子どもの「いじめ」は長らく社会問題として議論されながらも、未だに有効な解決策が見出だせない現状が続いています。新創刊メルマガ『伝説の探偵』では、T.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚さんが、子どものいじめ問題を調査し続けた12年の経験の中で発見した、驚きの実態を伝えています。お子さんをお持ちの方、これを読んでも本当に「うちの子は大丈夫」と言えますか?
伝説の探偵
初回号としては、私がもっとも経験を得ている「子どものいじめ」問題を取り上げたいと思う。
まず、これを読む読者の皆さんに質問をしたい。
「いじめた経験のある子、いじめられた経験のある子は、合わせて何パーセントいたでしょうか?」
保護者の立場で考えた時、どのくらいの数字が出たかといえば…
私が代表理事を務めるNPO法人ユース・ガーディアンでは、2015年に全国調査を行っている。
そのものズバリの設問はないため、「子どもからいじめの相談を受けたことがあるか?」などのその他設問から推測した結果。
「およそ20%」
と、保護者は考えているようであるが、この保護者らの回答は、不正解である。
では、答えは何パーセントだったのであろうか。
これを読む皆さんは、どのように考えるだろうか。
再度、考えてみてほしい。
…答えは、
国立教育政策研究所が発表したデータによれば、無視や仲間はずれなどのいじめについて、その加害行為したことがある子と被害を受けた子を合わせた割合は、
「87.3%」となっている。
これは、小学校4年生から中学3年生までの6年間を継続して追跡調査をした結果であり、実に頻繁に、また子ども同士の関係性に関わりなく「いじめ」が起きている現実を表している。
この調査では、被害者と加害者の入れ替わりも頻繁に起きていると分析されている。
つまり、高確率で「いじめ」は子ども社会で発生しているということになる。
国立教育政策研究所は、文部科学省にある教育政策を研究する機関であるから、これは国のデータと言っても過言ではないはずだ。
一方、東京都教育委員会が平成25年4月1日から9月30日までを調査期間としてその総数を発表した小中公立校でのいじめの発生件数(認知数)は、7893件ある。
いじめであるか疑わしい件や確認中と記されたものは、1230件あることから、東京都のみで考えても、わずか6ヶ月間で8千件前後のいじめが起きているのだ。
この数字を出すと、「だって、東京だからでしょ。」という声が聞こえてきそうな気がしてならない。東京は治安が悪い、繁華街が多い、人口が集中している。だからその数字が多いのだという意見もあろう。
そうした側面は確かにあるかもしれない。
ひねくれて言えば、人口が1万人に満たない地域で8千件のいじめは発生し得ないからだ。人口が1万人であれば、人口ピラミッドから考察すれば、子どもの数はその1割程度しかないだろう。
しかし、東京だから多いというのは、大きな間違いである。
2015年8月、文部科学省は、いじめのアンケート調査のやり直しを通知した。つまり、まともに回答をしていない地域があったということなのだ。
この件は、岩手県矢巾町の男子生徒が自殺した件を受け、この地域がいじめがなかったとしていたからに他ならない。隠蔽があったという判断から再調査となったと世間では騒がれていた。
それを考慮に入れれば、都道府県教育委員会が出す数字は氷山の一角であって、その水面下には重大な事案が隠されていることもあると考えるのが妥当であろう。
私は講演会を含め、自分も保護者の一人であるという点もあり、様々な保護者との交流があるが、多くの保護者はあまりいじめに対して危機感を持っていないことがわかる。
それは、よくある
「うちの子は大丈夫。」「うちの学校は大丈夫。」シンドロームである。
読者の中にも、また、読者の周りにも、この根拠なき大丈夫シンドロームに陥っている人は少なからずいることであろうと思うが、この発生率、認知件数から、冷静な判断ができる大人であれば、データが示す通り、いじめは頻繁に発生している現実があり、表面化する数も多いと感じるはずだ。
その上で、何を根拠に「大丈夫だと」判断できるのであろうか。
通常、何らかの問題が多重に発生している事実があっても、大丈夫だと判断するに至るには、何らかの有効な対策が実施されていることを認知しているからだと考えられるであろう。
まあ、有効な対策が実施されれば、問題は相当数で解消されるはずだから、こう考えるにも矛盾はあるが。
では、特に保護者は、自身の子が通う学校で、いじめに関して有効な施策が具体的にどう実施されているのか考えてみてほしい。
子がいない大人は、学校全体でいじめについて、どのような有効な対策が具体的に実施されているか知っている限りで考えてほしい。ネットで検索しても構わない。
具体的かつ実施されていて効果が実証された有効な対策はあるか?
