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なぜ「米国でラーメンブームが下火」という記事が日本で掲載されたのか

ニュースサイトで取り上げられ、日本で話題になっている「アメリカのラーメンブームが下火」という内容の記事。NY在住でメルマガ「ニューヨークの遊び方」の著者・りばてぃさんがこの記事について紹介し、「まったくのデタラメ」とぶったぎっています。なぜこんな記事が出たのか、その裏にはある理由がありました。

「NYでラーメンブームが下火」の嘘

大した話題じゃないのでスルーしようかとも思ったが、うちで取り上げないと、他に取り上げてくれる人がいなさそうなので、取り急ぎ。

最近、元記事のタイトルは違うが、ニュースサイトに転載されて『アメリカのラーメンブームが下火に? 次はうどんブームが到来か』と題されたニュースが日本のインターネット界で広まっているっぽい。

ビックリした。

結論から言えば、『アメリカのラーメンブームが下火に?』なんてデタラメだ。嘘と言っていい。

というか、そもそもアメリカのブームや流行は、日本のものとは、根本的に性質が違う。

特に、ニューヨークでは大違い。

なぜなら、この街には、世界各地から集まった多種多様な文化や価値観やライフスタイルを持つ、さまざまな人種や民族の方々がいるからだ。

ちょっと考えてみて欲しい。

特に、趣味や嗜好が関係する食文化について、ニューヨークのように多種多様の人々がいる環境で、日本みたいにひとつのものが同じようにブームになったり、流行するだろうか?

なるわけない

この現象については、ちょうど幻冬舎Plusの方で連載中の

●「日本のビジネスに本当に必要なこと
の特に第2回目の

第2回 ニューヨークでは何が流行っているの? 「流行がいっぱいのニューヨーク」
以降にがっつり書いてるので、お時間がある方はぜひどうぞ。

とにかく、ニューヨークでは、異なるさまざまな分野や、多種多様の趣味・嗜好を持つ人々の間で、いろいろなものが同時多発的に流行している、というのが事実。

ひとつひとつの流行は、特に最初のうちはニッチな市場を対象にしたものだったりするが、関係者の手腕次第で、異なる多様な人々をひきつけ、徐々にスパイラル状に発展し、結果的に、より大きな市場を対象にしていくことになる。

極端な例を挙げれば、ブロードウェイ・ミュージカルだって、もとはニッチ対象だったものが、発展して今の状況になったと言えるだろう。

というか、現在でも、ニューヨークに住んでいる人々のみんながみんなブロードウェイ・ミュージカルをそんなに頻繁に観にいってるわけじゃない。

そもそも一人100ドルくらいするチケットを、みんながみんな買えるわけがない。

それこそ、世界中から観客が集まるようになった今ですら、ごくごく一部のニッチ狙いだ。

それでビジネスが成り立っている。

成り立っているどころか、それで史上最高の売上げや集客数をたたき出している。

でも、別に今さら、ブロードウェイ・ミュージカルがブームだとか、流行だっていうような話にはならない。

なぜなら、エンターテイメントのひとつのジャンルとして定着したからだ。

〔ご参考〕
謙さんも貢献!! 2014-15年期のブロードウェイ・ミュージカルの売上、集客数が史上最高記録を更新!!!

ニューヨークのラーメン…、厳密に言えば、日本式ラーメンもそれと同じような感じの発展の道を進んでいる。

もともとニューヨークには、チャイナタウンを中心に、ヌードル・スープという、日本のうどんに近いタイプの麺類はあったが、日本式ラーメンのように、細くてコシのある麺を使って、時間や手間をたっぷりかけたこだわりの特製スープを出すような麺類は存在しなかった。

そのため、ニューヨークでは、以前からあったチャイナタウンのヌードル・スープとは別の新しい食べ物として、日本式ラーメンは、ひとつのジャンルとして定着することになった。

もちろん、最初はニッチ狙い、そして現在もよくよく考えてみれば、ニッチ狙い。

ニューヨークに住んでいる人々のみんながみんな日本式ラーメンをそんなに頻繁に食べにいってるわけじゃない。

ちなみに、そのさきがけとなったのが、今からもう10年以上前の2004年にオープンした「モモフク・ヌードル・バー」(Momofuku Noodle Bar)。

その後、世界的な日本式ラーメン人気の火付け役と評されるようになる名店である。

〔ご参考〕
世界的な日本風ラーメン人気の火付け役 NYの「モモフク・ヌードル・バー」(Momofuku Noodle Bar)

