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なぜ、アメリカ大統領選はこんな茶番劇になっているのか?

世界中が驚いた米大統領選でのトランプ氏の「独走」、そして本命視されていたヒラリー氏の苦戦。メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』はこの選挙戦を「惨憺」を通り越し「漫画的」であるとし、それは「崩壊過程に入ったアメリカが針路を見失っている現れだ」と厳しい論を展開しています。

老帝国アメリカの徘徊癖・暴力癖をどう介護するか

アメリカの大統領選挙では、史上空前の珍風景が展開されている。私も長年、米大統領選は強い関心を持ってウォッチしてきたが、こんな惨憺たるというか、それを通り越して漫画的とさえ言える争いに迷い込んだのは見たことがない。共和党のトップを走っているドナルド・トランプというのは、ほとんど酔っ払いのオジさんでしょう。石原慎太郎と橋下徹の悪い所だけ寄せ集めて、それに浴びるほど焼酎を飲ませて演壇に送り出して、くだをまかせて面白がっているようなものだ。たちまち消え去るかと思えば、2月23日のネバダ州でもトップを確保した。他方、民主党は本命とされたヒラリー・クリントンが意外の苦戦で、ネバダではヒラリーが勝ったものの、社会主義者を名乗るバーニー・サンダースが格差拡大に苦しむ若者層を中心に根強い支持を固めている。北欧型の福祉社会を目指そうということであって、そんなに突飛なことを言っている訳ではないとは思うが、「いやあ、アメリカにまだ社会主義者がいたのか!」という新鮮な驚きがある。

何なのかというと、アメリカ帝国が崩壊過程に入って、この国が一体21世紀にどう生きていくべきなのか、国家も政党も政治家・候補者も国民も、羅針盤が壊れて針路を見失ってしまっていることによる意識混濁の表れである。

「金融帝国」の退廃

帝国の崩壊には2つの面があって、1つは「金融帝国」の崩壊である。

今日は時間がないので詳しくは触れないが、資本主義の総本山であるアメリカは、水野和夫が言う「資本主義の終焉」──16世紀以来、果てしなくフロンティアを求めてグローバル化を遂げてきた資本主義がもはや貪るべき物理的な辺境を失って、仮想的な金融空間で「カネがカネを生む」電子的な超高速取引という退嬰的なカジノ資本主義に隘路を見出して、しかしそれも08年リーマン・ショックで破綻して、さあどうするのか。今更、額に汗してモノを作る産業資本主義に戻れる訳もないのに「TPPで輸出を倍増して雇用を創出する」などと言い出して、ではその輸出先の最大市場となるはずの中国を招き入れるのかと思えば、最初から排除して、膝を屈して来れば入れてやってもいいという混濁した姿勢である。中国主導のアジアインフラ投資銀行AIIBへの度を超した警戒感を含めて、米国がまだ中国を上手く組み入れて多極世界の新秩序を形成していこうという戦略が立てられないでいることの反映と言える。他方、金融資本主義そのものについては、オバマは市場にいろいろな規制をかぶせて行き過ぎを是正し、「ほどほどの金融資本主義」に戻そうとしているかのようだが、実態はとんでもない方向に暴走していて、皆さん、マイケル・ルイス「フラッシュ・ボーイズ/10億分の1秒の男たち」(14年、文藝春秋刊)を、まだだったら是非読んで頂きたい。

いま株の取引の最先端は、ナノ秒、すなわち1秒間に10億回の取引ができるようなスパコンによって担われている。皆さんの中には、自宅のパソコンでデイ・トレーダーをやっている人はいないと思うが、画面を見て「おっ、この株は前から注目してきたけど、ここまで下がったら買い時かな」と、チョンチョンと入力して、「えーとっ」、エンター・キーを押して……などと何秒もかかって買い注文を出すわけだが、その瞬間にボーイズはそれを察知してフロントランニング先回り)して市場に出回っているその株を抑えてしまう。「あれっ?」と思って、「じゃあ、もう1円高くても買いだ」と思ってエンター・キー。するとボーイズはまたナノ秒で売りに出て差額を稼ぐのである。この超高速競争を勝ち抜くには、他よりも高性能のスパコンを、1メートルでも短い光ファイバーで取引所と繋いで、金融工学の粋を尽くした複雑なプログラムを開発して常に更新し続けなければならない。しかも彼らが手がけるのは、たいていの場合、株式だけではなくて為替や原油先物などの投機市場全般なので、例えば、原油がここまで下がると円安・ドル高に振れてそのためにこの株は上がりあの株は下がるといったことを、時差の推移を含めてすべて想定して自動的に売買を繰り返すようプログラミングする。目的はただ1つ、ナノ秒単位でいかにして「差額」を掠め取るかの詐欺的な行為でしかない。金融資本主義の電子的堕落は今ここまで来てしまった。