仮にあるとするならば、どこでいつから実施されているか?よく調べてほしい。
一部、強力な有効策はあるが、その実施をしている学校は、私が知る限り1校のみ。
その他、確かに実績と言える効果を上げている対策や予防法もあるが、その実施数は、極めて少ない。
つまり、多くの学校で、何らかのいじめに対する対策は行われているが、それは、防止委員会の組織図を作った、基本方針を宣言した、アナウンスは広報紙などでしているというレベルであり、実行したと評価できる活動はごく僅かであるのだ。
またその一方で、保護者の立場で、学校がやっているいじめに対する具体的な対策を、しっかりと答えられる人は、全体の数%にしか満たないであろう。
つまり、なんとなくやっていると思っているという思い込みが多く、明確な根拠はないが、自分だけは大丈夫シンドロームに陥っている保護者や大人が多いのだ。
保護者でなくても、様々な立場から「いじめは卑怯者がすることだ。」という声は聞くことができるであろう。
また、日々流れる報道で酷いいじめや、学校などによる隠蔽や不対応などのニュースを見て、心を傷めることであろう。
ここまでで、いじめが大して起きていないという考えが、あまりに現実を知らない考えであることがわかって頂けたと思う。
そして、いじめ問題に関わる現場と世間一般の乖離ともいえる状態が、現場で問題に携わる者から出てくる「もっと子どもたちと向き合ってほしい。」という声になっているのだ。
一つ告白すれば、私もこの仕事に携わるまで、こうした数字は知らなかった。
私が初めて探偵としていじめの証拠収集を行ったのは、平成16年のことである。
当時(今でもそうだが)、探偵業界はいじめ問題に関して専門的な調査活動を行っていなかった。
なぜ今でもそうだがというのか言えば、私が運営するT.I.U.総合探偵社がこの業界の中では、極めて異質であり、稀有な存在であるからだ。(これについては、後日、別項目で詳しく触れたいと思う)
そうした業界の中で、当時、私も子どものいじめに探偵までもが出張って、本格的な調査をするなど、相当変だと思っていたし、そもそも学校内に入れないのにどうやって調査するんだ?という疑問を持っていた。
だからこそ、私は初めの依頼相談を、断っている。
三顧の礼よろしく、私は依頼主の熱意に負けて、チャレンジという意味で調査を引き受けた。
それから平成28年ともなれば、すでに12年もこの問題に関わっている。
当初は目の前にいる子をとにかく救うことのみ考えて実行してきたが、その対処療法のみでは、ドミノ倒しのように、次から次へと頻発するいじめは止められないと思い始めた。
そうして、いじめ証拠収集の全無償化の流れやNPOの設立などと繋がるのだが、教育界で調査されているいじめアンケートなどの解答分析などを始めたのは、数年前のことになる。
私も一保護者で家庭人という立場もある。だが、調べてみなければ知らなかったことはたくさんあった。
だから、いじめの発生率や認知数などを見て、保護者として知らなかったことを恥じることはないと私は思う。
また一方で、いじめの実態については、研究者を含めて多くの人があまりに軽く見ている実態もある。
私はいじめの証拠収集を専門としている。詐欺師やストーカー、組織内での犯罪行為をも対象とした探偵業界でも難解事案を得意とした探偵社を運営する私が、調査をするとなれば、専門分野は実態解明につながる証拠収集となるのは至極当然なのだが、その分、私はその実態を自らの目で耳で見ているわけである。
しかし、研究者はどうか?現場のレポートは、教員に任せ、教員は自らの責任を感じつつ、一定のフィルターもかけよう。
いわゆるバイアスがかかったレポートから何を読み取ろうというのだ。
もちろん、フィールドワークから情報を得て研究を進める研究者もいるが、多くは、立場自体に利害関係を持っていたり、フィールドワークをしていない者だ。
初回号では、研究者が軽微ないじめだとするものが、実態としてどうなのかということをレポートしたいと思う。
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『伝説の探偵』より一部抜粋
著者/阿部泰尚
2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
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