MAG2 NEWS MENU

ギリシアが借金を踏み倒したら、どんな阿鼻叫喚が待っているのか?

首相がテレビ番組に出演し「国際通貨基金への債務返済は不可能」と明言するなど、混迷が続くギリシア財政破綻危機問題。このままギリシアはユーロ離脱となるのでしょうか。実力派コンサルタントの吉田繁治さんが無料メルマガ『ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則』の中で、各国の思惑や力関係などを交えてわかりやすく解説しています。

ギリシアのユーロ離脱とは、どうなることか

ギリシアの銀行は、チプラス首相の指示で、7月5日の国民投票の結果が出るまで、預金の流出を防ぐため、営業を停止します。

ATMには、数十人の列ができています。1日に60ユーロ(8,100円)の生活費やしか引き出せません。しかも10台のうち4台くらいのATMには、現金が入っていない。

日本で起これば、国中が阿鼻叫喚のパニックでしょうね。

6か月で1,000億ユーロ(13.5兆円)が、流出しています。預金が数十%も減れば、銀行の現金は完全に枯渇します。自分の預金か8,100円の生活費分しか引き出せないという事態です。

ユーロのELA制度(緊急流動性支援)

ユーロの中央銀行ECB(本部はドイツのフランクフルト)は、加盟18か国の銀行に対し、大きな損失や預金引き出しで流動性(現金)が不足したとき、緊急に貸し付ける制度(ELA)を敷いています。

ECBは、ギリシアの銀行に、不足する$150億ユーロ(2兆円)を貸しつけて来ました。今後この貸付をどうするのか? ここが、ユーロ離脱かどうかにつながることです。

ギリシアが6月30日のIMFへの借り入れの返済を行わず、デフォルトしても、ユーロは、このELA制度は、今のところは続ける予定という。(注)支払いは行われず、デフォルトしました(さっきのニュース)。

ユーロが、ELA(緊急流動性支援)を停止した場合どうなるか?

もともと現金が不足しているギリシアの銀行は、預金引き出しに応じることができない。預金が引き出せないと、世帯は生活ができず、企業は商品販売、仕入れ、給料の支払いができません。

経済活動が停止してしまいます。クレジットカードも使えなくなります。銀行預金は、世帯と企業の決済口座になっているからです。

そうなると困るので、ユーロは、ELA制度(緊急流動性支援)で、ギリシアの銀行に、不足するユーロを貸し付けてきました。

このELAが停止したとき、最後の手段は、「政府紙幣の新ドラクマ」の発行です。「1ユーロ=1新ドラクマ」とする。この時が、ギリシアのユーロ離脱です。

「返済不能=デフォルト=ユーロ離脱」ではない。デフォルトは、すでに、事実上決定しています。

企業の場合は、手形と借入れの決済ができないと破産し、その瞬間に、銀行取引停止になって、銀行口座を通じる商取引ができなくなります。これが、事業ができなくなる倒産です。

しかし、国家は、デフォルトの後も、年金、公務員給料支払いという行政は、遅配や削減があっても持続します。

国家の、公共事業が停止するのは、その国の中央銀行から、政府預金を引き出せなくなったときです。税金は、中央銀行の中の、政府預金になっています。

このため重要なのは、ELAを、ドイツ(メルケル首相)がどうするかです。現在のところ、ドイツは、ギリシアがデフォルトしてもELA(緊急流動性支援)は継続すると言っています。つまり、ギリシアの、中央銀行に対しては、貸付を続けるということです。

>>次ページ ユーロ離脱でギリシャ国内はどうなるのか?

