5月26、27日に開催されるG7伊勢志摩サミット。先日紹介した「安倍総理の根回し大失敗。それでも伊勢志摩サミットを開催する理由」の記事中では開催そのものの意味が疑問視されていましたが、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、「今回のサミットは安倍総理が日米関係を修復する上で大きなチャンスとなる」と述べています。
安倍総理がG7伊勢志摩サミットですべき、「たった1つのこと」とは?
G7伊勢志摩サミットが近づいてきました。そこで今日は、「安倍総理がG7伊勢志摩サミットですべき、『たった1つのこと』」についてお話します。
それは、「オバマさんを、ほめて、ほめて、ほめまくること」です。なぜでしょうか?
オバマの警告を無視して訪ロした安倍総理
5月6日に訪ロされ、プーチンと会談した安倍総理。今回はアプローチを変え、「北方領土問題」ではなく、「経済協力」を前面に出した。それで、日ロ関係は、劇的に改善されました。
しかし、このことは、大きな副作用を生んでいます。そう、オバマさんは、安倍総理に「訪ロするな!」といったのです。安倍さんは、それを無視した。結果、日ロ関係はよくなり、日米関係は逆に悪くなった。
毎回書くのでうんざりだと思いますが、中国の「反日統一共同戦線戦略」には、3つの重要ポイントがある。
- 中国、ロシア、韓国で「反日統一共同戦線」をつくる
- 中ロ韓で、日本の「領土要求」(=北方4島、竹島、「沖縄!」)を断念させる
- 「アメリカ」を「反日統一共同戦線」にひきずりこむ
(反日統一共同戦線の詳細はこちら。→ ●反日統一共同戦線を呼びかける中国)
この戦略で中国は、アメリカ、ロシア、韓国と組んで、「日本を叩き潰そう」としている。それで、日本は逆に、アメリカ、ロシア、韓国と仲良くしなければならない。日本は、アメリカ、ロシア、両方と仲良くしなければならない。
常識的に考えても、軍事同盟国アメリカの存在は重要です。落ち目とはいえ、経済力(GDP)、軍事力で、ダントツで世界一。中国も、アメリカとだけは戦いたくない。実際2010年、「尖閣中国漁船衝突事件」後に暴虐のかぎりをつくしていた時も、アメリカ政府高官が「尖閣は日米安保の適用範囲」といっただけでおとなしくなった。
「アメリカは、日本を守るのか? 守らないのか?」という答えのない議論は、延々と続いています。しかし、「事実として」日米安保は、役立っています(逆に、日米安保を破壊できれば、中国はたやすく尖閣、中国を奪うことができる)。
安倍総理は、ロシアと和解することで、アメリカとの関係を悪化させた。だから、今度は、アメリカとの関係を良好にしなければならない。
何をほめるのか?
とはいえ、「史上最低の大統領」と批判されるオバマさん。いったい何を褒めればいいのでしょうか? 確かにオバマ政権下でアメリカの影響力は、下がりまくっています。しかし、客観的にみると、褒められる部分もあります。たとえば、
- オバマさんの賢明な経済政策のおかげで、世界経済の破局は回避された(オバマが大統領になったとき、「世界は、『100年に1度の大不況』に突入していた)
- オバマ政権下で「シェール革命」が進み、アメリカはいまや世界一の「産油、産ガス国」である
- オバマさんは、「ウクライナ問題」「イラン核問題」を解決し、「シリア内戦」を終わらせ、キューバと和解した
- オバマさんの「アジアシフト」政策で、日本とアジアはより安全になった
などなど。小さなことから大きなことまで、何でもかんでも褒めて、オバマさんを幸せな気分にさせるべきなのです。
総理の訪ロは、「アメリカ覇権維持のため」と説明せよ
安倍総理は、きっとオバマさんと話す十分な時間があることでしょう。そのとき、オバマさんとしては、「ロシア訪問がどうだったのか?」総理の口から聞きたいに違いありません。
総理は、「私のロシア訪問は、アメリカの覇権維持のためである!」と堂々と主張すべきです。どういうことでしょうか?
