売れない訳だ。大手旅行誌の元編集長が暴露する出版不況「負の連鎖」

 

だが旅行雑誌の生命線は、第一にこの“紹介施設探し”にあるといっていい。大きく紹介するに足る魅力的な施設さえ決まれば、あとは実際に訪ねて、ルポ記事を書けばいいだけだ。

原稿の上手下手はあるだろうが、宿や施設に真の魅力があれば、事実だけを積み重ねても興味深い記事になるものである。

こう考えていくと、紹介施設のピックアップ能力が高い編集部員、あるいはそうした能力のある外部スタッフを抱えている編集部というのが、魅力的な雑誌を創り出せる、ということになる。

時代が違うといえばそれまでだが、僕が旅行雑誌の編集部にいるときには、この施設ピックアップ作業を、編集部の全員で手分けして行っていた。

温泉宿特集の場合は、北海道&東北、関東&甲信越などのエリア別に担当を決める場合もあるし、料理自慢の宿、露天風呂自慢の宿などのテーマごとに担当をわける場合もあった。

僕が勤めていたのは全国誌の編集部だったから、当然ながら、全国の施設を網羅しなければならない。 これには、想像を絶する手間がかかった。 会議前の数日は、朝から終電までずっと電話にかじりついているという感じだった。

当時はネットもさほど普及しておらず(速度が遅くて使えないのだ)、全国の温泉旅館を網羅したガイドブック(一覧表程度の情報しか載っていなかった)を元に、片っ端から電話をして、なんとかテーマに沿った宿を見つけようと喉をからして調査をしていたものだ。

こうして施設セレクトを編集部がおこなうメリットは、調査を繰り返すに従って、編集部員の知識が蓄積されていくというところにある。

大きく紹介しようと考えた施設には、微に入り細に穿った電話取材をして、取材に行かなくても記事が書けるくらいまで調べあげたものだった。

そうした知識の蓄積がある上で、現地取材で宿を訪ねたときに、電話取材で得ていた知識と、自分の目で見た実態との“微妙な差”に気付くようになる。気が付けば、その情報を記事に書くことを考える。

結果として“行った人間にしかわからない情報が記事になるわけである。

この“生の情報”がふんだんに盛り込まれているものが良い記事であり、読者の共感を呼び、旅をした気分に誘ってくれる記事であると思っている。

そう考えていくと、よい雑誌、よい情報が載った雑誌を作るには、編集部員自らが紹介施設を調査し、実際に取材に行き、記事を書くということが重要なのだ。

だが、先に書いた通り、そういった理想的な誌面作りをおこなっている編集部というのは、少なくとも僕が版元に在籍していたころより確実に減っている

そこで次号では、温泉の紹介記事を読むときに、どんなことに注意すればいいのか、どういった表現には気を付けなければならないのか、ということを僕自身の体験などを織り交ぜて紹介してみたいと思う。

もったいぶるようで恐縮だが、あんまり長いとキツイので、今回はこれまで。

image by:Shutterstock

 

『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』より一部抜粋

著者/飯塚玲児
温泉業界にはびこる「源泉かけ流し偏重主義」に疑問を投げかけた『温泉失格』の著者が、旅業界の裏話や温泉にまつわる問題点、本当に信用していい名湯名宿ガイド、プロならではの旅行術などを大公開!
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