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「ビルの地下にいる」との情報も。安田純平氏の動画を各紙はどう報じたか

インターネットで、昨年6月から行方不明になっているジャーナリスト安田純平さんと見られる男性の動画が公開されました。ジャーナリスト藤原亮司さんによるとヌスラ戦線は解放の条件として身代金を要求しているとのことですが、今後日本政府はどのように動いていくのでしょうか。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』では、各紙がこの件についてどう報じたか詳しく伝えています。

安田純平さんと見られる男性の動画について、各紙はどう報じたか

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「安田さん ヌスラ戦線拘束か」
《読売》…「消費増税先送り検討」
《毎日》…「代理母求め渡米急増」
《東京》…「毎月11日 命描く」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「保育士 足りない」
《読売》…「解散 選択肢広げる」
《毎日》…「拭えぬ曖昧さ 「東京」へ課題」(マラソン代表選考)
《東京》…「劣勢組織 資金調達狙う?」(安田さん拘束)

基本的な報道内容

シリアに入国後、行方が分からなくなっていたフリージャーナリスト安田純平さんとみられる男性の動画が17日未明までにインターネット上に投稿された。男性は家族に向かって英語でメッセージを発し、「私はジュンペイ・ヤスダです。今日は私の誕生日、3月16日。彼らに何でも自由に話してよいと言われ、私のメッセージを送ることができます。妻、お父さん、お母さん、兄弟、みんな愛しています」などと語った。

日本政府は動画の男性を安田純平さんとほぼ断定、情報の収集と動画の分析を急いでいる。菅官房長官は会見で、昨夏に安田さんが行方不明になったとの情報を得た後、首相が対応を指示していたと述べた。

【朝日】日本政府は「身代金要求には応じない」?

【朝日】は1面トップと3面に関連記事。見出しを拾う。

安田さん ヌスラ戦線拘束か
動画投稿者「身代金求めてる」
安田さん「救出」の行方は
ヌスラ戦線 人質解放された例も

《朝日》は動画投稿者の男性に電話取材をしている。投稿者はフリージャーナリストを名乗るシリア人で30歳、現在はトルコにいると答えている。動画はアルカイダ系組織ヌスラ戦線の仲介交渉者から受け取ったもので、この仲介交渉者はヌスラ戦線と各国政府などとの交渉を担っており、以前から投稿者と知り合いだという。

投稿者は「ヌスラ戦線は身代金を求めている」と述べたという。当初、ヌスラ戦線は15万ドルで動画を日本のメディアに売ろうとしていたが、投稿者が「誰も動画を買わないだろうから、無料で公開した方が日本政府の知るところとなり日本側が仲介者を送ってくるはずだ」と提案し、このような形になったと言っているらしい。

uttiiの眼

《朝日》は動画投稿者への電話取材に加え、さらに、安田さん救出の可能性を探っている。強調されているのは、ヌスラ戦線は人質を残虐な方法で殺害する「イスラム国」とは違い、身代金と引き換えに解放することが多い点。解放されたイタリア人女性2人のケース、2年ぶりに解放された米国人ジャーナリストの例など。カタールが仲介して解放が実現したとの推測も。

ただし、日本政府は身代金要求には応じない」としている。安田さんの家族に、日本政府に対して求める対応を尋ねると「何もないです。よくしていただいているので」と語ったという。

【読売】誘拐ビジネスの常習犯

【読売】は38面に基本的な記事と写真。関連して7面の国際面にヌスラ戦線の誘拐事件についての記事。見出しは以下の通り。

イスラム過激派 拘束か
不明の安田さん アル・カーイダ系
動画投稿者 入手先明かす
誘拐身代金が活動資金
安田さん拘束か 過激派「ヌスラ戦線」

《読売》も動画投稿者への取材をしている。投稿者によればヌスラ戦線は日本政府との交渉を望んでおり、「交渉の余地がないと見切れば、安田さんをイスラム国との人質交換に使う可能性もある」と語ったという。

