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政権圧力はあったのか? 古舘伊知郎ら降板キャスター「最後の発言」

平日毎日、主要新聞各紙の記事を比較・分析するメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』を配信するジャーナリストの内田誠さん。そんな内田さんが、安倍政権により繰り返されるメディアへの攻撃に危機感を抱き、今回新たに無料メルマガ『uttiiのTVウォッチ』を創刊されました。創刊号は、政権に批判的とされる各局のニュースキャスターたちが降板したという異例の事態を受け、彼らの「最後の挨拶」の書き起こしを全文掲載、そして分析しています。

【今週の<TVウォッチ>】

創刊号は特別の内容でお届けします。

このメルマガ創刊のきっかけとなった出来事の1つに、各局の辛口コメンテーターが一斉に降板するということがありました。NHKクローズアップ現代の国谷裕子、報道ステーションの古舘伊知郎、そしてTBS「NEWS23」の岸井成格膳場貴子の各氏です。それぞれ、最終出演の機会に、番組を去るに当たってのコメントを残しています。一部は新聞でも報じられましたが、全体をキチンと文字に起こしたものを見ていませんし、それに対するキチンとしたコメントも見当たりません。記録という意味でも、あるいは読み解きという意味でも、当メルマガの創刊号にふさわしい素材だと思いました。とりあえず、創刊号では、国谷さんのケースのみを分析対象としますが、古館さんと岸井さん・膳場さんについては、文字起こしのみ、【資料】として末尾に付けておきます。よろしければ、そこから何が読み取れるか、目を通しておいて頂けると幸いです。次号で、分析対象とします。では、始めましょう!

【キャスター降板の美学】~国谷裕子のケース~

● 降板のコメント

23年間担当してきましたこの番組も、今夜が最後になりました。この間、視聴者の皆様方からお叱りや戒めも含め、大変多くの励ましをいただきました。クローズアップ現代が始まった平成5年からの月日を振り返ってみますと、国内、海外の変化の底に流れるものや静かに吹き始めている風を捉えようと、日々もがき、複雑化し見えにくくなっている現代に少しでも迫ることができれば、との思いで番組に携わってきました。23年が終わった今、そのことをどこまで視聴者の皆様に伝えることができたのか、気懸かりですけれども、そうした中でも長い間、番組を続けることができましたのは、番組にご協力いただきました多くのゲストの方々、そして何より、番組を観て下さった視聴者の皆様方のお陰だと感謝しています。長い間、本当にありがとうございました。

(2016年3月17日「クローズアップ現代」およそ1分30秒)

uttiiの眼

集団的自衛権の問題で菅官房長官にしつこく食い下がった国谷さん。正直に言うと、あまり上手な攻め方ではなかったように見えたが、それでも、あのときの放送が原因で官邸が圧力を掛けたのだとしたら許しがたいことだと思う。少なくとも、NHKの現場が「国谷続投」を強く求めたのに対して上層部が断固として降板を譲らなかったという話は、信憑性が高い。

国谷氏最後のコメントは、当たり障りのないもののように見える。しかし、これは綺麗事を述べたものではなく、私には国谷さんの本心と思えた。23年の経験のボリュームに比べれば、菅氏との衝突など、些細なことだからだ。たとえ、それが自分のポジションを失う最大の原因だったとしても。

この日の番組は「未来への風~痛みを超える若者たち~」と題したもので、時代の閉塞感の中で主体的に動き始めた若者たちを取り上げた。安保法制反対運動や18歳選挙権、ブラックバイト、沖縄の普天間基地移転問題、短歌創作、NPO支援などの分野で生き生きと活動し始めている人たちを紹介。最初に取り上げられたのはSEALDsの奥田愛基さんだった。

ゲストのノンフィクション作家、柳田邦男氏とのトークの締めは、「(こうした芽を大きく育てるために)若者たち自らが考え、行動して欲しい」というもの。そのあと、画面は23年間のテーマを桜の花の1つ1つに見立てたコラージュとなり、ゆっくりとパーンする映像をバックに「国谷裕子キャスターの出演は今夜が最後になります」のテロップが入り、そして国谷さんのワンショットとなって上記のコメント。

コメントの終わりで頭を下げた国谷さん。そのあと、もう一度、国谷さんのワンショットに戻るのだが、今度は静止画。そして、バックにクラシック音楽が被る。「をイメージさせる編集技法。因みに、曲はモーリス・ラベル作曲の「亡き王女のためのパヴァーヌ」で、フルートのバージョン。およそ30秒流れた。

