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【衝撃】キリンが初の赤字に転落。見落とされた国際戦略の2つの問題点

 キリンホールディングスは今期、1949年の上場以来初めて560億円の最終赤字を出しました。その原因は、買収したブラジルの地場ビール会社の業績不振です。日本最大手のビール会社のひとつであるキリンは、国際化を進める上で何に失敗したのでしょうか? 米国在住の作家・冷泉彰彦さんは、メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、不正会計で揺れる東芝問題も例に挙げ、日本の大企業が抱えている国際戦略における「2つの大問題」があったことを指摘。その問題について詳細に解説しています。

日本企業国際展開、2つ懸念

ロイター電によれば、キリンホールディングスは21日、2015年12月期の連結最終損益が「560億円の赤字(従来予想は580億円の黒字)になる」という修正見通しを発表したそうです。1949年のキリンビール上場以来初めての最終赤字となるということで、衝撃が走っています。

原因としては、子会社のブラジルキリンで2015年12月期に減損損失約1412億円が発生、約1140億円を特別損失として計上するためだそうです。

この「ブラジルキリン」ですが、元々は「スキンカリオール」という会社で、ブラジルの地場のビール会社でした。それを2011年の11月に買収して完全子会社化し、「ブラジルキリン」としていたものです。

公式サイト ポルトガル語)

この「スキンカリオール」ですが、ブラジルのビール市場では1位の「アンハイザー・ブッシュ」つまり「バドワイザー」に続いて2位、地場では1位ということで、キリンとしては国際化の一環として約3000億円で買ったものです。

非常に大雑把に言えば、売上で1500億ぐらいの規模の会社を3000億で買い、業績が不振なので、今回は「減損テスト」つまり「色々な経営データを分析して将来的な会社の価値を算定」した上で、帳簿に乗っている会社の価値(のれん代過大であればその差額を損失に計上する、そうした措置を今回行ったわけです。

詳細なデータを検討してみないと断定的なことは言えませんが、地場のビールで1位といってもその地位を確立したのは、1980年代ですから、主力の「ノバ・スキン」にしても、比較的新しいブランドであるわけです。ブラジル経済の不振と、特に通貨レアルの低迷という中で、このような結果となったのはある種の必然かもしれません。ですが、私は次の2点が非常に気になりました。

1) 「減損テスト」というのは国際常識では毎年行うべきものです。それを放置しておいて、今年になって「いきなりやって、巨額な損を落とす」というのは、経営として余りにズサンです。これだけの規模の会社なのですから、国際基準で毎年しっかりテストと減損をやっておくべきでした。

2) 一部報道では「売却も視野」などという話も流れています。これも全く気に入りません。それこそ朝ドラの「かのや」の若旦那のような腰の座らない姿勢であるばかりか、今季に思い切り「減損」をやっておいて、その後で少しブラジルの景気が上向いて「ブラジルキリンの価値が上がったところで売れば今度は利益が出るわけです。そんないい加減な経営でMAごっこをやっているようでは、国際戦略もあったものではありません。

今回は、いつもとは違う経営のお話になりましたが、要するに日本の大企業がここへ来て躍起になっている国際戦略には2つの大きな問題があるということをお話したかったのです。

その第一は「世界の最終消費者の市場が分からないし、追いかけるつもりもない」ので「対企業の取り引きに走る」か、あるいは「既存の地場産業を買いに行く」という「安易な道を選択しているという問題です。

その第二は、日本独自の「お小遣い帳的な素人会計制度」にいつまでも固執することで、「のれんの減損テストを毎年行わなかったり、あるいは買った企業の価値が堅実に維持されたり拡大しているのに「毎年定額で償却してみたり独善的な会計をやっているということです。そのために国境を超えた買収をやった後のグループ全体の経営の健全度が見えなくなっているのです。

今年の日本経済界の「大スキャンダル」であった東芝の問題についても、同じことが言えます。と言いますか、この2つの問題が重なった複合的なトラブルと言っていいでしょう。

この東芝の問題に関しては、不正会計問題の報道を受けて私は落胆して激しい怒りを感じたのですが、不正経理の話が本丸ではなく、要するにこの2つの問題の複合と見るのが正しいように思います。問題は東芝が「ウェスティングハウス・エレクトリック(WH)」というアメリカの大企業を買収しているのですが、その「会社の評価」というのが発端ではなかったかという点です。とにかくこのWH社の買収ですが、

「最終消費者向けのビジネスではなく、原発を売るという政府・企業相手のビジネス、つまり市場開拓の上では逃げであること」

「強気の経営計画を前提に企業価値が減らないという判断で帳簿をつけていたが、そこに恣意性があり、その結果としてグループ全体の会計に粉飾を施すことに追い込まれた

という2点が当てはまるのであり、正に今回議論している2つの問題があるわけです。

一言で言って「複式簿記国際会計基準の哲学を理解していない素人のサラリーマン経営者による大失態というしかないと思うのです。

報道によれば「業績不振が鮮明になった東芝は21日、新たなリストラ策として、家電部門と本社の管理部門で早期退職の募集や配置転換などを行い、計約7800人の人員削減を行うと発表」したそうです。その結果として、貴重な企業体力を担っている技術力まで低下するのではないか、私はそのことを非常に恐れています。

image by: TK Kurikawa / Shutterstock.com

 

冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋

著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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