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激辛なのにまた食べたい。中毒者続出「蒙古タンメン中本」のヒミツ

元『旅行読売』編集長の飯塚玲児さんのメルマガ『『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』。今回は温泉や旅行を離れ、セブンイレブンのカップ麺でも人気沸騰中、唐辛子で真っ赤に染まった激辛ラーメンが人気の「蒙古タンメン中本」店主・白根誠社長に、蒙古タンメンの魅力と歴史についてインタビュー。そこには赤い汁よりも熱い「情熱」のエピソードが隠されていました。

『蒙古タンメン中本』の蒙古タンメン

「おはようございます!白根です!」

板橋区の住宅街の一隅。 金髪に口髭を蓄えた店主は、「誠」と自身の名を染め抜いた真っ赤な鉢巻き姿で僕を迎えてくれた。

超激辛だが旨い、と全国的にも有名な「蒙古タンメンの歴史は、1968年に上板橋駅前に開業した中国料理中本に始まる

店主は、白根さんが「先代」「オヤジさん」と呼ぶ中本正さん。

最初はどこにでもある町の中華料理屋だったという。 

「あるとき、お客さんがラーメンに麻婆豆腐をかけて食べていて、それを見たお客が『オレにもかけてよ』、と。 それが始まり」と白根さん。

先代は自身も辛い物好きで、創業当初から辛いメニューを追求していた。

通常の麻婆豆腐はひき肉などが入っているが、純粋に辛さだけを追求し、豆腐だけを具にした“辛子麻婆豆腐”にたどりいた。

「うちのラーメンはただ辛いだけじゃなくて旨味とコクがある。 先代が試行錯誤の末にたどり着いた味」と白根さん。

「食用蛙はダシにならないか、とか、信じられないようなことでも何でも試してみたとか。 なにしろ、まったくのゼロから始めた完全オリジナルの味ですからね」。

結局スープは豚骨と鶏ガラ、野菜を煮込んだものに落ち着いた。

だが味を決めるのは、もうひと手間かけたスープ。 中華鍋で肉と野菜を炒め、前述のスープを注ぎ、独自の調合をした秘伝の味噌を溶く。

中本ではこのスープをさらに別の寸胴で煮込む。

野菜はくたっとする替わりにスープの味がしみ込み、スープには鍋料理の残りダシのように肉と野菜の旨味がにじみ出るのだ。

「あとはやっぱり一味唐辛子。 相当にいろいろなものを試したようです。現在も、先代の時から使っている千葉の業者の特製のものを、直取引で仕入れています」

「素材もレシピも、先代のころから一切変えていません」という蒙古タンメン800円。 辛い=寒い地方という先代のイメージから、独特のネーミングが生まれてきた

太い麺を辛子麻婆とともにひと口、ふた口とすする。 三口めくらいから甘みのある辛さが舌を直撃し始め、汗が滴り落ちる。 それでもスープを飲む手が止まらない。 半分を過ぎると唇の回りが痛い。

ところが食べ終わって30分もすると辛さは消し飛び翌日にはまた食べたくなってしまう……。 そんな、他店では味わえない辛さに魅了された常連客の一人が現店主の白根さんだった。

「最初はあんまり辛くて残しちゃった。 でも2度目に行ったときには、このスープやめられねえ、と。 もう、どうにもこの味が好きでね。中本のラーメン食べるために生きていた、みたいな日々もあった」

だがこの「中国料理中本」は、1998年に惜しまれつつ閉店。

困ったのは白根さんだけではないだろう。 辛いだけのラーメンは他にいくらでもある。 だが「蒙古タンメン」はこの店でしか味わえないのだ。

「すぐに連絡して後を継ぎたいと。 もともとラーメン屋をやりたいって思っていたから。 もちろん、最初は門前払いでした」 

白根さんは何度も繰り返し思いを伝えたが、頑固な先代は首を縦に振らない。

白根さんはここで一度諦めたという。

だがあるとき、どうしても中本のラーメンが食べたくてたまらなくなった。

再び中本さんへ電話し、材料費を持つからオレのために作って、と懇願した。

しかし、その思いは聞き入れられなかった。

白根さんは落胆しながら“お愛想的な気持ちで”こう言った。

「ラーメン屋はやりたいと思っていますから、今度ラーメンの話を聞かせてくださいって。 そしたら『じゃあ今度酒でも飲むか』と。 それから何度か酒を飲んだ。 そのころかな、もしかしたら継げるのかなと思ったのは。それで、やっぱり中本やりたいですって言ったら、『今でも本当にやりたいという気持ちがあるなら』ってね」

そこからはトントン拍子に話は進んだ。 中本さんの自宅で作り方を修業し、開店準備は着々と進んだ。 だが「中国料理中本」の名で店を開くことは許されなかった。

「でも最後には『やっぱり中本でやれ』って。 それでも『中国料理中本』はダメで『蒙古タンメン中本』にしろと。 最初は格好悪い名前だなぁと(笑)。今ではインパクトのある店名だって感謝していますね」

復活を熱望されていた中国料理中本は、常連客だった白根さんによって2002年2月、「蒙古タンメン中本」として復活。 その後、店の業績は伸び、現在では本店の他にいくつも店舗を構えるまでに成長した。

「よくね、ラーメンは日々進化しているから毎日味が変わる、という話を聞くけど、蒙古タンメンはオヤジさんから数えて40年の歴史がある。完成した味だから、変える必要もない。 この味を変えずに守っていくことこそが、オレの仕事だと思います」

蒙古タンメンよりさらに辛い「北極ラーメン」のスープを作る白根さん。1日に使用する一味唐辛子は、1店舗あたり8キロにもおよぶ

鉢巻きのの文字は、先代と先代の味を愛してくれたお客さんに対してその味を頑固に変えないという誠意」が浮かび上がったもののようにも見えた。

 
Shop Data
『蒙古タンメン中本 上板橋本店』
所在地/東京都板橋区常盤台4-33-3 浅香ビル201
営業時間/10:40~翌2:00、無休
アクセス/東武東上線上板橋駅下車すぐ
http://www.moukotanmen-nakamoto.com/
 
*2009年『新しい飲食店開業』掲載記事を加筆して転載しました

 

『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』より一部抜粋

著者/飯塚玲児
温泉業界にはびこる「源泉かけ流し偏重主義」に疑問を投げかけた『温泉失格』の著者が、旅業界の裏話や温泉にまつわる問題点、本当に信用していい名湯名宿ガイド、プロならではの旅行術などを大公開!
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