テーマの選び方、最後のコメント、世の中を良い方に変えていく若者の力が発揮されつつあるのだという明るい方向感、さらに、23年間を謙虚に肯定するコメント、そして最後の曲。「王女」は国谷さん自身に違いなく、降板を悲しむスタッフの選曲であることも疑いようがない。降板「事情」についての説明は一切ないが、意味は十分に伝わった

資料1:古舘伊知郎のケース

それにいたしましても、私は大変気に入っているセットとも今日でお別れということになってしまうわけです。考えてみますと私、2004年の4月5日にこの「報道ステーション」という番組は産声を上げました。それから12年の歳月があっという間に流れました。なんとか、私のテレビ局古巣である、学び舎である、このテレビ朝日に貢献できればという思いも強くあって、この大任を引き受けさせていただきました。お蔭をもちまして、皆さん、風邪などひとつ引くこともなく無遅刻無欠勤で12年やらせていただくことができました。これも、ひとえにテレビの前で今、ご覧になっている皆様方の支えあったればこそだなと、本当に痛感をしております。ありがとうございました。

私は毎日毎日、この12年間、毎日毎日、テレビ局に送られてくる皆様方からの感想、電話、メールなどをまとめたものを、ず~っと読ませていただきました。それはお褒めの言葉に喜び、そして決定的な罵倒に傷付いたこともありました。でも、全部ひっくるめて、ありがたいなと今、思っております。というのも、ふとあるとき気づくんですね。いろんなことを言ってくるけれども、考えてみたら私もこの電波という公器を使って、良かれかし、とはいえ、色んなことをしゃべらせていただいている。絶対、どこかで誰かが傷付いてるんですよね。それは、因果はめぐって自分がまた傷つけられて当然だと、だんだん素直に思えるようになりました。こういうふうに言えるようになったのも、やはり、皆さん方に育てていただいたんだなと強く思います。そして、私がこんなに元気なのになんで辞めると決意をしたのかということも簡単にお話しするとすれば、そもそも私が12年前にどんな報道番組をやりたかったのかということにつながるんです。それは実は言葉にすると簡単なんです。もっともっと普段着で、もっともっとネクタイなどせず、言葉遣いも普段着で、普通の、司法言葉とかじゃなくて普通の言葉で、ざっくばらんなニュース番組を作りたいと真剣に思ってきたんです。ところが現実はそんなに、皆さん、甘くありませんでした。例えば、「いわゆるこれが事実上の解散宣言とみられています」。「いわゆる」が付く、「事実上」をつけなくてはいけない。「みられている」というふうに言わなくてはいけない。これはね、どうしたって必要なことなんです。やっぱりテレビ局としても放送する側としても誰かを傷付けちゃいけないということも含めて、二重、三重の、言葉の損害保険をかけなくてはいけないわけです。そして裁判でも…。自白の任意性が焦点となっています。任意性。普段、あまりそういう言葉使わないですね。本当にそういうふうに語ったのか。あるいは強制されたのかで良いわけで、本当は。例えば、これから今夜の夕食だというときに、今日の夕食は、これは接待ですか? 任意ですか? とは言わないわけです。だけど、そういうことをガチっと固めてニュースはやらなくてはいけない。そういう中で、正直申しますと、窮屈になってきました。もうちょっと私は、自分なりの言葉、しゃべりで皆さんを楽しませたいというわがままな欲求が募ってまいりました。12年、苦労してやらせていただいたというささやかな自負もありましたので、テレビ朝日にお願いをして、退かせてくださいと言いました。これが真相であります。ですから、世間、巷の一部で、なんらかの直接のプレッシャー圧力が私に掛かって私は辞めさせられるとか辞めるとかそういうことでは一切ございません。ですから、そういう意味では私のこういうしゃべりや番組を支持してくださっている方にとっては、私が急に辞めるというのは裏切りにもつながります。本当にお許しください。申し訳ありません。私のわがままです。

ただ、このごろは、報道番組で開けっぴろげで、昔よりもいろんな発言ができなくなりつつあるような空気は、私も感じています。とてもいい言葉を聞きました。この番組のコメンテーターの政治学者の中島先生が、こういうことを教えてくれました。空気を読むという人間には特性がある。昔の偉い人も言っていた。読むから、一方向にどうしても空気を読んで流れていってしまう。だからこそ、反面で、水を差すという言動や行為が必要だ。私はそのとおりだと感銘いたしました。つるんつるんの無難な言葉で固めた番組など、ちっとも面白くありません。人間がやってるんです。人間は少なからず偏っています。だから情熱を持って番組を作れば、多少は、番組は偏るんです。しかし、全体的に程よいバランスに仕上げ直せば、そこに腐心をしていけばいいのではないかという、私は、信念を持っております。そういう意味では12年間やらせていくなかで、私の中でも育ってきた「報道ステーション」魂というものを、後任の方々にぜひ受け継いでいただいて、言うべきことは言う。多少厳しい発言でも言っておけば、間違いは謝る。その代わり、その激しい発言というものが、実は後年たって、あれがきっかけになって議論になって良い方向に向いたじゃないか。そういう事柄もあるはずだと信じています。

