中国脅威論はどこまで本当か? 哀れマスメディアの機能不全

 

サブリミナル効果

こんな風にして、一々の記事についてバイアスがかけられていくのが日本のメディア状況で、こういう小さな作為が執拗に積み重ねられることで、安倍政権が国民に植え付けたがっている「中国は怖いという感覚が知らず知らずに定着させられていくサブリミナル効果を持つのである。

丸川哲史=明治大学教授は、『世界』4月別冊で、安倍政権の安保法制をめぐる国会運営に問題があり認められないとする約80%の世論がある一方で、安保法制の中身そのものが認められないとする者は約60%で推移し、「この差し引き20%は何か」と言えば、政権から安保法制の正当化の理由として付与されている「中国脅威論」である、と指摘している。

その通りで、安倍の改憲路線や安保法制はおかしいと思いながらも、でもやっぱり中国は怖いよねという差し引き20%」のところで、この政権は際どく支えられている。

これは例えば、原発はもう止めようという人が70%以上にも達するのに、「でも電気が来ないのは怖いよね」「原発がなければ電気代が上がるんじゃないか」という刷り込みがその足を引っ張っていること、あるいは沖縄の辺野古基地建設が無理筋だと分かっている人が多数なのに、「でも海兵隊がいてくれないと尖閣を盗られちゃうかも」という幻想が目をくらませていることなどと同工異曲である。

このような、薄っぺらなイデオロギー的呪縛から、事実の力を以て人々を解き放つのがジャーナリズムの仕事であるというのに、そうはなっていないということの一例が、このNHKニュースである。

実を言うと、私が2年前まで早稲田のジャーナリズム大学院で担当していた「新聞の読み方」講座では、こうやって、ある出来事についていくつかのメディアの取り上げ方を比較検討し、その場合に必ず外国メディアも1つは参照するようにして、見出しの立て方、記事の構成、ハイライトを当てるべき言葉や表現などを自分の頭で考えてみるという練習を課していた。メディアが劣化していく中で、もはや読者が自分でそういう訓練をして真偽を見極める力を養わなければならない。冒頭の、情報操作を疑う質問者に対する私の答えはそれである。

image by: Shutterstock

 

高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋
著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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