14年の「クリミア併合」以来、ロシアを最大の敵とみなしていたアメリカですが、ここに来てその米ロ関係に“雪解け”の兆候が。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』著者・北野幸伯さんは、その動きを「アメリカは、AIIBの一件がよほどショックだったのでは」と分析しています。
AIIBショックで、アメリカはロシアとの和解に動く
中国主導でつくられた「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)。これは、やはり「歴史的大事件」だったようです。
57か国が参加を表明。その中には、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、オーストラリア、イスラエル、韓国などなど、「親米諸国」も山ほどいる。しかもこれらの国々は、アメリカの「入るなよ命令」を無視して参加した。
「誰も俺のいうことを聞いてくれない・・・」(オバマ)
「覇権国家」の面目丸つぶれであります。
しかし、我が国日本だけは、アメリカを裏切りませんでした。
それで、RPEは4月13日号で、「AIIBは、安倍政権にとって第3の【神風】である!」と書きました。
そして、安倍総理の、すばらしい米議会演説。
これで、アメリカにとって日本は、イギリス、イスラエル以上に緊密な国になった。
ちょっと前まで、「右翼」「軍国主義者」「歴史修正主義者」だったはずの安倍総理は、「アメリカ最大の親友」に格上げされたのです。(安倍演説の戦略的意義、詳細はこちら)
さて、「AIIB」でアメリカの面目はつぶされた。
しかし、それで素直に覇権を中国にゆずるほど、アメリカは落ちぶれていません。
必ず「リベンジに動くだろう」。
私は、アメリカの「リベンジ戦略」の詳細を予想し、ダイヤモンド・オンラインに記事を書きました。
その一つが、「アメリカはロシアと和解に動く可能性がある」でした。
で、実際何が起こったか?
ケリーがロシアにやってきた
アメリカのケリー国務長官が5月12日、ソチにやってきました。
露訪問の米国務長官、ウクライナ停戦履行なら「制裁解除あり得る」
AFP=時事 5月13日(水)7時13分配信
【AFP=時事】米国のジョン・ケリー(John Kerry)国務長官は12日、ロシアを訪問し、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領とセルゲイ・ラブロフ(Sergei Lavrov)外相とそれぞれ4時間、合わせて8時間に及ぶ会談を行った。
その後ケリー氏は、ウクライナの不安定な停戦合意が完全に履行されるならばその時点で、欧米がロシアに科している制裁を解除することもあり得るという見解を示した。
引用部分は短いですが、とても重要な内容を含んでいます。
まず、ケリーさんがロシアに来るのは、「クリミア併合後」はじめてである。日韓のことを考えればわかりますが、両国関係が悪いと、なかなか訪問になりません。
「ケリーさんがやってきた」
それだけでも、まず大事件です。
次に、ケリーさんは、プーチンと4時間会談。ラブロフ外相と4時間会談。テーマは、シリア、イラン、ウクライナだったとか。
それにして、プーチンと4時間。「悪魔」「ヒトラーの生まれ変わり」と批判していた男と、何をそんなに話したのでしょうね?
これ、個人でもそうですが、仲良くしたくない相手とは、長く話さないものです。
仕事でもそうでしょう? 取引したくない相手には、あまりご馳走もせず、「すいません次の予定が入っておりますので」などといって、帰ってもらうでしょう。
つまり、アメリカ側もロシア側も、「仲直りしたい」という意思がある。
3番目、ケリーさんは決定的なことをいいます。
ケリー氏は、ウクライナの不安定な停戦合意が完全に履行されるならばその時点で、欧米がロシアに科している制裁を解除することもあり得るという見解を示した。
制裁解除もあり得る!!!
「AIIB」前と後で、アメリカの対ロシア姿勢は明らかに変化しています。
つまり、「軟化」しているのです。
4番目、この記事では触れられていませんが、ロシアのニュースで言っていました。
ケリーは、『クリミア』について一度も触れなかった
これは、要するに、「クリミアはロシア領と認めないけど、黙認ということで『手打ち』にしたい」ということではないでしょうか?
いずれにしても、「AIIB事件」でアメリカは、「主敵は中国だ!」ということを、ようやく認識したのだと思います。
アメリカはこれまで、三つの地域で問題を抱えていました。つまり、
・中東
・ウクライナーロシア
・東シナ海、南シナ海ー中国
中東に関して、アメリカはイランとの和解に動き、イスラエルが怒っている。そして、ウクライナを見捨ててロシアとの和解に動き始めた。
これは、三つの戦線のうち二つをしめて、「中国との戦いに集中する」という意志の現れでしょう。
これは、私たちが12年前に描いた「日本必勝スキーム」への第1歩なのでしょうか?
まだ流動的ではありますが、期待したいと思います。
image by:Wikimedia Commons
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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