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【書評】日本人が見抜けない、外国人の「ウソ」と「騙し」のテクニック

世界では、日本の「嘘はダメ。正直者であれ」という考えよりも、「嘘をうまく使うことは当然である」という思考をする人々の方が圧倒的多数のようです。しかし、その「事実」に気付かず海外で失敗する日本人は後を絶ちません。無料メルマガ『日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信』では、日本人が知っておくべき国際社会における「嘘」と「騙し」を客観的に分析した1冊を紹介しています。

なぜリーダーはウソをつくのか

なぜリーダーはウソをつくのか
ジョン・J.ミアシャイマー・著/奥山真司・訳 五月書房

この『なぜリーダーはウソをつくのか』のエッセンスを一言でいえば、

「国家のリーダー同士は互いにそれほどウソをつかないが、国民に向けてはウソを頻繁に使う

という意外な結論にある。まさかこのような結論に至るとは、原著者であるミアシャイマー教授自身も「最初は信じられなかった」と書いているが、たしかに歴史を紐解いてみると、国家間のやりとりにおいて明らかなウソが使われた事例はあまり認められない、という説明には説得力がある。

つまり本書の意義は、原著者であるミアシャイマー教授の意図する通り、「摩訶不思議で厳しい国際政治の新しい面を知る」ということにある。

そして、本書の優れている点はそれだけではない。この本には、これまでに私が訳してきた幾つかの書籍と同様に、私たち個人にとって非常に多くの「発想のヒントや興味深い示唆を与えてくれるのである。

現実世界では、この本は具体的にどう役に立つのか?

我が国では「ウソはついてはいけない、正直に生きよう」という、素晴らしい文化的伝統が現在まで脈々と受け継がれているが、異文化との衝突、異民族との間の殺戮合戦をくり返して、否応無しに身も心も鍛えられてきた諸外国の人々にとっては、「ウソをうまく使うことはある意味当然である」という認識・意識が厳然と存在していることは否めない。

ところがグローバル化した現在の世界情勢下においては、諸外国と外交を行う際に、相手の繰り出してくる「ウソ」や「騙し」に対して、日本人だけが極めて鈍感であり、国際社会の冷酷な現実を知らない、というのがいかに致命的でナイーブ」なものであるかは容易にご理解いただけよう。

我々日本人が普段ほとんど行うことのない知的作業、すなわち「ウソ」そのものを「分類」する、という極めて特殊なことを行っていることに、この本の意義がある。

ミアシャイマー教授は今回の著書の中で、「ウソ」だけでも

  1. 「戦略的」
  2. 「自己中心的」

なものの二種類があること、そしてさらに、「騙しの仲間として

  1. 「印象操作」
  2. 「秘匿」

という二種類を挙げて、詳細な分類を行なっている。

必ずしも論理的思考に慣れているわけではない我々日本人からすると、「そのような『理屈っぽい』知識など何の役に立つのだ!」と、思ってしまいがちである。しかし、今後、グローバル化が増々進む世界において、日本人が外国人と交渉・折衝を行う際には、このような知識はデフォルトとして認識しておくべきものなのだ。そして本書からはそのような普通のビジネス本には書かれていない、基本的な認識・知識を大いに学ぶことができるのである。

たとえば「印象操作」に類するものは、実際に日本でも、就職活動などをはじめ、ビジネスの現場においてはごく日常的に行われている、ということは、いかに「ナイーブ」な我々でも、リアルに実感出来るのではないだろうか。

そして、外国の友人やビジネスパートナーがいる方であれば、ある程度は実感していると思うが、彼らは「ウソそのものはあまり言わない代わりに、「印象操作」や「秘匿」を駆使した、「騙しを日常的に行っていることが理解できるのだ。

本書はそれ以外にも、日本国内はもちろん、海外のメディアの情報を分析する際などに、彼らのいわゆる「レトリック」などを見抜くのに活用することができる。

たとえば、ある一つの情報が報じられた際に注目すべきは、その情報が「何を報じたのか?」ということよりも、「何が報じられなかったのか?」という点にあることは、情報分析の初歩の初歩である。

つまり、この「知らされなかった部分」を本書の内容に即して言えば、「戦略的隠蔽秘匿」になるのだが、これを知るために伝統的に使われてきた手法が、いわゆる「スパイ」であり、それに関する活動などを学問的に研究しようということで最近注目されているのが「インテリジェンス」という分野である。

更に、このスキームを「個人の分析に適用してみることも可能だ。まさか本書のアイディアが個人に使えるはずがない、と思われるかもしれないが、発想豊かに拡げ、分析の対象・範囲を拡大して解釈してみると、例えば、「自分の正直な気持ちにはウソをつきつつ、他人には素直な気持ちを話している」といった行動を取る人がいることにも、なるほど、納得出来るのである。

つまり自分を客観的に分析する際にも、このミアシャイマー教授のスキームは多いに活用出来るわけである。

本書を実際に手にとって読み始めて頂けば直ぐお気付きになると思うが、ミアシャイマー教授のその他の著書と同様、各章毎の構成がスッキリとした論理構造になっているので、その構造の大枠さえ先に掴んでしまえば、自らが興味を惹かれた章から読み進めるのも良いかもしれない。

それよりも重要なのは、これから先、我が日本国が対峙せざる得ない、諸外国との厳しい交渉・折衝の場において確実にサバイバルするため「嗅覚」を本書お読みになったみなさんも身に付けて頂きたい、ということだ。

それこそが「リアリズム」学派における世界的な泰斗であるミアシャイマー教授の著書を皆さんに紹介している、本当の狙いでもあるのだ。

image by: Shutterstock

 

日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信
国際情勢の中で、日本のとるべき方向性を考えます。情報・戦略の観点から、また、リアリズムの視点から、日本の真の独立のためのヒントとなる情報を発信してゆきます。
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