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プーチン、電撃のシリア撤退。ロシアはどんな「目標」を達成したのか?

シリアで反アサド派やISへの空爆を続けていたロシアが、軍の撤退を明らかにしました。同盟者であるアサドを守り、不安定ではあるもののシリアに平和をもたらしたロシアが「達成された」と語った軍事行動の「目標」とは何だったのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんが、ロシア軍のシリア参戦と撤退の真実について詳しく解説しています。

プーチン、神速の用兵術~ロシア軍、シリアから撤退へ

プーチンは、軍に「シリアから撤退するよう」指示を出しました。

ロシア大統領、軍にシリアからの撤退を命令

CNN.co.jp 3月15日(火)9時36分配信

 

(CNN) ロシアのプーチン大統領は14日、ロシア軍はシリアでの目的を果たしたとして、撤退するよう指示したことを明らかにした。

 

国営スプートニク通信によると、撤退は15日から始まる見通しだ。

 

プーチン氏は「国防省と軍全体に課された任務の目標は達成された。シリアからの軍撤退を明日始めるよう、国防相に命じる」と述べた。

そして実際、空軍の戦力が続々と引き上げを開始しています。

ところでプーチンは、「国防省と軍全体に課された任務の目標は達成された」と語りましたが、軍事行動の「目標」はなんだったのでしょうか?

皆さんご存知ですね。表向きは、「全人類の敵『イスラム国』(IS)を退治すること」。本音は、「海軍基地のある親ロシア国家シリアの、親ロシア反欧米政権アサドを守ること」です。

ロシア大統領府によると、プーチン氏は撤退について、シリアのアサド大統領と電話で会談した。

 

両首脳は、ロシア空軍がシリアのテロ組織に「相当な」打撃を与えて形勢を逆転させたとの見方で一致し、空軍主要部隊の撤退日程で合意した。
(同上)

アサドは、本当にロシア軍のおかげで救われたのでしょうか?

軍事アナリストらによると、アサド政権は当時危機に陥っていたが、ロシアの介入によって反体制派や過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」への反撃が可能となった。
(同上)

プーチン嫌いのアメリカCNNも、「ロシア軍によってアサド政権は救われた」ことを認めています。とはいえ、ロシア軍が「完全に撤退」というわけでもないようです。

ただ、ロシアは「停戦監視のため、シリアに航空援護拠点を維持する」という。
(同上)

これは、ISや、シリア北部にしばしば侵入しているトルコなどに睨みをきかすためなのでしょう。

ロシア軍参戦と撤退までの流れ

ここまでの流れを、簡単に振り返っておきましょう。

2011年、「アラブの春」の影響がシリアまでおよび内戦が起こります。ロシアは、シーア派イランと共に、親ロシア・反欧米アサド政権を支援しました。一方、欧米および、サウジ、トルコなどスンニ派諸国は、反アサド派を支援しました。

米ロ代理戦争」と化した、内戦はなかなか決着がつかなかった。しびれを切らしたオバマは2013年8月、「アサド軍は化学兵器を使いレッドラインを越えた!」とし、「シリア攻撃開始」を宣言します。しかし、翌2013年9月には、戦争をドタキャン」し、世界を仰天させました。表向きの理由は、「プーチンの提案で、アサドが化学兵器破棄に合意したから」でした(実際、化学兵器は破棄された)。

オバマはさらに、アサドを支援するイランとの和解に動きます。アメリカから「梯子を外された」「反アサド派」の中から、新たな動きが起こってきました。それがIS。ISは、またたく間にシリアとイラクにまたがる広大な領域を占拠。油田を占領することで潤沢な資金を得て、世界的脅威に成長していきました。

ISはあまりに残酷。というわけで、アメリカは2014年8月、かつて自分が支援していた反アサド派の元一派ISへの空爆を開始します。しかし、ISは一方で、反米アサド政権と戦ってもいる。だから、「都合のいい存在」でもあり、空爆は「ダラダラ」。成果がまったくでなかったのです。ISは、アサド政権を追い詰めていきます。

2015年9月、プーチンロシアは、「人類の敵ISを打倒する!」と宣言し、シリアでの空爆を開始しました。ロシア軍は、米軍が決して手をつけなかった「IS石油インフラ」への猛烈な空爆を繰り返すことで、ISの資金源を断ちます。金を失ったISは、急速に衰えていきました。さらにロシア軍は、「反アサド派」を攻撃することで、同盟者アサドを守ることに成功します。