10年以上の年月をかけて、ひとつのジャンルとして定着した日本式ラーメンの人気が、このタイミングで下火になる理由も、証拠も見当たらない

むしろ、ニューヨークでは、現在も日本式のラーメン屋さんや、日本式のラーメンを出すお店は増え続けている

Googleで”new york japanese ramen”を検索すれば、新しいお店のオープン情報、オススメのお店情報、ニューヨーカーがラーメンを愛する理由についての特集等など、日本式のラーメン屋さんの情報がいくらでも出てくる。

〔ご参考〕
Nakamura Is the Newest Big-Deal Ramen Shop to Get Excited About Jan 27, 2016

The 11 Best Ramen Spots in NYC FEB 18, 2016

New York’s love for ramen noodles FEB 11 2016

さらに、日本式ラーメンの人気が広まった影響で、アジア系のレストランで通常メニューになかったヌードル・スープ(うどんっぽい麺)を新たに出すお店も出てきてる。

〔ご参考〕
安くて美味しい!!! アジアン・スパイシー・カレー(Asian Spicy Curry)の野菜カレー・ヌードル

こんな報道が出た理由

じゃ、なぜ、『アメリカのラーメンブームが下火に?』などという日本の報道が報じられたのか?

その理由は、まず、アメリカというか主にニューヨークで日本式ラーメンの人気がかなり広まり、ひとつの食のジャンルとして定着したためだろう。

そう、事実は逆なのだ。

日本式ラーメンの人気が下火になったのではなく、人気が広まっているから、うどんが話題になったと考えるほうが自然だ。

どういうことか?

日本式ラーメンは、しょうゆ、味噌、とんこつ、その他さまざまな味があり、ダシの取り方、麺の種類、具材ひとつひとつの作り方などまでかなりのバリエーションが存在し、それについてのうんちくもほとんど無限に存在する。

そもそも日本国内での、ラーメン店の競争は熾烈だ。

長らく続いた日本のデフレ経済下でも、なぜかラーメンだけは1食1000円をこえる値段でも、美味しいお店には行列ができ、大いに繁盛し続けてきた。

すると腕に自慢のある新たなお店が増えて、競争が激化する。

そんな競争の過程で、日本のラーメンの味や品質はめちゃめちゃ向上してきた。

もしかすると、人類史上、ひとつの食のジャンルで近年の日本のラーメンほど、多くの料理人が競争しあって、味や品質を高めてきたものは存在しないんじゃないかってほどだ。

で、そうした本格的な日本式のラーメン屋さんが、ここ10年ほどの間に、続々とニューヨークに進出してきた。

次から次へと、個性豊かな美味しい日本式のラーメン屋さんがオープンして、ニューヨークのフードライターは、驚いたに違いない。

だから、しょっちゅう記事にする。

どこまで掘り下げて記事を書いても余裕で書けてしまうほど、現在の日本式のラーメンの奥は深い

すると、その流れで、ラーメン以外の蕎麦やうどんなどの日本のヌードル(麺類)についても詳しくなるフード・ライターが出てきて、「次はうどんか?」というような記事になったということだろう。

なお、蕎麦については、すでにニューヨークではひとつの食のジャンルとして定着し、安定した人気を誇っている。

何年か前にSOHOにあった有名店のオーナーさんがご家庭の事情で日本に帰国して店を閉めた後、日本式ラーメンが広まったため、蕎麦ブームが去ったとか言う人もいるが、そういう人は、上述のとおり、そもそもアメリカと日本ではブームや流行の性質が違うということを理解していないだけだ。