しかも、「フラッシュ・ボーイズ」を読んで驚くのは、こんな金融的詐欺が始まっていることを、ウォール街の投資銀行や証券会社も最初のうち気づかなかったという事実である。カナダ系の大手投資銀行のディーラーがある日を境に、大きな買い注文を出すと画面が真っ暗にかき消えてしまう事故に何度も遭遇する。おかしいなと思って調べていって、初めて超高速ボーイズによる詐欺のからくりが明らかになっていくというドキュメンタリーが本書の内容である。ボーイズにとっては、全世界の人々の慎ましい暮らしぶりはもちろんのこと、当該企業の業績や将来性も何も全く関心の外であって、ただ単に取引スピードにものを言わせて他人の注文にフロントランニングして巨額の富を横取りするゲームが面白いのである。

今やアメリカの証券市場には、スピードを基盤として、持つ者と持たざる者の階級構造ができていた。持つ者はナノ秒のために金を払い、持たざる者はナノ秒に価値があることを知りもしない。……かつては世界で最もオープンで、最も民主的だった金融市場は、盗品の芸術作品を集めた内輪の鑑賞会のようなものになり果てていた
(同書P.93)

今や「1%vs99%」どころではない。その1%の内部で、ナノ秒とミリ秒と1秒の格差が生まれつつある。まさに世も末で、米国が21世紀の資本主義の行方を見失って詐欺師や盗人の跳梁跋扈に転がり込んでしまったのでは、世界は一体どうしたらいいのか。

「軍事帝国」の行き詰まり

帝国の崩壊のもう一面は「軍事帝国」の崩壊である。

9・11の惨劇があって、当時のブッシュ大統領は「戦争だ!」と叫んでアフガニスタンとイラクの戦争を発動した。私は9・11で頭が真っ白になって、しばらくは何をどう考えたらいいか分からなくなってしまったが、ブッシュのその呼号を聞いて目が覚めて、事件から6日後に「戦争は泥沼化への道ではないか」と題した最初の分析記事を書いた。その頃、日本のマスコミも進歩的文化人と言われる人たちのほとんどもブッシュ支持で沸き立っていたから、それに異を唱えるのは少々勇気のいることではあったが、以来私は自分が主宰する「インサイダー」でその観点からの記事を繰り出し続けた。2006年の秋に、それまで5年間のアフガン、イラク関連の記事を集めて1冊に編んで、そのタイトルを「滅びゆくアメリカ帝国」とした(にんげん出版刊)。その当時は、「もう滅ぼしてしまうんですか」などと皮肉っぽく言われたものだったが、今では、世界ではもちろん米国の新聞・雑誌でも、米帝国の崩壊はごく普通に語られるようになった。

20世紀は「戦争の世紀」と言われた。前半には2つの世界大戦があって何千万もの人が死んで、「もうこんなことは繰り返してはならない」ということになって国連が生まれ、その理念に従って日本は非武装憲法を作り、欧州では友愛の精神に基づく地域統合への歩みが始まった。しかし世界は「緩慢な第3次世界大戦」としての冷戦に転がり込んで、国連憲章の理念も日本国憲法の精神も活かされることはなかった。それでも45年間を経てその冷戦も終わって、本来であれば世界は、戦争の世紀としての20世紀をきっぱりと卒業して、戦争なき21世紀、従って覇権なき多極秩序の21世紀へ向かって歩み始めなければならなかったし、それには誰よりもまず米国が、多極世界のワン・オブ・ゼムではあるけれども、しかし十分に強力な最大の経済大国として振る舞うことを学ばなければならなかった。が、現実はそうはならなかった。

