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英バーバリーに逃げられた「三陽商会」が赤字に転落した本当のワケ

バーバリーとのライセンス契約終了後、大幅の赤字が出る見込みとなったアパレル大手の「三陽商会」。なぜバーバリーは業績好調だった三陽商会との契約を打ち切ってしまったのでしょうか。無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんは、両社の間に「ブランド戦略に対する相違があった」との見方を示しています。

「バーバリー」を失った三陽商会が赤字に転落へ

「バーバリー」の国内ライセンス契約が切れたアパレル大手の三陽商会は6月24日、2016年6月中間期の純損益見通しを15億円の赤字に下方修正したと発表しました。前回発表ではゼロとしていたので、赤字への転落となります。

バーバリーを失った影響が大きく、後継ブランドが育っていないことが大きく影響しました。同社は、百貨店販路を主体とした春夏物商品の販売不振繰越商品在庫の評価減(約27億円)を理由として挙げています。

また、主力のアパレル事業の販売不振を受けて、全従業員の約2割に当たる約250人の希望退職を募集することも発表しました。

バーバリーのライセンス契約の打ち切りが業績悪化につながった

同社におけるバーバリーの業績は非公開ですが、収益の過半を稼いでいたとも言われています。バーバリーの国内ライセンス契約が切れたのは2015年の6月末です。それまでの同社の業績は好調に推移していましたが、契約が切れた直後に一転して悪化したことが確認できます。

同社の売上高はリーマンショックの影響で低下傾向にありましたが、その後は持ち直していました。2011年12月期は1,046億円、12年は1,076億円、13年は1,063億円、14年は1,109億円と右肩上がりで推移していました。

しかし、バーバリーのライセンス契約が切れた後の15年の売上高は974億円と前年同期比12.2%減となり、1,000億円を割り込んでしまいました。本業の儲けを示す営業利益は35.6%減、純損益は58.9%減と大きく落ち込みました

バーバリーの影響力の大きさは計り知れなかったようです。バーバリーの後継ブランドとして、「マッキントッシュ ロンドン」「ブルーレーベル・クレストブリッジ」「ブラックレーベル・クレストブリッジ」をスタートさせました。「ブルーレーベル・クレストブリッジ」は「バーバリー・ブルーレーベル」、「ブラックレーベル・クレストブリッジ」は「バーバリー・ブラックレーベル」の後継となります。

バーバリーのブランド力は非常に強力で、バーバリーの名前が冠されているのといないのとでは大きな違いがあります。後継ブランドはバーバリーを象徴するチェック柄を継続使用しています。しかし、デザイン性と同じかそれ以上に「バーバリーの名前とブランドイメージが消費者の購買の決め手となっていました。後継ブランドはバーバリーほどのブランド力を確立することはできなかったのです。

英バーバリー社のブランド戦略との相違

バーバリーのライセンスを三陽商会に提供していたのは英国のバーバリー・グループです。ライセンス契約が切れた影響で三陽商会の業績は悪化しました。しかし、それまでは日本でのバーバリーの業績は好調で、その恩恵をバーバリー・グループも受けていたはずです。それではなぜ、バーバリー・グループは三陽商会へのライセンス契約を打ち切ったのでしょうか。

バーバリー・グループと三陽商会との間に、ブランド戦略に対する相違があったことが大きな理由であると私は考えています。三陽商会が販売していた「バーバリー・ブラックレーベル」と「バーバリー・ブルーレーベル」は日本独自のブランドです。値段は英国本家の「バーバリー」ブランドと比べてもかなり低く設定されていました。ブランドイメージという観点では、別物と見てもいいほどの違いがあったのです。

バーバリー・グループは「バーバリーブランドの強化を世界的に進めていこうとしているようです。そのことは同社の『Burberry Strategic Report 2015-16』から読み取ることができます。同レポートの「会長の手紙」に「The Burberry brand has never been stronger.(バーバリー・ブランドは強くありませんでした)」(訳は筆者による)と記されていて、これまでのブランド力の弱さに対する危機感が示されています。

同レポートの「CEOの手紙」では「Brand first」が掲げられ、その一つとして「大きなブランドの一貫性の追求におけるもう一つの重要なマイルストーンは、35年間のライセンスの終了と過去10年間でグローバルな事業の構造的統合の最後の大きな一歩を記念して、日本のグローバルコレクションの完全な立ち上げを行いました」(本文は英語表記、日本語訳は筆者による)と記述されています。

以上から、バーバリー・グループが三陽商会へのライセンス契約を打ち切ったのは、バーバリーのブランド力を強化するための戦略の一環であることがわかります。バーバリー・グループは、三陽商会にライセンスを提供して短期的な収益を確保していくのではなく、ライセンスの提供を打ち切って独自でバーバリーのブランド力を強化していく戦略へ舵を切ったのです。

卵は一つのカゴに盛ってはならない

しかしながら、三陽商会へのライセンス契約の打ち切りはかなり前から分かっていたことでした。ライセンス契約は1999年に締結され、2020年までとしていました。しかし、09年10月に、ライセンスの契約を15年までとすることで合意したと発表しています。09年には分かっていたことでした。

09年から今に至るまで、バーバリー以外のブランドを育てることができなかったことが三陽商会の現状の不振につながったと考えることができます。バーバリーに頼りきった経営のツケが回ってきたようです。

このことから学べることは、大きな一つの柱に依存した経営は危険であるということです。投資の世界に「卵は一つのカゴに盛るな」という格言がありますが、これは経営にも当てはまることといえるでしょう。一つのカゴを落として卵を割ってしまってもいいように、カゴは複数持っておくべきといえそうです。

image by: Wikimedia Commons

 

店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業
著者/佐藤昌司
東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。
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