敵ISおよび反アサド派が十分弱体化した。そして、アサド政権、軍は十分強くなった。この時期を見計らい、ロシアはアメリカと「シリア停戦協議」に入りました。結果、

<シリア内戦>焦点は「停戦の履行できるか」 米露共同声明

毎日新聞 2月23日(火)22時1分配信

 

【ワシントン和田浩明、モスクワ杉尾直哉】約5年間に及ぶシリア内戦を巡り、米国とロシアが22日、シリア時間27日午前0時(日本時間同日午前7時)からの停戦を呼びかけたことを受け、今後の焦点は停戦の履行に移る。

 

25万人以上の死者を出した戦いに終止符を打てるのか。

27日からシリアは停戦に入り、現在も続いています。こう振り返ると、ロシア軍は、

  1. 2015年9月末からシリア空爆開始
  2. ISの石油インフラを集中攻撃することで、ISの資金源を奪った
  3. 反アサド派への攻撃を繰り返し、弱体化させた
  4. アサド政権、軍は、盛り返し、反アサド派を圧倒するようになった
  5. 時期を見計らい、アメリカに停戦を提案
  6. 2016年2月、シリア停戦合意
  7. 2016年3月、ロシア軍、シリアから撤退を開始

という流れです。この間、「わずか半年」という超スピード。同盟者アサドを守り、シリアに(不安定ではあるが)平和をもたらした。アフガンやイラクで「ダラダラダラダラ」戦争をつづけたアメリカと比べると、「神速」といえるでしょう。

ウクライナ和平まで

プーチンの速さは、シリアに限ったことではありません。2014年2月、ウクライナで革命が起こった。親ロシア派ヤヌコビッチ政権が倒れ、親欧米新政権が誕生します。親欧米新政権は、「クリミアからロシア黒海艦隊を追い出し、NATO軍を入れる」と宣言していた。戦略上の超重要拠点を失うことを恐れたプーチンは2014年3月、「クリミア併合」を断行します。

2014年4月、ロシア系住民の多いウクライナ東部ドネツク州、ルガンスク州などが、「独立宣言」。ウクライナ新政権はこれを認めず、内戦が勃発しました。世界中が「プーチンは、ウクライナ東部も併合する。その後ウクライナも併合し、バルト3国、東欧を全部併合する」と大騒ぎになりました。

しかし、RPEは、

というわけで、ロシアは、「東部を併合しないと予測していました。実際そうなっています

ウクライナで内戦が始まる 欧米vsロシア“代理戦争”の行方

さて、2014年4月にはじまったウクライナ内戦。ロシアは、「東部親ロシア派」を支援。欧米は、「親欧米ウクライナ新政権」を支援しました。しかし、2015年2月、ロシア、ドイツ、フランス、ウクライナで「停戦合意」が成立します。これも、シリアとほとんど同じパターンで停戦にいたっています。つまり、ロシアの支援で東部勢力が、ウクライナ軍を圧倒していた。

「このままでは負けてしまう! そうなれば、俺たちの支配は、たった1年で終わってしまう!」と、ウクライナ新政権と支援する欧米を恐怖させ、交渉テーブルに引きずり出した。結果、大騒ぎされたウクライナ内戦は、たった10か月で停戦に至ったのです。

こう見るとプーチン、ウクライナは10か月で、シリアは半年で「停戦」にこぎつけています。そして、目標を達成したら、さっさと引き上げる。

3連勝のダークサイドとトランプ

こう見ると、プーチンは2013年から、いくつかの「戦術的勝利」を重ねています。

こうみると「連戦連勝」に見えます。しかし、「大戦略レベル」では大きな問題を抱えています。ロシア経済は現在、「経済制裁」「原油安」「ルーブル安でひどい状況になっている。「制裁」に関していえば、つまり、欧米日本との関係が良くない(アメリカとの関係は、2015年3月以降改善されていますが、「制裁解除」には至っていません)。

さらに、昨年11月トルコがロシア軍機を撃墜したことで、ロシア―トルコ関係が最悪になっている。これは、ロシアにとっても大きな打撃なのです(ロシアとトルコは、ガスパイプライン建設プロジェクトを計画していた)。

ロシア最大の味方は中国ですが、中国経済がボロボロになってきている。つまり「頼りにならない(事実上の)同盟国」になりつつある。

こう見ると、プーチンは「シリアでの勝利」を長く喜んでいられない状況なのでしょう。

明るい兆しはアメリカに見えます。共和党トップを独走するトランプは、「プーチンとの和解と協力の必要性を公言している。彼が大統領になれば、制裁は解除されるかもしれません。それで、ロシアメディアも、「トランプ支持」一色になっています。

image by: Evgeny Sribnyjj / Shutterstock.com

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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