冷戦を終わらせた当事者であるブッシュ父大統領は、「冷戦という名の第3次世界大戦に勝利して、今や米国は唯一超大国となった」という幻想に取り憑かれた。冷戦が終わったということは、20世紀前半の熱戦に戻ることではなく、冷戦にせよ熱戦にせよ、国民国家が軍事力にもの言わせて国家総力戦を戦って利害を競うのが当たり前という16世紀以来の国家観・戦争観・世界観を、エイ、ヤッとばかり一斉に捨てるということであるはずだったのに、米国はそれに応じなかったばかりか、逆に「旧ソ連がいなくなり、社会主義体制が崩壊して、これからは我々のやりたい放題だ」という愚かしい錯覚に舞い上がった。

その「唯一超大国」幻想を、「単独行動主義」とか「先制攻撃主義」とかの実際の軍事・外交路線に具体化したのがブッシュ子政権だが、しかしアフガンとイラクの2つの戦争は、軍事力では今の世界が抱える問題は何一つ解決しないという赤裸々な現実を露わにした。全世界の軍事費の45%を一国で費やす米国が、その総力を挙げて襲いかかってもテロリストを壊滅させることが出来なかったばかりか、中東の秩序は千々に乱れて、ISという化け物を生み出してしまった。

オバマ大統領はこの7年間、その2つの間違った戦争から米国を救い出し、軍事力任せの粗暴な米国を変革して21世紀の世界に適合させようと、それなりに頑張ったと思う。「米国は世界の警察官ではない」と繰り返し宣言し、また陸軍士官学校の卒業式の演説では、「米国は世界最強のカナヅチを持っているが、だからといって世界中のクギを打って歩くつもりはない」「すぐに軍事力に訴えないのは弱腰だと批判する者もいるが、私はそんな批判をかわすために諸君らを戦場に送ることはしない」と明言した。こんなことを言った米大統領はいない。

ネオコン勢力の策動

しかし、言うは易し行うは難しで、ネオコン、共和党右翼、草の根のキリスト教右派=ティー・パーティ、その背景にある軍産複合体など、一言でまとめれば「冷戦ノスタルジア」的な守旧勢力の激しい反動に直面する。

実はブッシュ子政権を取り仕切ったのはネオコンで、彼らは「全世界の独裁者を打倒せよ」という世界永久民主革命論とも言うべき過激思想の持ち主で、米国内のユダヤ・ロビーを通じてイスラエルの右翼政権とも繋がっている。また共和党右翼を代表するのはジョン・マケイン上院議員で、彼もまた反共・反独裁、反イスラム、親イスラエルでネオコンと通底している。さらにティー・パーティ的なキリスト教右派は、アメリカ式の自由と民主主義を世界に布教するのは米国人に神から与えられた使命であるという強烈な宗教的情熱を持っていて、容易にネオコンと一致する。これらの冷戦的勢力を煽りながら世界各地で戦争を引き起こして武器を売り込もうとしているのが軍産複合体である。この冷戦ブロックはまことに強力で、米国が21世紀に適合しようとすることを妨げている。

ネオコンは、イスラエルの諜報機関がねつ造した「サダム・フセインは大量破壊兵器を隠していて、それを今にもテロリスト集団に渡そうとしている」という偽情報をブッシュに吹き込んで米国をイラク戦争に引きずり込んだ。それ以前の90年代末以降、旧ユーゴスラビアのミロシェビッチ大統領はじめグルジア、ウクライナ、ベラルーシ、キルギスなど旧ソ連東欧圏の国々で「民主化」運動を煽り独裁政権打倒を策したのも、またチュニジアを発端に北アフリカから中東に広がった「アラブの春」に乗じて市民の民主化デモに介入して資金と武器を供給して内戦に転化させ、リビアのカダフィ大佐の虐殺、エジプトのムスリム同胞団政権の転覆、シリアのアサド政権の打倒の仕掛けなども皆彼らの仕掛けだった。特に目立つのはマケインの活躍で、彼はリビアにもウクライナにもシリアにも単身で飛び込んで、いわゆる反体制勢力と接触し、資金と武器を供給して独裁者に立ち向かわせるルートを設営した。