安田さんと親しいジャーナリストの常岡浩介さんによれば「ヌスラ戦線は拘束しても殺害した、という話は聞かない」とした上で「映像では(犯人側の)要求はないが、揺さぶりをかければ身代金など日本側から何らかの利益を引き出せると考えているのではないか」と指摘したという。

uttiiの眼

《読売》は常岡さんの口を借りて、ヌスラ戦線は金さえ払えば人質を殺さない集団だという印象の記事にしている。関連
記事の方では、ヌスラ戦線が昨年、記者や兵士ら400人近くを誘拐、PKOのフィジー部隊45人を解放したときには28億円の身代金が支払われたとの報道もあったという。なお、同戦線は、シリア和平協議から除外されていることも記している。

【毎日】ヌスラ戦線ならば交渉可能なのだが…

【毎日】は2面の記事のみ。見出しを並べる。

カタール 交渉の要に
「安田さん」映像 支配勢力とパイプ

《毎日》は、安田さんが拘束されたとみられるシリア北西部イドリブ県の実効支配勢力と太いパイプを持つカタールについて、「日本政府が拘束グループとの解放交渉に臨む際の有望な連携相手だと言えそうだ」と書いている。イドリブ県は、ヌスラ戦線と反体制派武装組織からなる「ファトフ軍」が実効支配。カタールはこの反体制派の主要な支援国であり、「ファトフ軍」に一定の影響力があるという。

uttiiの眼

《毎日》は誘拐を行った集団を「イドリブ県の実効支配勢力」とか「拘束グループ」と表現して、微妙にヌスラ戦線という言い方を避けている。理由は、「公開された映像にヌスラ戦線の関与を示す証拠がないとしているからだ。この誘拐事件が、「ISよりも柔軟で合理的な組織で、解放交渉は可能」とされるヌスラ戦線によるものであれば別だが、仮に、地元の犯罪組織や小規模な武装勢力が関与していた場合には、外国政府による仲介は難しいとする。

【東京】ヌスラ戦線の苦境と安田さんの状況

【東京】は2面の解説記事「核心」と28面。見出しは次の通り。

劣勢組織 資金調達狙う?
シリアで不明「安田さん」映像
ヌスラ戦線 停戦対象外 追い詰められ
無事祈り 解放探る
仲間が武装組織へ働き掛け

2面の解説記事では、誘拐した側のヌスラ戦線の現在の状態について詳しく書いている。「軍事的には劣勢で、安田さんは資金調達のための身代金ビジネスに利用されたとみられる」としている。ロンドンのシリア人権監視団の所長によれば、「ヌスラ戦線は外国人ジャーナリストを標的にしていないが、偶然発見すれば金銭を目的に拉致する」という。

ヌスラ戦線はISとともにテロ組織として停戦の対象外になり、特にロシアに激しい空爆を加えられてきたことで、徐々に追い詰められているとの見方があると。

28面社会面の記事は、救出しようという動きについて書いている。

ジャーナリストの藤原亮司さんは今年1月、武装勢力の仲介人とトルコで接触。仲介人は安田さんについて「一時は体調を崩したが今は大丈夫。解放は身代金を支払うことが条件」と話したという。安田さんが書いたという住所を記したメモを見せられ、シリア国内のビルの地下にいると説明。「体調は今は大丈夫。ただ、精神的にまいっている」と話したという。ジャーナリストの常岡浩介さんは安田さんの解放を働き掛けるために日本を発ち、17日、アブダビに入った。さらに綿井健陽さんは、ヌスラ戦線は「シリア内戦のこの5年間で、外国人を拘束しているが殺害はしていない。だが楽観はできない」と語っている。

uttiiの眼

《東京》は、まずヌスラ戦線は対立する武装組織の兵士は拉致して殺害するが、戦闘相手ではない外国人拘束者を処刑する映像や画像を公開した例はないとして、ISとの微妙な差を記す。

28面の記事で紹介された藤原亮司さんの話は、今、安田さんについて知り得るもっとも具体的で詳細な情報と思われる。相手側が伝えてきたものだから、そのまま信じるわけにもいかないが、なんとか身代金交渉を始めたいという相手の意図が見えてくる。

image by: Facebook(tarik abdul hak)

 

uttiiの電子版ウォッチ』2016/3/18号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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