「ユーロ離脱=新ドラクマの発行」の想定

ELA(緊急流動性支援)が停止されたときが、ギリシアのユーロ離脱であり、そのときは、マネーがないというわけにはゆかない。最後の手段として、政府紙幣(呼称は新ドラクマ)が発行されます。

「1ユーロ=1ドラクマ」として発行された政府紙幣は、短期間で「1ユーロ=3ドラクマ」には暴落するでしょう。これによって起こるのは以下です。

  1. 政府債務
    ギリシアの国債残高は、2015年現在3160億ユーロ(43兆円)です。1ユーロ=1ドラクマで交換されると、3,160億ドラクマです。
    ドラクマが1/3になると、3,160億ドラクマは、実質では14兆円に下がります。ギリシアの政府債務は、事実上、1/3になったことになります。
  2. 対外債務
    ギリシアの対外債務は、GDP($1,829:2015年)の2.5倍あり、$4,572億(55兆円)です。ECB、IMF、海外、EFSC(欧州安定化機構)からから借りています。日本の銀行も、金額は少ないですが、貸し付けがあるようです。
    この債務は多くがユーロ建てや米ドル建てです。ユーロ建てやドル建ての債務を、ドラクマ建てにすることに、債権者団が応じるかどうか? 応じれば、その後の、確実なドラクマの1/3の低下により、債務の実質額は1/3(18兆円相当)に減額されることになります。
    債権者団が、これに応じるかどうか、不明です。応じなければ、対外債務は減りません。
  3. 預金額
    2008年からの引き出しで大きく減った世帯や企業の預金は、2015年時点の大手銀行分で1,500億ユーロ(20兆円)残っています。
    ユーロからドラクマに切り替わると、その後のドラクマの下落により、7兆円くらいの価値に減ります。世帯も企業も2/3の預金(金融資産)を、失うことになります。
  4. 給料
    給料も、新通貨で支払われますから、ドラクマの下落により実質的に、1/3になります。
    月収20万円のマネジャークラスは7万円で、東南アジアの賃金並みになります。10万円の現場労働は3万円なってベトナム並みです。ドイツが工場投資を増やすでしょう。
  5. 物価
    ユーロからドラクマに変わり、ドラクマが1/3に下落すると、物価や不動産価格はどうなるか?
    下がる通貨ドラクマから見れば、1年くらいかけて2倍には上がるでしょう。通貨価値の下落による100%のインフレです。
  6. 海外から見た観光料金
    ユーロや日本から見た、ギリシアの観光料金は、2/3にくらいに下がると思います。現在は1泊3万円の高級ホテルが2万円です。レストランの料金も2/3でしょう。

ユーロを離脱し新ドラクマに変えた場合、以上のことが想定できます。デフォルトの事例は多数ありますが、ユーロのような統一通貨から離脱は、歴史上、はじめての出来事です。何が起こるか、論理的に予想すると、こんな感じになります。

>>次ページ ギリシャ債務問題の最終的な着地点とは?

問題は、ギリシアが決して返せない対外債務55兆円の処理

問題は、対外債務です。ユーロやドル建てのままなら、新ドラクマで、対外的には縮小するギリシアの経済に対し、対外債務が3倍に大きくなることです。現在でも払えないのに、3倍になった対外負債をギリシアが払えるわけもない

破産した企業への、銀行の貸付金と同じです。貸付金は100億円でも、その実質価値は、不動産担保など回収できる30億円などの価値しかない。

ドイツとIMFが中心になる債権者団は、対ギリシア貸付(55兆円)を70%ヘアカットして、17兆円に減らす必要に迫られるでしょう。38兆円の損失が、ドイツ、ドイツの銀行、ECB、IMFなどに生じます。ここが、ギリシアの債務問題の、最終的な、着地点でしょう。

ただしドイツは、こうならないように、ELA(緊急流動性支援)を通じて、ギリシアの銀行への、不足するユーロの融資を、続ける予定と言っています。

ギリシアのチプラス首相は、損をしたくないドイツの思惑を見透かすように、「ギリシアが破産し、ユーロを抜けたとき困るのは、債権者だろう」という発言をしています。

古い諺(ことわざ)に、「窮鼠(きゅうそ)猫をかむ」とありますが、追い詰められたギリシアが、大きなドイツに反逆しています。

ロシアのプーチン大統領は、「数千億円の負債なら困るのは債務者だ。しかし、10兆円となると困るのは債権者だ。心配いらない。がんばれ」と、左派のチプラス首相を励ましています。