シリアでは、アラブの春の影響で2011年春に始まった市民の政治的民主化を求める、どちらかというと穏健な(必ずしもアサド政権打倒を目指しているのではない)デモが始まって、当初はアサド大統領側もそれなりの民主的改革案を次々に打ち出して対話を試みていたものの、そこへイスラエル右翼と結んだネオコン&マケインが介入して反政府勢力に資金と武器を供給してアサド打倒の内戦を挑発した。フセインやカダフィやエジプトの同胞団やアサドが消え去ってそれら各国が国家崩壊状態に陥ることは、誰よりもイスラエルにとって居心地のいい中東状況を作り出すことになるわけで、そのような中東の全般的な秩序破壊に米国を引き込んでその力を利用することがネオコンらの狙いだったのである。

オバマもこのネオコンの策動に危うく引っかかりそうになった。かねてからアサド政権に対する空爆を辞さないと言っていたオバマは、同政権が自国民に対して化学兵器を使用して百数十人を殺害したとの情報に猛り狂って空爆に踏み切ろうとした。ところがこれは、ブッシュをイラク戦争に引き込んだのと全く同じパターンのイスラエル発ネオコン経由の偽情報で、それを寸前のところで止めたのはロシアのプーチン大統領だった。プーチンはオバマに電話で「こんなものに引っかかったら、あなたはブッシュの二の舞になる」と言い、それでオバマが辛うじて思いとどまると、ネオコンや共和党右派は大統領を「弱腰」と罵倒し、全マスコミもそれに調子を合わせてオバマを貶めた。

アサド政権が化学兵器を蓄えていたのは事実で、それはイスラエルの核兵器に対抗するには、いざという時には化学兵器で反撃するしかないという「貧者の核兵器」という発想からのことである。その化学兵器の一部が内戦の中で米国に支援された反政府勢力の手に落ちて、彼らがそれを使用するという事態が生じたので、アサド政権は国連に調査団の派遣を要請した。その調査団が現地に到着した翌日に「化学兵器を使ったのはアサド政権側だ」という偽情報が流され、オバマはアサド爆殺を決断しかかったのだが、アサドが自分で化学兵器を使っておいて国連を呼び込むはずはないではないか。プーチンはその経緯を全部知っていてオバマを制止し、その後直ちにアサド政権が保有している化学兵器を国連管理下で国外に搬出するという作戦を提案し実行してネオコンとイスラエルの陰謀を封じ、オバマを救った。

結局、いまのシリアとISをめぐる大混乱の大元はここで、いわゆる反政府勢力を助けてアサド大統領という独裁者を倒すのが先だというネオコン路線に乗るのか、シリア政府とその軍を助けてISを潰すのが先だというプーチンの戦略に従うのかという問題であって、これは後者を主張しているプーチンの方が正しい。ここ数日に達成されつつあるシリア内戦停止の米露合意は、オバマがようやくネオコンの罠から脱して正気を取り戻しつつあることの証左である。

米大統領選の不毛

そのようにして、オバマはこの7年間を通じて、ヨタヨタしながらも何とかして米国をやたらに軍事力を振り回すのではない国に生まれ変わらせようと頑張って来たのだと思う。そこで今年の米大統領選の最大の焦点は、そうやって21世紀に向かって半歩踏み出した米国を誰が引き継いで一歩、二歩と前に進めるのかということに尽きる。世界にとっての大統領選への最大関心事はそこにしかない。

ところが現実には、そんなことは何ら選挙戦の論争テーマにはなっておらず、例えばトランプが外交について言っているのは、「力だ、力だ、力だ。誰も俺たちに手出しが出来ないようにする圧倒的な力だ」とかいう幼稚きわまりない戯れ言でしかない。後を追うテッド・クルーズは外交については多くを語っていないが、IS対策について問われた時には「絨毯爆撃だ。私の戦略はシンプルだ。悪党どもを標的にして叩きのめす」と、まさしくシンプル極まりないことを言って失笑を買った。しかし彼の基盤がキリスト教右派であることを思えば、この面に関しては簡単にネオコン路線と同調するだろう。

