中国脅威論はどこまで本当か? 哀れマスメディアの機能不全

 

「中国は怖い」というイデオロギー

敢えて、まったく地味な実例を取り上げよう。

5月7日にNHKのニュースで「米海軍の司令官、南シナ海巡り中国を牽制」という見出しで、米海軍第7艦隊のアーコイン司令官が南シナ海における米軍の活動の目的について、「国際法が認める範囲で航行や飛行を行い、(中国の)過度な海洋での主張には異議を申し立てる」と述べ、この海域で海洋進出を進める中国を牽制した、と報じていた。

その見出しとリード部分を聞いた限りでは、米中の南シナ海を巡る軍事的な対立は一段と深まっているのだな、という印象を受ける。が、この司令官がどういう状況と文脈でこの発言をしたのか、ちょっと気になったので、後でNHKのサイトで記事全文を確認した。

米海軍の司令官 南シナ海巡り中国をけん制

すると、まずこの米司令官がどこでこれを語っているかと言うと、上海であって、第7艦隊の旗艦ブルーリッジが6日、中国との軍事交流のため上海の軍港に寄港して、そこでメディアの取材を受けたのである。もし米中の軍事衝突が今にも起きかねないほど剣呑な状態にあるなら、第7艦隊の旗艦がお供の護衛も付けずに上海になんぞにノコノコ行くわけがない。この状況そのものが米中の軍事交流の深まりを象徴するのではあるまいか。

さらに同司令官は……、

先月、アメリカ軍の空母が中国政府から香港への寄港を拒否されたことについて「ささいな障害」と表現し、「関係の妨げにはしない」と述べた。

その上で、米軍が主催して(2年に一度)行われる、今年の多国間海軍演習「リムパック」に中国海軍が一昨年に続いて参加を予定していることなどに触れ、南シナ海を巡って対立が続くなかでも米中の軍事交流を深めることの重要性を強調した。

だとすると、昨年11月の米海軍による南シナ海に対する「航行の自由」作戦の実施以来、米中の軍事緊張が強まっているかに見えるけれども、その中で米艦船が上海を訪問していること、先月の米空母の香港寄港拒否を米側は「ささいなこと」と考えていること、今年のリムパック海軍大演習に中国も参加することなど、米中海軍の交流と相互理解はむしろ深まっているのであって、だとするとこの記事の見出しは「米海軍の司令官、中国との軍事交流の深まりを強調」とでもするのが正しかったのではないか。

しかし、これを書いた記者は、米司令官が中国に異議を唱えたことがニュースであると判断したのか、そうしろと言われたのか、その部分をメインに据えて見出しもそこから取り、少しバランスを考慮して、米中軍事交流が進んでいる側面も付け加えた。

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