

同校が発行する「海幹校戦略研究」(2012年5月)に掲載されたこの論文を読むと、米軍関係者が中国をどのような目で見ているか、その一端がよくわかる。

アメリカにとって、口に出すのは憚られるが、中国は恐るべき“魔法界の帝王”であるらしい。

ジャパンハンドラーとしても知られるハーバード大学特別功労教授、ジョセフ・ナイが、かつてこう語ったという。

「戦争はいかなる時に起こるか。超大国ナンバーワンが別の超大国ナンバーツーに追いつかれると思った時だ」

暗に中国を指して超大国ナンバーツーと言っている。得体のしれないものを秘めた大国だけに不気味である。

中国がパクス・アメリカーナを破壊するほどの超大国になるとまで筆者は思わないが、米国にしてみれば、経済的にも軍事的にも中国に追いかけられている悪夢を見ているのが、今の状況ではないだろうか。

米国軍事的に中国を抑え込みたい。とはいえ、経済的には仲良くやりたい

このジレンマをどう解決するか。その答えとして構想しているのが、沖縄など南西諸島での“限定的”な軍事作戦であるらしい。

元宜野湾市長、伊波洋一は言う。「辺野古新基地建設の真の目的は、南西諸島を対中国の戦場にすることだ」と。

たしかに、辺野古の基地計画は、当初とは大きく変わってきている。普天間基地にはない施設、たとえば弾薬搭載エリア、強襲揚陸艦の接岸場所、水陸両用訓練の斜路などがつくられるのだ。

つまり、より強力な前進展開基地になる。市街地にあって危険きわまりない普天間の代替基地、という政府の説明を信じる人は、無知か、よほど風変りな考えの持ち主だろう。

論文アメリカ流非対称戦争」には、つぎのような記述がある。

九州から台湾に至る列島が派遣部隊による介入に最適であろう。この列島は、黄海、東シナ海から太平洋に出るためのシーレーンを扼するように立ちはだかっている。

中国海軍は、台湾の東海岸に脅威を与え、戦域に集中しようとする米軍に対処するには、琉球諸島間の狭隘な海峡を通り抜けざるを得ない。(中略)

島嶼に日米の部隊を展開することにより、中国の水上艦艇、潜水艦部隊及び航空部隊の太平洋公海への重要な出口を閉鎖できるのである。

人民解放軍は連合軍派遣部隊を無力化したい誘惑に駆られるだろうが、そのような行動は人員と資材の損耗を招き、中国の戦争遂行能力の大部分を失うこととなろう。中国にとって、些少の利益しかない島嶼を巡る紛争は、エスカレーションに見合うだけの効果が無いと判断される。

日米が琉球を含む南西諸島軍事的配置をしっかりすれば、中国はその防衛ラインを突破しようという誘惑に駆られてもあきらめざるをえないだろうというわけだ。

中国の脅威を煽りつつ、米軍基地の整備や、自衛隊が軍隊として機能することの重要性を訴える。安保マフィアの好む「抑止論」がめぐらされているのだ。

あくまでこれは、米軍の視点からの一方的な見方に過ぎない。問題はそうした米側の考えが、集団的自衛権や辺野古の基地問題など日本の防衛外交政策にかかわってきているという事実である。

米国がなぜ辺野古基地を必要とし、日本に集団的自衛権行使の容認を迫ったのかを解き明かすのが、この稿の主目的である。

さてそこで、中国の意図について、アメリカ側がどう見ているか、さらに考えを進めよう。

中国台湾をモノにしようと昔から狙っていることは周知のとおりだ。軍事的に占領するか、台湾が望んで中国につくか、それはわからない。いずれにせよ、台湾を落とせば、沖縄の西側のガードがなくなり、中国の太平洋進出が容易になる。

中国が太平洋への進出をめざす背景には、習近平が「広大な太平洋には中米2大国を受け入れる十分な空間がある」とケリー国務長官に語ったように、太平洋の西半分勢力圏におさめたいという思惑がある。

台湾を取り戻し、日本に復讐し、アジア全域を支配下に置くという野望がないとはいえない。

だから、日米が協力して守りを固める必要があるのだ。それを専守防衛という。

自国の防衛を、より強化すべきであって、新安保法制による海外派兵で戦力を分散すべきではない。

辺野古基地については、ウィキリークスが暴露した資料を参考にしたい。2009年10月15日、当時のルース大使が本国あてに送った極秘公電

キャンベル国務次官補が来日し日本政府当局者と米軍再編をめぐって協議した内容が記されている。以下は、その一部。

中国の軍事力の劇的な増大により、何か事が起きた場合、少なくとも三つの滑走路が利用できることが必要になってくる、とキャンベル国務次官補は述べた。1990年代には、沖縄の那覇、嘉手納の二つの滑走路を使うだけで、韓国や中国で予測できない事態が起こった際に備えた計画を実行に移すことができた…