それからもう1つ、ニューヨークで「うどん」が新たなブームになるという報道が出てくる理由がある。

たぶん、今後、実態に関わらず、その手の報道は増えるだろう。

なぜなら、日本の「つるとんたん」が今年、ニューヨークに進出し、一号店をオープンするからだ。

しかも、その出店予定地は、あの「ユニオン・スクエア・カフェ」(Union Square Cafe)のあった場所に、である。

ご存知ない方のために補足すると、「ユニオン・スクエア・カフェ」は、昨年、NY証券取引所にも上場したハンバーガー・チェーンの「シェイク・シャック」を生み出したダニーマイヤー(Daniel Meyer)氏が、地元の地域活性化のために一番最初(1985年)にオープンしたレストラン。

「ユニオン・スクエア・カフェ」から発展して、1994年に「グラマシー・タバーン」(Gramaercy Tavern)、2002年に「ブルー・スモーク」(Blue Smoke & Jazz Standard)、2005年に「ザ・モダン」(The Modern)等などとグループ店を増やしていった。

〔ご参考〕
Union Square Hospitality Groupの歴史

さらに、ユニオン・スクエアで開催される地元農家の方々による青空市場、グリーン・マーケットが発展した理由のひとつに、マイヤーさんのレストランがグリーン・マーケットで食材を調達するようになったから、とも言われている。

レストラン・ガイドのザガットがまだGoogleに買収される前、調査員のレビューに基づく評価が掲載されていた時代に、ニューヨークのナンバーワンのレストランに、10年ほど連続して選ばれ続けていたのも、「ユニオン・スクエア・カフェ」だ。

ちなみに2位は系列店の「グラマシー・タバーン」で、何年間もずっと1位と2位で競争しあっていた。

そんな伝説の名レストランである「ユニオン・スクエア・カフェ」も、家賃の高騰を理由に、30年続いた場所から数ブロック離れた別の場所(Park Ave & 19 St、以前City Crabがあったところ)へ移転することになった。

実は、ちょうど今、新しい場所への移転作業中で、工事中のお店の外壁にアート作品が登場して、そんなことまでニュースになっていたりする。

〔ご参考〕
Artist Maira Kalman’s Union Square Cafe Illustrations

とにかく、そんな伝説の名レストランの跡地だったら、どんなレストランが入っても、話題になるに決まってる。

そして、それが日本のうどん専門店の「つるとんたん」なのだ。

オープンは今年の春予定。

「ユニオン・スクエア・カフェ」の移転の発表と合わせて、昨年からめっちゃ記事が出ている。

そんな背景から、日本のうどんがこのタイミングで改めて注目されるようになったのではないだろうか?

〔ご参考〕
Union Square Cafe Will Take Over City Crab Space

Union Square Cafe finds a new Manhattan location

Union Square Cafe Found A New Union Square Home

10 Delicious Food Trends To Look Out For This Year

あと、もしかすると、水面下で「つるとんたん」が関連記事を書かせているのかもしれない。

だって、以前からニューヨークには、日本のうどん専門店はあるし、もっと言えば、チャイナタウンのヌードル屋さんの多くは、もともとかなり日本のうどんのような麺を出している。

今さら、このタイミングで、日本のうどんが話題になるなんて、「つるとんたん」が出てこなければなかったのかもしれない。

あと、ニューヨークの既存の中華系のヌードル屋さんは、とんでもなくまずいお店も多いが、中には、コシのある手打ち麺とラム肉料理で人気の「西安名吃」(Xi’an Famous Foods)みたいに、料理のバリエーションも豊富で、日本のうどんより美味しいんじゃないの?ってお店もある。

〔ご参考〕
NYでブレーク中の激ウマ手打ち麺のラム肉料理 Xi’an Famous Foods、西安名吃

たぶん、「つるとんたん」がオープンしたら「西安名吃」あたりのお店も引き合いに出されて、改めて話題になりそう

その際に、新たにオープンした「つるとんたん」と「西安名吃」のような既存の中華系のヌードル屋さんのどちらのほうが美味しいと評されるかで、今後、日本のうどんがより多くの人々に受け入れられていくかどうかが決まってくる…かもね?

image by: Shutterstock

 

メルマガ「ニューヨークの遊び方」』より一部抜粋

著者/りばてぃ
ニューヨークの大学卒業後、現地で就職、独立。マーケティング会社ファウンダー。ニューヨーク在住。読んでハッピーになれるポジティブな情報や、その他ブログで書けないとっておきの情報満載のメルマガは読み応え抜群。

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