考えてみればテレビの地上波、地上波なんていちいちいわなくてもテレビの一人勝ちの時代がありました。そのすばらしい時流によき時代にのってですね、キラ星のごとく、あの久米さんが素晴らしい「ニュースステーション」というニュースショーを、まさに時流の一番槍を掲げて突っ走りました。私はそのあとを受け継ぎました。テレビの地上波もだんだん厳しくなってまいりました。競争相手が多くなりました。でも、そういう中でも、しんがりを務めさせていただいたかなというささやかな自負は持っております。さあ、このあとは通信と放送の融合、二人羽織。どうなっていくんでしょうか。

厳しい中で富川悠太アナウンサーが4月11日から引き継ぎます。大変だと思います。しかし、彼には「乱世の雄」になって頂きたいと思います。彼はこれまで12年間、例えば凄惨な殺人の現場に行き、おろおろしながらも冷静にリポートを入れてくれた。その足で今度は自然災害の現場に行き、住んでいる方々に寄り添いながら一生懸命、優しいリポートを入れてくれました。私がこの12年の中で彼をすごいなと思うのは、1回たりとも仕事上の愚痴を聞いたことがありません。驚きます。酒を飲んでいてもです。そういう人です。精神年齢は私よりもずっと高いと思っています。どうか、ですから皆さん、3か月や半年辺りで良いだ悪いだ判断するのではなく、長い目で彼を中心とした新しい「報道ステーション」を見守っていただきたいと思います。わがまま言って辞める私に、強い力はないかもしれませんが、ぜひお願いをしたいと思います。そして、富川君とは仲がいいと思っていますので、本当に辛くなったら私に電話してきてください。相談に乗ります。ニュースキャスターというのは本当に孤独ですからね。私は今、こんな思いでいます。人の情けにつかまりながら折れた情けの枝で死ぬ。「浪花節だよ人生は」の一節です。死んで、また再生します。みなさま、本当に、ありがとうございました!

(2016年3月31日 7分半)

資料2:岸井成格・膳場貴子のケース

膳場:さて、岸井さんと私、膳場、古谷さん、そして國本さん、この5人でお送りする「NEWS23」、今夜が最後になります。私がこの番組に加わったのは、2006年の秋、当時は筑紫哲也さんがアンカーでした。それからあっという間の9年半。リーマン・ショックに見舞われ、人口減少の時代を迎え、そして東日本大震災、原発事故を経験しと、変化の時代を生きているという実感を持ちながらの毎日でした。そんな中、様々な立場からの視点や健全な批判精神を大切に考えて、皆様に未来を考える材料を提供できたらと考えてまいりましたが、いかがでしたでしょうか。少しでも「NEWS23」がお役に立てていたならそんな嬉しいことはありません。

岸井:私はこの3年間、アンカーを務めてきましたが今、世界も日本も歴史的な激動期に入ったんですね。そういう中で、新しい秩序とか、あるいは枠組みづくりの模索が続いてるんですね。それだけに報道は変化に敏感であると同時に、やっぱり極端な見方に偏らないで、そして世の中や人間としての良識・常識を信じて、それを基本にすると。そして何よりも真実を伝えて権力を監視するそういうジャーナリズムの姿勢を貫くということが益々重要になってきているなと感じています。

膳場:そして、「NEWS23」は来週月曜日からこの方がメインキャスターになります。星浩さんです。星さん、一言。

:皆さん、どうもお疲れさまでした。皆さんの思いをしっかり引き継いで一生懸命やっていきますので、これからも見守っていただければ助かります。よろしくお願いします。

岸井:期待しています、頑張ってください。

:どうもありがとうございます。

膳場:来週からも「NEWS23」に引き続きご期待ください。では、今夜はこんなところで。

(2016年3月25日 1分50秒ほど)

image by: Shutterstock

 

uttiiのTVウォッチ』創刊号より一部抜粋
著者/内田誠(ジャーナリスト)
各局のニュースを比較し、また、優れた特集番組などを紹介する<uttiiのTVウォッチ>。伝え手はニュースステーションやサンデープロジェクト(いずれもテレビ朝日系)で数々の特集取材に関わり、「JAM THE WORLD」(J-WAVE)ナビゲーターを務め、現在は市民が作るネット上のテレビ局、『デモクラTV』の自称「編成局長」、内田誠です。
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