つまり、那覇、嘉手納の滑走路だけでは不測の事態に際し中国の軍事力に対応できないが、辺野古が加われば何とかなるというわけだ。あまり根拠のはっきりした分析とはいえない。

結局のところ、パクス・アメリカーナ(米国の覇権による平和)を維持するためには、軍事大国化する中国を封じ込める必要があり、いざという時にそなえた軍事配置を整えておきたいということだろう。

その目的をかなえるのに、米軍が対中戦の要衝とみなしている沖縄に新しい軍事基地を設ける、しかも建設資金は日本が負担するという、またとない計画を是が非でも実現したい。それが米国の本音に違いない。辺野古はその犠牲にされようとしている。

一般的な多くの日本人は中国と戦争することなど望んではいない。アメリカに中国を叩きたいという動機はあっても、日本にはない。あるとすれば、アメリカの言いなりになる属国根性か、一部の人々の偏狭なナショナリズムだけだろう。

それでも、米国は中国を軍事的に封じ込める役割の多くを日本に求めている。

中国の野望をくじくというアメリカの軍事目標を達成するため、中国の脅威を吹き込み、自衛隊に集団的自衛権行使のできる機能を持たせたうえで、南西諸島だけの戦闘で済むような「制限戦争」を想定しているのだ。

中国との全面戦争に発展することさえなければ、米軍の損失は最小限にとどまり、一時的にはどうであれ、互いに必要な米中の経済関係も持続できると踏んでいる。米軍兵士の命や兵器の損害も、自衛隊を使うことによって、少なく抑えられるという算段だろう。

こうしたオフショア・バランシングといわれる米国の戦略安倍政権積極的に受け入れ中国に対抗しようとしているように見える。中東やアフリカでも、米国は自衛隊をうまく利用して軍事作戦を進める腹だろう。

しかし、過度に中国を恐れ、敵視する必要はない。米国は覇権を守るために軍事戦略を練っているかもしれないが、日本のとるべき道は、日米安保を堅持しつつ、中国とも共存共栄をはかることである。

軍事力を背に高飛車な外交を展開したいという外務官僚のエゴに、国民がつき合わされる筋合いはない。

人口減少社会を迎え、GDPの維持が難しくなっている日本が中国を必要としているのは明らかであり、中国もまた、いかに自前の産業が発展してきたとはいえ、いまでも日本が必要なのは確かであろう。

日本研究で著名な歴史家、ジョン・ダワーは言う。

「中国がこれからの数十年間に直面する国内問題は経済問題あり人口問題あり環境悪化あり政府腐敗ありと、いずれも私たちがいたるところで目にしているものです。それらの解決は気が遠くなるようなものです」

中国がいかに軍事力を拡大し、勢力圏を広げても、国内問題が解決しない限り、一流国の仲間入りはできない。徐々に目覚めつつある中国国民をいつまでも共産党独裁の力だけで抑え込むことなどできないだろう。

日本は中国の内包する数々の問題解決に、なくてはならない良き隣人として、付き合っていけるはずだ。それこそが外交の力だ。

もし仮に、伊波洋一が指摘するように、辺野古への新基地建設を、南西諸島での局地的な中国との戦争を想定して米国が日本に押しつけているのだとすれば、あまりにも痛ましい話ではないか。

戦争末期には本土決戦の捨て石とされ、サンフランシスコ講和条約締結後も本土と切り離されて米国の統治が続いた苦難の歴史が思い起こされる。

沖縄への米軍駐留継続を望んだとされる昭和天皇の心情はどのようなものであっただろう。

「昭和天皇実録」によると、天皇は米軍の沖縄駐留について「25年ないし50年あるいはそれ以上の長期」を求めたと、米側報告書に記されている。

ソ連など共産勢力の伸長や、旧軍部復活への不安。そうした自らに降りかかるかもしれない危機を回避するため天皇は米軍の長期駐留を望んだという説もある。

「長い駐留を願う声は各界各層にあった。ただ米軍にすれば、そうした声は渡りに船だった」(2015年10月4日、朝日新聞)ともいう。

沖縄をこれ以上犠牲にすることはできない。国家権力に屈することなく、辺野古の基地建設を食い止めようとしている沖縄県知事、翁長雄志の闘争を支持したい。

image by: Shutterstock

 

国家権力&メディア一刀両断』 より一部抜粋

著者/新 恭(あらた きょう)
記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。
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