『自滅する中国』(著:エドワード・ルトワック、訳:奥山真司)を読んで、「日本の役割を悟った」という話をします。
- アメリカの覇権をおびやかしている国は、世界でただ一国中国だけである。
- 中国は、尖閣、沖縄を狙っているので、日本はその脅威をより身近に感じている
- ルトワック本によると、米中関係が悪化したとき、アメリカは中東→中国の資源の流れを止めることができる(つまり、エネルギーがなくなって、中国は戦うことができなくなる)
- しかし、中国と陸続きの資源超大国ロシアから、石油・ガスがふんだんに供給されれば、中国は「無敵の超大国」になる
- そうなると、アメリカの覇権は終わる
- 「日本は、ロシアと接近することで、中ロを分断させろ!」と世界的戦略家ルトワックがいっている
そして、「自滅する中国」の英語版をオバマさんにプレゼントすればよいでしょう。実際、日本、アメリカ、ロシアが一体化することは、アメリカの覇権維持に役立ちます。しっかり理論武装して、自信をもってオバマさんに主張すればいいでしょう。
ルトワックは、日米ロ関係をどうみるか?
ちなみに、ルトワックさん。日本、アメリカ、ロシアの3国関係をどう見ているのでしょうか? 全国民必読の超名著『中国4.0 暴発する中華帝国』には、こうあります。
日本にとってロシアとの関係が重要だとしても、日米関係はそれ以上に重要である。現状で日本がロシアとの協力関係を進めようとすれば、アメリカからの批判は免れない。
(p146)
そして、ルトワックさんは、「日ロ首脳会談」と、それに対する「アメリカの反応」について予言しています。
とりわけプーチン大統領との首脳会談は、シリアで失敗したオバマ大統領に、さらに大きな恥をかかせることになる。
(同上)
そうはいっても、ルトワックさんは、「だから日本は、ロシアに接近するな!」とは言いません。
短期的には、今日の日本政府の日常業務のなかで、アメリカとの連携は最優先事項だ。そういうなかで同時に長期的な視点も見据えながらロシアとの関係も構築していくのは骨の折れる作業だが、日本にとって極めて重要なのは明らかだ。
(p147)
つまりルトワックさんは日本に、「アメリカとロシア、両方と仲良くすることが重要だ」と言っているのです。
総理は、「アメリカの覇権維持を望む」と断言せよ
現在世界には2つの極があります。アメリカと中国です。それ以外の国々は、「どっちにつくのがお得かな?」と悩んでいる。しかし、これははっきりしています。民主主義のアメリカの方が、共産党の一党独裁で、言論、信教、結社などの自由と人権が全然ない中国より「まだマシ」に決まっています。
ソ連時代、その影響下にあった国々は、みんな「共産党の一党独裁」でした。中国が覇権国家になれば、その支配下におかれる国は、どこも「一党独裁」になるでしょう。そして、中国共産党は、「信教の自由」を認めません。もし日本が中国の支配下に入れば、もちろん「神道」「仏教」を自由に信仰することは禁止されるでしょう。そして、神道のトップでもある天皇陛下は、チベット仏教のトップ・ダライラマ同様、「亡命」ということになりかねません。いずれにしても、「アメリカの覇権」のほうが「中国の覇権」より「まだマシ」なのです。
見える「サンプル」もあります。韓国と北朝鮮は、同じ民族ですね。ところが、戦後アメリカの影響下にあった韓国と、ソ連、中国の影響下にあった北朝鮮。何と大きな違いが出ていることでしょうか?そして、哀れなチベット、新疆ウイグルのみなさん。こういう実例もありますので、安倍総理は、オバマさんに、「日本はアメリカの覇権を望んでいる。日本は、民主主義世界が崩壊しないよう、全力でサポートする決意だ!」と宣言するべきです(中国を批判する必要はない)。
和解直後の「不誠実」はしないこと
2015年4月、安倍総理は、「希望の同盟」演説で、アメリカとの関係を劇的に改善させました。ところが翌5月、3,000人の訪中団を送り、アメリカとの関係を即座に悪化させた。これは、ある女性に、「結婚したい!」といって喜ばせた。その翌日に、他の女性のところにいき、「つきあって!」というようなものです。
G7サミットで日米関係を修復したら、3か月ぐらい中国との関係は控え目にするのがよいでしょう。
ロシアとの関係を劇的に改善させた安倍総理。その副作用で壊れた日米関係を、G7で修復していただきたいと思います。
image by: 首相官邸
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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