もう1人のマルコ・ルビオは、トランプの粗暴ぶりに手を焼いた共和党主流が、すでに選挙戦から撤退したジェフ・ブッシュの票を回して何とか浮上させようとしているが、私に言わせれば一番浮上してほしくないのはこの人で、なぜなら彼は、米国のメディアで「ナイーブなネオコン」と呼ばれているとおり、ネオコンの手先だからである。彼のブレーンにはネオコンの策動拠点である「アメリカ新世紀プロジェクト」の人脈が入り込んでいる。

「アメリカ新世紀プロジェクト」を立ち上げたのは、ネオコンの代表的論客である歴史家のロバート・ケーガン=米ブルッキングス研究所上席研究員である(マケインもメンバー)。01年の9・11の1年前に、米国が地球的責任を果たすための軍備大増強を提唱する米防衛再編計画を発表、その際にそれを短期間に実現するには「新たな真珠湾攻撃のような破滅的な出来事」が起きることが必要であるかのごとき一句を盛り込んだので、後々「ネオコンによる9・11自作自演の論拠にされた。

そのケーガンの妻は現職の米国務次官補(欧州・ユーラシア担当)のビクトリア・ヌーランドで、彼女がキエフの民主化デモが盛り上がり始めた13年12月10日にキエフ入りし、野党指導者たちと会談し、また独立広場に行ってデモ参加者にお菓子を配った。続いて14日にはマケイン上院議員がキエフに姿を現してウクライナのネオナチ勢力幹部に資金・武器援助を約束し、これによって「キエフの春」は早々に独裁者打倒=ロシアの影響力排除のための内乱に転化したのである。

従って、ルビオが共和党の予備選を制すれば、米国中枢が再びネオコンの危険思想に深く汚染される危険が生じる。

民主党では、サンダーズは今のところ国内格差問題への取り組みをアピールするのに忙しく、外交まで頭が回っていない。が、かつてイラク戦争に反対した投票記録があるから、ハト派には違いない。クリントンはファースト・レディ、国務長官も務めた外交のプロで、その意味ではただ1人、安心感を持てる知性的国際派ではあるが、オバマより遙かにタカ派で、軍事力の行使をためらわないタイプである。彼女の言う「グローバル・リーダーシップ」というのは、共和党の言う「唯一超大国」と実は紙一重で、軍事力の行使を決して排除していない

こうして、これまでの選挙戦を見る限り、オバマの脱軍事帝国のための悪戦苦闘をさらに強力に前に進める大統領が登場する可能性はほとんどなく、むしろ冷戦的もしくはネオコン的な勢力の大復活という逆流が生じる危険が高まっている。

安倍政権の逆方向

それは世界にとってはもちろん日本にとっても深刻な事態で、安倍政権の超タカ派路線は要するに反オバマの冷戦的な守旧勢力こそが米国の主流だという思い込みの上に成り立っているので、共和党のタカ派大統領が誕生すれば安倍は勇気百倍、その路線をさらに突き進めるだろう。安倍が直結しているのはジョゼフ・ナイ、リチャード・アーミテージ、マイケル・グリーンなどの「ジャパン・ハンドラー」と呼ばれる軍産複合体の利益代弁者である。中国や北朝鮮の「脅威」を煽って日本を脅し上げ、オスプレイやミサイル防衛システムなどの最新鋭の兵器を売り込むのが彼らのビジネスで、このラインを通じて日本の対米属国化はさらに深まることになる。

端的に言って、今世界にとって最大の難問は、老帝国アメリカの徘徊癖や暴力癖をどのように防止しておとなしく寝かしつけるかという介護問題である。日本は本来、欧州やロシアや中国と語らって米国を真綿で包むようにしながら導いて、21世紀の多極世界の秩序作りに軟着陸させるよう主導権を発揮しなければならないが、安倍がやっているのは真反対で、米国の最も退嬰的な部分と癒着して、中国との軍事的対決を辞さない「強いアメリカ」に立ち戻るよう煽り立てて時代の流れを20世紀へと逆行させるのを助けている。こんなことでは、せっかくの伊勢・志摩サミットも、「日本が主導して中国包囲網を作り出すのに成功した」などという混濁したメッセージを世界に発するだけの場に終わるのではないか。

 

 

高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋
著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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