7月5日の国民投票

「財政の緊縮策」の受け入れか拒否かを決めるための国民投票は、7月5日です。VAT(付加価値税)の引き上げ、年金のカット、公務員の削減が含まれます。緊縮策は、国民の生活レベルを下げます。

緊縮策を受け入れない場合、ギリシアへの資金援助はなくなり、支払期限が来る債務から順にデフォルトしてゆきます。デフォルトは、貸し手にとっては返済期限の延期と同じです。追い貸することとも、同じです。(注)ただし、ギリシアの規定では、国民投票の結果は、法的な拘束力をもちません。政権の支持率のようなものにすぎないのです。しかし、世界は、この結果を無視はできません。

ギリシア政府は、6月30日の対IMFのようなデフォルトを続けるつもりに見えます。相手の多くは、現在、ユーロの公的な金融機関になっているからです。

企業と国家では、デフォルトの結果が違う

返済ができないため企業が倒産すれば、仕入もできず給料も払えず社員も去って、残っていた資産は債権者に接収され、社員も去って、跡形なく消えます。しかしギリシアという国家は、戦争で占領されない限り、なくなりません

ギリシアの意思では、おそらくユーロからは離脱しない。一方、ユーロ側(債権国)には、ギリシアを、強制的に離脱させる手段はないのです。

非現実に仮定的なことですが、韓国が自国通貨として円を採用した場合、日本には拒絶する手段がない。日本が万一、米ドルを自国通貨とした場合、米国にもやめさせる手段はありません。

>>次ページ 国民投票の結果見通しは?

ユーロ離脱

事実上のユーロ離脱が決まるのは、ギリシア政府が、新ドラクマを発行し、国民がそれを受けいれ、国内の買い物で流通したときです。

しかし、ドイツは、ユーロ離脱(新ドラクマ発行)にまでは至らせないために、ギリシアの銀行への、ECBからのELA(緊急流動性支援)は続ける予定です。

VAT(付加価値税)の引き上げ、年金のカット、公務員の削減という財政緊縮策を、ギリシア国民が受け入れるかどうか。ギリシア国民の70%は、ユーロからは絶対に離脱すべきではないとしています。

ドラクマに戻れば、ユーロよりはるかに弱い通貨ドラクマで払われる実質の賃金は、1/2や1/3に下がって、預金も年金も、ドラクマになって上がる物価に対し実質的には減って、貧困になるからです。
(注)実質=名目金額-物価の上昇

このため、ユーロ離脱にもつながる財政緊縮策を受け入れる可能性もあります。現在、各国の機関が、投票結果を予想していますが、結論は50:50、つまり、「わからない」ということです。

国民が共通にもつのは、

  1. ユーロは離脱したくない、かと言って
  2. 緊縮策は受け入れたくない

という、正反対の矛盾した要求だからです。

緊縮策が通った場合、緊縮策に反対しているチプラス首相は辞任すると言っています。

国民投票の後も、混乱が続く

おそらく、

などをめぐって、YESとNOが入れ替わる混乱が続きます。

最終的な決定は、ギリシアがユーロに残ったまま、対外債務が70%カットされ、残った債務の返済もリスケジューリングされることと考えています。

そして、次の問題は、「FRBの利上げが9月か12月」に移って行くでしょう。

今、もっともおおきな懸念は、5,000から4,000に下がった中国の株です。今日(6月30日)は、3,800の底値から4,200へと10%急騰しています。原因は、政府からの緊急の買いでしょう。

[参照] 中国 上海総合指数 アジア株価 リアルタイムチャート

image by: Shutterstock

ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則
読むと目からウロコが落ちると評判の経営戦略。面白く読むうちに高度な原理がスッとわかります。
<<最新号はこちら>>

 

財政破綻が招く日本の危機 この十年で決まる日本の未来

 では、日本はどうなのか

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け