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原因は年収の低さ? 日本人横綱がなかなか誕生しない理由

原因は年収の低さ? 日本人横綱がなかなか誕生しない理由

最近人気が盛り返してきた大相撲ですが、三横綱はいずれもモンゴル人で、多くの相撲ファンは日本人横綱の誕生を今か今かと待ちわびています。そもそもなぜ、日本人力士はモンゴル人力士に勝てないのでしょうか? メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』で、著者の池田教授は、力士の「年収」について言及し意外な「説」を唱えています。

大相撲とパトリオティズム

大相撲夏場所(2016年夏場所)は白鵬が37度目の優勝(12回目の全勝優勝)を飾って幕を閉じた。期待された稀勢の里は後半崩れてしまい、残念ながら綱とりはお預けとなった。13勝2敗の準優勝だから、来場所、優勝すれば横綱になれるかもしれない。スポーツにパトリオティズム郷土愛)は付きものだが、テレビを見ている限り、NHKの白鵬嫌い、稀勢の里贔屓はちょっとひどいと思った。多くの日本人は素朴なパトリオティズムから日本人の稀勢の里を応援していたようだけれど、天邪鬼の私は女房ともどもモンゴル出身の白鵬を応援していた。白鵬は恐らく相撲史上最高の大横綱なのに、なんとなく嫌われているようで残念だ。こんな大横綱と同世代を共にして、生の白鵬を見られる幸運に感謝した方がいいと思うのだけれどね。

いまや、外国人力士抜きでは大相撲は成り立たないほどだ。現在の3人の横綱は全員モンゴル出身だ。大相撲が日本の伝統文化と言うなら、それを支えているのは外国人ということになる。日本相撲協会と大相撲ファンは伝統文化を支える外国人力士に感謝した方がいいと思う。それでも、大相撲は外国人にも門戸を開いて、強ければ誰でも横綱になれるわけだから、制度としては真にフェアである。

大相撲初の外国出身外国籍の関取は、1967年3月場所で十両に昇進したハワイ出身の高見山である。高見山は幕内優勝1回、関脇止まりの力士であったが、人気は抜群で、私見によれば、後に大関、横綱に昇進した何人もの外国人力士を凌駕して、大相撲史上、最も人気のあった外国人力士だと思う。それはものすごい数のCMに出演していることからも明らかだろう。CM横綱という異名もあるくらいだ。高見山がなぜ人気があったかというと日本人のトップ力士より弱かったからだ。横綱輪島からは7個の金星を奪ったが(対輪島戦は19勝24敗)大鵬には11戦全敗、北の湖には8勝35敗だった。判官贔屓がパトリオティズムを上回ったのだろう。

高見山を嚆矢として、その後続々と外国人力士が大相撲に参入することとなった。外国人で最初に横綱を張ったのは曙で、高見山の弟子で同じくハワイ出身である。曙の後、貴乃花、三代目若乃花と相次いで日本人力士が横綱に昇進したが、若乃花の昇進(1998年)現在に至るまで日本人の横綱は誕生していない。若乃花の次の横綱は武蔵丸でハワイ出身、その後の、朝青龍、白鵬、日馬富士、鶴竜はすべてモンゴル出身の横綱である。モンゴル出身の横綱は同時代の日本人力士よりはるかに強く、これが高見山に比べ、あまり人気の出ない理由だろう。こういった事情を考えれば、稀勢の里の横綱昇進を待ち望むファンが多いのも頷ける。

モンゴル人力士とさして体形が変わらない日本人力士がなぜトップに立てないのか。人口はモンゴル(287万人)より日本(1億2711万人)の方がはるかに多いのだから、不思議な気がしないでもないが、日本人で最も運動神経がいい若者は大相撲を目指さず別のスポーツに進むのだろう。逆にモンゴルでは最も体格や運動神経に優れた若者が関取を目指すのであろう。

日本人が関取になりたがらない理由はわかるような気がする。トップになっても年収が低い。関取の収入は日本相撲協会から月給で支払われており、関取は自営業者ではなく基本的にはサラリーマンなのだ。 横綱の月給は282万円大関234万円三役170万円平幕130万円十両100万円と案外安い。これに報奨金、諸手当、懸賞金などを加味しても、並みの横綱で年収5千万円大関4千万円平幕2千万円十両1500万円くらいにしかならないようだ。強い横綱だと1億円を超えるというが、それでもプロ野球やプロサッカーのトップ選手に比べればはるかに低い。稼げる期間はせいぜい15年くらいだし、怪我も多く,場合によっては再起不能になる。無理に太らなくてはならないので、健康を損ねることも多く、さらには相撲という格闘技の性質上、活性酸素がたくさん排出され、組織を傷つけ易く、ために平均寿命は、一般人より、はるかに短い。近年なくなった幕内力士経験者の平均寿命は60代の半ばに満たないと思う。力士は、文字通り命を削って相撲をとっているのである。

あれやこれらを考えると、これからもモンゴル人力士を凌駕する日本人力士は滅多なことでは出現しないような気がする。大相撲は日本の国技であり、伝統文化だと能書きを垂れたところで、それは、実のところ、モンゴル人力士たちが削った命の上に成立しているようなものなのだから、大相撲を愛するのなら、モンゴル人の横綱にはもっと敬愛の念を持って接した方がいいと思う。

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image by: J. Henning Buchholz / Shutterstock.com

 

池田清彦のやせ我慢日記』より一部抜粋

著者/池田清彦(早稲田大学教授・生物学者)
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